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●-8 障害

 私が初めて夕菜の姿を見たのは、生まれて一カ月くらいだった。

夕菜はNICU(新生児集中治療室)で機械で生かされていた。

私は、中には入れず、窓ごしに、

夕菜の姿をみた・・・。


姉は毎日面会にいっていた。

母乳を必死に絞り、それを病院に届ける。

赤ちゃんが吸うのとは違うので、

母乳を絞るのも、大変だった。

パンパンに張る胸、、痛みとの闘いだった。

けれど、姉には、今、自分にできる精一杯の事。

必死に、必死に絞っていた。


病院での様子を写真にとってくれ、私に見せてくれていたが、

写真でみる夕菜は、大きさもなんとなく想像するくらいで、

現実の出来事とは思えなかった。



実際、病院の窓越しにみる夕菜の姿は、

心が震えるくらい、私にとって、衝撃の大きいことだった。

夕菜は、とても小さく、白く、人形のようだった。

かろうじて動いている、胸の部分・・・。



夕菜は鼻から管を通し、ミルクを胃まで送っていた。

たくさんの機械につながれ、「ピッピ」という

夕菜の心臓の音が、耳をすますと聞こえてくる。

夕菜は、ピクリとも動かず、ただ、横たわっていた。


姉の表情は、笑顔だった。

ニコニコ、看護師さんとお話し、

保育器に入った夕菜の手を

そっと握って話しかけていた。


その姿を見ていると、涙があふれてきた。


しかし、帰りの車では、姉はポロポロと泣いた。

夕菜の前では、泣かない。

それが、姉の精一杯の気持ちだった。

どうして、夕菜なの。なんで??

答えようのない質問に、母は言った。


母:「あの子を否定しないであげて・・・。」

  「あの子は生きてる。懸命に生きてる。」


姉は、母にしか当たるところがなかった。

誰のせいにもできない現実に、向き合うことができなかった。


姉:「お母さんにはわかりっこない。」

  「私とゆぅは、元気に生まれてきた。」

  「障害を持つ子を生んだ私の気持ちなんてわかるはずない!!」


母:「じゃあ、あなたは、わかるの??」

  「大切な娘が、障害を持った子供を抱えているのに、

   何もしてあげれない母親の気持ちが!!」


姉は、何も言えなかった。

ただ、涙を流し、泣いていた。

そして、母も・・・・。



私は、休みの日は、いつも面会についていった。

ある日、奇跡がおこった。

夕菜が自分でしっかりと呼吸しはじめたのだ。

しっかりと心臓をうごかし、人工呼吸器をはずし、

安定したピッピという心音が聞こえてきた。

小さいからだは、動くことはなかったが、

もしかすると、これからずっとはずすことができない

かもしれないといわれていた、大きな機械が。。。

はずれた・・・・。


私は、窓からだったが、そのピッピという音に感動した。

小さい、小さい命。

普通に当たり前にうまれてくるものだとおもっていた。

そして、お母さんになり、成長の過程を楽しみに見守る。

けれど、夕菜は違った・・・。

呼吸すら、できず、体すら満足に動かせない。

口から、おっぱいを飲むことも、

泣くことすらできない。

当たり前におもっていたことすらできず、

できないことの方が多かった。


障害を持ち、生まれてくるということは、とても大きいこと。

障害と真剣に向き合うことは今までなかった。

面会のたび、私は夕菜をみていると、

自分が恥ずかしく思えてくるようになっていった。


(いったい、私は何をしてんだろう・・・。)


当たり前に生きてきた自分が情けなく、

夕菜に申し訳なく思えた。

小さい体にたくさんのチューブをつけ、

泣くことも、笑うこともできない夕菜、

けれど、必死に心臓を動かし懸命に生きようとしている。


それなのに・・・。


私は、五体満足で生まれ、病気もせず、元気な体なのに

目標もなく、ダラダラと生きている。

私こそ、生きている価値がないように思えた。


この時、思った。


姉を、、夕菜を、、、支えよう。


私は姉に手紙を書いた。


●SISTER●へ


出産おめでとう!!

頑張ったね!


いっぱい涙も流したね。


これから、何があってもみんなで夕菜と一緒に生きていこう。


だから、一人で悲しくならないで。


夕菜が生まれて、ゆぅは、自分が情けないっておもった。

もっとちゃんと生きなきゃって。

そう思えたのも、夕菜のおかげだよ!!!

生まれてきてくれた意味がそこにある。


おねえちゃん!!生んでくれてありがとう!!


              ゆぅより




序所に、姉は、母の言葉を頼りに前に進み始めた。

母が、姉を平手でぶったこともあった。

泣きながら、姉の頬をぶつ母・・・。


母:「しっかりしろ!お母さんは、あなただけなんだから!」


母がいなければ、姉は向き合うことはできなかっただろう。

母が、大きく見えた。


夕菜は体重も増えず、熱をよくだし、ヒヤヒヤすることが多かった。

病院から電話があるたびに、心臓がバクバクしていた。


(お願い、死なないで。)


もちろん、夕菜が心配だった。

けれど、その時の私は、夕菜よりも、姉が心配だった。

夕菜に何かあれば、姉はダメになる。


(お願い、、姉のために頑張って!!)


