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ワイルド・ソルジャー  作者: アサシン工房
第1章 傭兵と軍人
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第4話 拉致された貴族の少年

 夜が明け、朝がやってきた。高級ベッドで眠ることが出来て、2人にとってとても目覚めの良い朝だった。

 マティアスとハンニバルは互いに挨拶を済ますと、洗顔と着替えを終えて部屋を出る。

 廊下に出て階段を降りると、そこにはシュタイナー夫妻がいた。

 しかし、そこには息子のエーリッヒの姿は無く、夫妻は焦っている様子だ。


「おはよう。おかげで昨日はよく休めたよ。ところで何かあったのか?」


 マティアスが挨拶をし、事情を聞こうとする。するとハンスが動揺した口調で話した。


「実は……朝起きたら息子が部屋からいなくなっていたのだ。そして部屋には手紙が置いてあり、こう書いてあった。『息子を返して欲しければ3日以内に5万$を北のアジトに持ってこい』……と」


 どうやら何者かがエーリッヒの部屋に侵入し、身代金目当てで拉致したようだ。

 ハンスは息子を返してもらいに行くつもりだったのか、手には札束を握っている。


「これからこのお金を持ってエーリッヒを助けに行くよ。君達は安心して旅立ってくれ」


 ハンスは2人を気遣うが、マティアスは納得できずハンスに突っかかる。


「ここで言いなりになったら、ずっと同じことの繰り返しになるだけだぞ。エーリッヒは私達が助けに行く。そうだろう、ハンニバル?」

「よく言った! 俺達はここの人達に借りがある。今ここで恩返しをする時が来たってわけだ!」


 ハンニバルもエーリッヒの救出に賛同してくれた。

 少し前までのマティアスなら、金銭の取引が無ければ人助けなど引き受けなかっただろう。

 だが今のマティアスにとってここの貴族達は、荒んでいた自分に人の心を呼び戻してくれた命の恩人だ。

 何より弟のように愛らしいエーリッヒをさらった犯人が許せなかった。


「あぁ、ありがとうございます! どうか息子をよろしくお願いします」

「最近、生活苦で賊に堕ちてしまった兵隊崩れが民間人から略奪する事件が相次いでいるんだ。エーリッヒをさらったのもおそらくそいつらだ。この森を北に抜けた先に奴らのアジトがある。どうか気をつけて行ってくれ」


 シュタイナー夫妻は息子の救出を2人に依頼し、2人も必ずエーリッヒを救出すると約束した。

 2人は朝食を軽く済ませた後、屋敷を後にした。


 バイクでは停車中に盗まれたり破壊されたりする可能性が高い為、2人は徒歩でアジトがある方角へ向かう。

 10分ほど歩いたところで敵のアジトらしき建物を発見した。老朽化した白い建物で、廃墟だった建物を使ってるのではないかと思わせる外観だ。

 建物の入り口には、灰色のフードを被った兵隊崩れの男2人が機関銃を構えて見張りをしている。

 荒野にいた無法者達と違って、今回の敵は銃を持った元軍人だ。心して掛からなければならないだろう。

 マティアスとハンニバルは男2人の前に姿を現した。


「なんだお前らは! ここは関係者以外立ち入り禁止だ! これ以上近づいたら撃ち殺すぞ!」

「よく考えて銃を抜けよ。覚悟はあるんだろうな? 言っておくが、そんなオモチャは俺には通用しないぜ」


 男2人が銃を向けると、ハンニバルは自信に満ちた表情と口調で言い返した。


「なんだと!? おい、やっちまおうぜ!」


 男2人はハンニバルに向けて銃を連射した。しかし、ハンニバルは微動だにせず、ほぼ無傷の状態だ。

 ハンニバルは銃撃を受けつつ、そのままゆっくり男に近づいていく。


「こいつ……! 化け物かよ!?」

「これだけ撃ったからにはやられる覚悟は出来てるんだろうな?」


 ハンニバルは男に近づくと、その内1人の顔面を殴り飛ばした。男の顔面はハンマーで殴られたように潰れ、吹っ飛んだ首の付け根からは血が流れている。

 もう1人の男はその様子を見て怯えて固まっていた。その隙にマティアスが男の背後に回り、首を絞めつけ、そのままへし折った。男は首から先がおかしな方向に曲がって倒れている。

