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第13話 狩猟

 私達二人はこそこそと猟館の奥へと一時退避する。


「三人を一度に相手するのは分が悪い。二対一を三回ならこちらが有利だ。上手くバラけてくれているといいが」


「遠距離から一匹だけでもやっつけられないかな」


いくつかの扉を当て勘で開けていく。

ついに武器がずらりと置いてあるお目当ての部屋を見つけた。

私は立てかけてある弓やボウガンの中から、一際大きな弩を取り出した。


「ナオミ、それは弓が強すぎて巻き取り機がないと装填できないタイプだ。他のものにしたほうがいいぞ」


「ん、たぶん大丈夫」


私は腕に力を込めて弦を装填位置まで引く。

たしかにめちゃくちゃ固いが、いまの私ならいける。


「本当に、短期間で膂力りょりょくが増したな、ナオミ」


「この身体、性能いいよね」


私はボウガンに矢をつがえると、ユスフとともに廊下に出た。

廊下の20メートル程先にはマツカサトカゲのサウリアンがいた。

私はそいつが何か言う前に即座に引き金を引いた。

胸に極太の矢を生やしたマツカサトカゲは武器を取り落としつつも、その場に踏みとどまる。

私はボウガンを放り捨てて剣を抜き、速い摺り足で距離を詰めると、無言でめんを叩き込んだ。

マツカサトカゲは頭から脳漿を撒き散らしながら倒れた。


「まずは一匹」


 再びボウガンに矢をつがえて廊下をゆっくりと進んでいく。

背後にユスフ以外の気配を感じて振り返るも誰もいない。


「上だ!」


ユスフの声で私は咄嗟にボウガンを天井にむけ、放った。

黒い影が真上から落ちてきて、私の身体に組み付いた。


「チチリーをよくもやってくれたな」


私は会話に応じず、ヤモリのサウリアンが絡みついたまま、壁にタックルをかました。

ヤモリのサウリアンはグェッという悲鳴を上げて、その手からは力が抜ける。

私はサウリアンをふりほどくと、相手が獲物を構え直すより先に、ボウガンの銃床でその頭をぶん殴る。

二度、三度と連続で殴りつける。

サウリアンの目に銃床が当たりドロッとした液体が流れ出した。


「まて、待ってくれ、助けてくれぇっ」


私は銃床をもう一度振り下ろす。

銃床は砕けてサウリアンの頭に突き刺さった。


「はぁ、はぁ、二匹目」


「ナオミ、やり過ぎだ。落ち着け」


サウリアンの頭は胴体にめり込んでいた。

ぐちゃぐちゃの死体を改めて見ると、甘酸っぱい液体が口の中に込み上げてくる。


「君は先ほど口の形で、ぶっ殺そう、と言ったが、何が何でも全員殺す気なのか?こいつらは悪人だが、魔物ではない」


「ぶっ飛ばそう、って言ったつもりだったんだけど」


私の精神は行動の全てを統制できていないらしい。


「拙僧の教義を押し付ける気はない。しかし、命乞いをするものを殺すのは、君の世界の神も是しとはしないのではないか」


「神のことは知らないけれど……そう、士道に反するわね」


私は小学生のとき、試合中にこけた同輩に対して二度三度と剣を振り下ろして破茶滅茶に先生に怒られたことがある。


八代やしろ、お前には武士の心がない。士道に反している、か」


 ホールには、両側面に骨の刃がついたクリケットのバットのような武器を構えたゲランが悠然と立っている。


「ははぁ、チチリーとモリソンはやられたか。嬉しいねぇ、俺は強い女が好きなんだ。そういう女をねじ伏せて、もてあそぶのがな」


ゲランは尻尾をゆらりと振った。


「ご期待に添えなくて申し訳ないわ。ねじ伏せられるのはあんたの方なので」


「言うねぇ」


私は相手の初動に合わせて出ばな小手を打った。

しかし、ゲランの腕は金属のような音を立てるばかりだ。


「ケケケ!サウリアンやイクスタンの練り上げた肉体は“盾鱗エスケール”に変化する。攻撃無効化がヤフー族の専売特許だと思うなよ」


その時、ユスフの声が背後から響いた。


「獅子の瞳よ。引き裂くかいなに力を与えよ、ナラシンハ!」


私の腕に力がみなぎる。


「ユスフ、補助呪文も使えたのね」


「最近使えるようになった。これも、な」


ユスフは4本の腕の内、2本で印を組む。


「黄金のころもよ。降り注ぐ矢の雨より守り給え。ヒラナカシプ!」


私の身体が一瞬金色に光った。

防御力、みたいなものが上がったということだろうか?

