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●-7 夕菜(ゆぅな)

 



平成10年11月17日。



私の天使・・・夕菜は、産声をあげることもなくこの世に生まれてきた。








 ● 花 ●



 そこに咲いている花


 近くでまじまじと見つめた


 太陽の匂いと、風の暖かさを感じた


 

 目をつぶると、いつもの世界がみえてくる


 言い争い、地位、名誉のための生活


 自己満足の毎日


 

 そんな中・・・スクスクと育つ


 何も知らない振りをして


 

 気づかせてくれた


 そのために咲いてくれた



 夕日の中に咲く菜の花・・・




病院からの電話は、たんたんと、説明してくる女のひとで

今から、これますか??といっていた。


母の顔色はかわっていた。

冷静を装っていたが、目を見れば動揺していることがわかった。


母は、急いで車で家を出て行った・・・。


私は、一人部屋に残され、自分の心臓がとても早く

鼓動していることを感じていた。


(息をしていないってどういうこと???)


(死んだってこと??)


(別の病院に運ばれた??)


(姉は??このことをしっているの??)



私は、ユウタに電話した。

ユウタは、迎えに来てくれ、

姉のいる病院へ送ってくれた。

その間、会話はなかった。

ただ、呆然と、『息をしていない』

という言葉を繰り返していた。


ユウタは、待合室でまってくれた。

大きな手でポンポンと頭をたたき、笑顔を見せてくれた。


私は、姉がいる病室へむかった。

病院の廊下は、とても暗かった。

赤ちゃんの泣く声が響いていた。


(ねえちゃんに何ていえばい??)


(大丈夫だなんて言えない)


姉は、ベットに横になったまま、天井を見ていた。



私と目が合った姉は、にっこりと笑い・・・涙を流した・・・。



夕菜は、すぐに大きな医療機関の整った病院へ

救急車で運ばれたのだった。

母は、そっちの病院へ行っていた。



長い陣痛に耐え、やっと生まれてきた夕菜。

けれど、抱くこともできず、

離れ離れになってしまった。

状況もわからないまま、ただ一人、病院のベットにいる姉。

笑顔を作り、精一杯きっと大丈夫だよと、私に伝えていた。

その姿は、母だった。

とてもキレイだった。


病室へ戻ってきた母も・・・。

腫らした瞼で、精一杯の笑顔で


「大丈夫だから・・・。」


そういった。



どうだった?と不安そうに聞く姉に、母が説明を始めた。

それは、とても残酷で、信じたくない現実だった。



夕菜は、じぶんで心臓を動かすことすらできない状態だった。

出産が長引いたことで、脳に酸素がいきわたらず、

『脳性麻痺』とのことだった。


呼吸すら、自分でできていない状態だった。


今後、完全に回復することはないだろう。


どこまで、改善するか、何ができないか、

その答えも出せない。

そんな状態だと。


もしかすると、このまま、死を迎えると。


声を何度も詰まらせながら、母は姉に宣告をしたのだった。

涙をポロポロとこぼしながら、母は、現実を告げた。


だが、先生は言ってくれたと…。


子供の生命力は無限の力があります。

あきらめないで。



この言葉は、私たち家族にとってとても大きな言葉だった。



姉は、泣き崩れた。

ワンワンと母の肩で、泣いていた。


障害を持ち、これからどうるのかも、

まだ見ぬわが子がどういう状態なのかもわからないまま、

ただ死と隣り合わせなのだ。


本当ならば、家族全員で「おめでとう!!!!」

と笑顔で夕菜を囲み、写真をとっているはずなのに・・・

なぜ・・・。

どうして、よりによって姉の子が・・・。


どのくらいの時間だろう・・・。

私たち三人は、泣いた。


ユウタには、事情を説明し、帰ってもらった。

母は、父に説明するため、いったん帰った。

私は、姉のそばから離れられなかった。


泣きはらした後、姉が無理しているのを見ると、

胸が締め付けられた。

私に、心配しないでと、笑顔を作っていた。


そして、姉はこういった。


姉:「ゆぅ、元気な子、生めなくってごめんね・・・。」


私は、涙を我慢することも、言葉をかけることもできなかった。





私たちは、この日から、ひとつ大きくなれた。

それは、夕菜のおかげだ。

これから待ち受けている現実に、何度も挫けそうになりながら

生きていくのだ。

世の中の偏見、健常者との違いを感じ、

同時に、人の暖かさも知り、

生きているということ、障害というもの、母親というもの、

今まで考えたこともないようなことを、ひとつひとつ感じて、

喜び、そして悲しみながら生きていくのだった。














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