 マティアスは男から機関銃を回収し、武器を拳銃からこちらに切り替えた。


「相変わらず尋常じゃない強さだな、ハンニバルは。どんな鍛え方したらそんなに強くなるんだ?」

「お前こそ生身の人間にしてはなかなかやるじゃねぇか! やっぱり俺が見込んだだけのことはあるぜ! 俺はあいにく普通の人間じゃねぇんだ」


 この発言からすると、ハンニバルは人為的に肉体改造された人間、もしくは人間では無い生物なのだろうか。

 門番を倒した2人はアジトの中に入る。老朽した建物の外観とは裏腹に、内装は綺麗に手入れされているようだ。

 中を進むと、兵隊崩れが何人も徘徊している。


「大勢に気づかれると厄介だな。静かに各個撃破していこう」

「安心しろ。俺はこう見えても隠密行動が得意なんだ! サイレントに始末してやるぜ!」


 マティアスが作戦の提案をすると、ハンニバルは自信満々に受け入れた。

 視界の中の敵が一人になったところでハンニバルが突撃する。

 そして敵の頭部を掴み、壁に何度も叩きつけた。壁は凹み、敵の男は頭から血を流しながら悲鳴をあげている。

 さらに男が壁に叩きつけられる音が鳴り響いているせいか、周囲の敵がすぐさまハンニバルの元に駆け付けてきた。このフロアだけでなく、上の階からも次々と敵が流れ込んでくる。


(おい、何やってるんだよ……。全然隠密行動では無いじゃないか!)


 壁に身を隠しながらその様子を見ていたマティアスは呆れていた。

 しかし、同時にハンニバルが至近距離で銃弾を浴びても無傷の男であることを思い出した。

 そう、ハンニバルはあえて敵をおびき寄せてまとめて始末する作戦を実行していたのだ。


「マティアス! 今だ! 撃て!」


 ハンニバルが叫ぶと同時に、マティアスは門番から奪い取った機関銃で敵を次々と撃ち抜いていく。

 一方ハンニバルは近くにいる敵を片っ端から殴り倒していった。敵も機関銃による銃撃で抵抗するが、2人の敵では無かった。

 数十人の敵を倒したところでようやく落ち着いてきた。足元や周りには大勢の兵隊崩れの死体が転がっている。上の階に逃げて行った敵もいるのでまだ油断は禁物だ。

 マティアスは敵の銃弾を何発か受けており、撃たれた箇所からは血を流していた。


「マティアス、大丈夫か? ちょっと待ってろ、今治療してやるからな」


 ハンニバルはポケットから包帯を取り出し、傷口に巻いて止血処置を済ませる。


「ありがとう。これくらいかすり傷だと思っていたが、何発も撃たれるとさすがに痛いな……」

「お前は生身の人間なんだから無理するなよ。少し休むか?」

「いや、敵がまだ残っている以上、休んでいる暇は無い。こうしている間にもエーリッヒは恐怖で怯えているはずだ。先を進むぞ」


 2人は2階へ上り、通路を少し先に進むと広いフロアに辿り着いた。そこでは10数人の敵が機関銃を向けている。


「このまま生きて帰れると思うなよ!」


 敵は一斉に銃を乱射してきた。マティアスはこれ以上のダメージを受けないように、すぐさま近くの障害物の裏に隠れ、敵が回り込んでくる前に機関銃で撃ち倒していく。

 ハンニバルは前方に出て囮になりつつ、背中に構えていた巨大なバズーカを取り出した。そしてそれを片手で軽々と振り回して周囲の敵を薙ぎ払っていく。

 バズーカで殴られた敵は勢いよく壁に叩きつけられたり、頭部が吹っ飛んで即死する者もいた。

 ようやく敵を全滅させたかと思ったその時、瀕死の敵が1人這いつくばっていた。マティアスはその敵の頭部を持ち上げて問い詰める。


「答えろ。エーリッヒは今どこにいる?」

「あのガキはこの上の階にいる……。だが貴様らでは俺達のボスに勝つことは出来ん。地獄で待ってる……ぜ」


 最後の敵はそう言い残して息絶えた。上の階に敵のボスとエーリッヒがいるようだ。

 敵の最期の言葉から察するに、敵のボスはマティアスとハンニバルの力を持ってしても勝つことが難しい相手なのだろうか。


「ハンニバル、一度万全な体勢に立て直そう。銃弾の補充と、少しだけ休憩をさせて欲しい」

「そうだな、俺もちょうど一休みしたいと思ってたところだぜ」


 マティアスは敵が落とした機関銃から銃弾を取り出し、自分の持っている機関銃に補充した。

 ハンニバルは同じフロアにある部屋から冷蔵庫を見つけ、飲料の入ったペットボトルを2つ取り出した。そして、ペットボトルを1本マティアスに渡す。


「ほらよ、アイスティーしか無かったけど良いか?」

「気が利くな。飲めれば何でも構わないさ」


 2人はアイスティーを飲みつつ、しばらくの間休憩した。

 マティアスの傷が癒え、体勢が万全に整ったところで2人は敵のボスとエーリッヒがいる最上階へ向かっていった。

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