ユスフのの身体の脇から変な色の液がぶしゅぶしゅ噴出した。


「すまん。今の魔力ではこれで限界らしい。ただ、互角の条件にはなったはずだ……」


「わかった、ユスフは休んでいて。すぐにこのトカゲをぶっ殺すから」


「また……殺すという」


ユスフはガックリと膝をついて、その目から光が消えた。

気を失ってしまったらしい。


「誰が誰を殺すってぇ?」


私がユスフをチラ見した一瞬の隙をついて、ゲランはクリケットのバットみたいな武器を振り下ろしてきた。

私も大剣を振り上げ、鍔迫り合いの格好になる。

こいつの武器、フレーム部分が木材だ。

このまま力を込めればあるいは破壊できるかも?


「この剣が気になるか。これ、マクアフティルは芯が木で出来ているから、脆そうに見えるよなぁ」


ゲランが笑みを浮かべて剣(この変な武器、剣だったの?)をひねると、折れたのは私の大剣だった。


御神木ごしんぼくから切り出されたものだ。そんじょそこらのナマクラよりもよっぽど硬いのさ」


そのままの勢いでゲランは剣を押し付ける。

私の肩口の鎧が割れ、身体に熱い衝撃が走る。

深手ではないが、確実に斬られた。

私は後ろに飛び退いた。


「穴さえ付いてれば楽しむには十分だからな。邪魔な手足は切ってしまおう」


ゲランは剣をかまえると、じりじりと近づいてくる。

私は折れた剣を持ったまま、退がる。

壁際まで追い詰められた格好だ。

ゲランは舌なめずりをしながら、さらに寄ってくる。

私は折れた大剣を投げつけると、一か八か、背後の柱を全力で蹴り付けた。

奇跡的に狙い通り!

壁にかけられた剣が落ちてきた。

ゲランは、投げつけられた大剣を自身の剣で弾く。

小手が上がった。

私は上から落ちてきた業物わざものを引っ掴むと、ゲランの胴をないだ。

血飛沫が飛ぶ、しかし浅い。

ゲランは手遅れながら慌ててガードを下ろす。

私はすかさず横合いから小手を打った。

ゲランの両手首が切断されて転がり落ちた。

傷口から血が噴き出す。


「あ、あ、手が、手がァッ……参った、助けてくれッ」


膝をついたゲランがない手を合わせて懇願するような姿勢を見せた。

私は振りかぶった剣を、ゲランへと振り下ろさずにゆっくり構えを解いた。


「士道にもとる、か。わかった……手当てしてあげるから、雇い主を言いなさい」


「そ、それを言ってしまったら雇い主に殺されてしまう。助けてもらう意味がない」


「じゃあ、生かしておく意味も薄れたね」


私は再び剣に手をやる。


「わかった、言う言う」


ゲランは手首のない手で手招きのような動作をする。

耳打ちでもする気かな?

私はゆっくりとゲランに近づいた。

ゲランは突然立ち上がる。

斬り飛ばしたはずの手首が瞬時に生え、ギョッとした私が反応するより前に首を掴まれてしまっていた。


「“再生レナート”も俺たち固有の技だ。さて、もう楽しむのはあきらめて先に殺すか」


ゲランが首を掴んだその手に力を込める。

呼吸が出来ない。

視界が歪む。

やられた。

油断した。

その時、バキッという強めの音がした。

ああ、私の首が折れたのかな?


「が、は、てめぇ、だ、れ、だ」


苦痛が薄れて、視界がクリアになった。

目の前のゲランの側頭部をサーベルが貫いていた。

さっきの音はこれか。


「婆やを殺したのはお前だな?」


声の主がサーベルを引き抜くと、ゲランは私を離し、横倒しに倒れた。

尻餅をついた私を、二刀の剣士が見下ろしていた。


「間に合ってよかった。従妹いとこどの」


そこに立っていたのはローゼンダールの王太子、トロイエ殿下であった。

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