私は、毎日祈った。

神様に、、祈った。


そして、夕菜は、退院することが決まった。

安定してきたからだった。


姉は、看護師さんから、夕菜に必要な処置を教わった。


絶対に必要なのは、タンを吸引する機械。

夕菜は、自分で、唾液や、タンを飲み込むことができない。

それを、機械をつかって吸いとってあげるのだ。

まず、口から喉の奥に、チューブをつまんで回しながら入れ、

つまんでいる指を離し、回しながら抜く。

その次は、鼻から。同じように入れていくのだが、

鼻は、途中で引っかかってしまい、入りずらい。

自分だったらと想像すると、痛そうだった。

けれど、吸引をしないと、タンが気道に詰まって、

息ができない。

生命に関わる処置なのだ。


その次に、鼻から胃まで通しているチューブ。

交換や、抜けてしまった時、姉が入れるのだ。

胃まで入っているかどうかは、聴診器を使って確認する。


最初は、どれも、ぎこちなかったが、

姉は、とても上手になった。


私は、最初怖くて、何もできなかったが、

夕菜と一緒に生活するにつれ、

自然に、できるようになった。


鼻からのチューブに入れる、夕菜のご飯の支度や、

消毒、吸引など、なんでもできるように頑張った。


ご飯の後、よく吐いていたが、その時の対処も、バッチリだった。


私は、家にいるときは、いつも夕菜と一緒にいた。

遊びに行くこともほとんどなくなり、

姉と、夕菜との時間を多く過ごすようになった。


お腹の上に夕菜を寝かせ、一緒にお昼ねをした。

プルプルな肌は気持ちよく、

トローンとした大きな目は、私を癒してくれた。

笑うこともできない、泣くこともできなかった夕菜。


それが、ある時、急に泣いたのだ!!!!!

鳥のように唇を突き出し、


「うぉーうぉー!!」


と・・・・。

母も、姉も、私も、びっくりした!

悲しい顔をして、声をだした。


かわいくて、かわいくて、何度も泣かした。

夕菜も、母も、姉も、私も、、、、


笑いながら・・・泣いた・・・。



私はこの頃、よく夢をみていた。

夕菜はいつも夢の中でケラケラと手をたたき、笑っていた。

楽しそうに、みんなに見守られて・・・。


きっと、普段の生活でも本当はいつもケラケラと笑っていたのだろう。

表面にはでないが、きっと笑っていたはずだ。

私は、そう思う。


父は、夕菜を受け入れることができないでいた。

かわいそうだ。かわいそうだ。と毎日のように悲しい顔をしていた。

かわいそうだと思うことが、姉にとってとても苦しいことだった。


かわいそうじゃない。

夕菜はできないことが多い。

けど、できることが当たり前ではなく、

障害があることが、夕菜にとって当たり前なのだ。

誰よりも一生懸命生きようとしている。



それを、父にもわかってほしかったのだった。

生まれてきた意味を感じてほしく、

否定してほしくなかったのだ。


夕菜と同じ病気の子供の事を知るため、

私は本を読み始めた。

本など、読んだこともなかったが、夕菜のおかげで

本が好きになった。

たくさんの人の人生が、一冊の本につまっていて、

私が普段感じることのなかった感情を感じさせてくれる。

もっと知りたい。そう思うようになった。

脳性麻痺の子供をもつ親の書いた本はとにかく読んだ。

共感できることもたくさんあり、今から待ち受ける現実も、

少しずつ見えてきた。

どこまで回復するか、いつまで生きれるか、

大きくなれば、介護も大変になる。

読めば読むほど不安にもなったが、一人ではない。

胸を張って夕菜と生きていこう。

誰になんと言われても、私たち家族は分かっている。


思ったこと、感じたことは、姉、母と話をして、

みんな、同じ方向に向かって進んでいった。


姉の周りには子供を生んでいる人もたくさんいた。

どんな気持ちで健常者の子供をもつ友達をみていたのだろう。

私には、想像もつかない感情だっただろう。

どうしても、比べてしまっただろう。

比べてしまう自分に罪悪感を感じただろう。


けれど、姉は、堂々としていた。

胸をはり、夕菜を連れて歩いた。


「鼻についてるのはなに?」


子供に聞かれても、凛とした態度で、


「この子は、病気でお口からご飯が食べられないの。」

「だから、これをつけてるんだよ。」


夕菜は、成長が遅く、体重も増えず、いつまでも赤ちゃんだった。

まだ、三か月位??と聞かれることもよくあった。


夕菜との生活は、私たち家族にとって、

いつまでも消えることのない、素敵な思い出。

絶対に忘れない。


生まれてきてくれてありがとう!!夕菜。






  ●心の目●


 私は今、夢を見ています。


 大空の下で手をたたき、


 大きな口を開けて笑っている


 あなたの夢を



 私の世界では見えないけれど


 あなたは、ちゃんと笑ってる


 ちゃんと生きてるよ



               ゆぅ
















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