●-6 天使と出会うまで
ある時、姉から電話があった。
姉:「週末、泊まりにおいで!話しがある。」
「ちゃんと話したいから、いい??」
私:「わかった!!いくねーー!」
姉の声は、元気がなかった。
金曜の夜、私は姉の家にいった。
姉は、パジャマのままで、調子が悪そうだった。
少し痩せていた。
私は、姉の話しが、なんなのかなんとなくわかっていた。
姉:「妊娠したんだ・・・。」
「今、4か月・・・。」
私は驚かなかった。
最近の姉と話しをしていて、なんとなくそんな気がしていた。
姉の彼氏の話しも聞いていた。
私:「うん・・。どうするの??」
姉:「・・・産むよ!!」
「結婚はしない・・・。」
私はその言葉には驚いた。
私:「え???なんで???まじで???」
姉:「あの男とは結婚できない。」
「一人で育てる。もう、きめたんだ。」
姉の体はあまり丈夫ではなかった。
とても悩んで出した答えだった。
私:「母さんには???いったの??」
姉:「言ってないんだよね・・・。」
「おろせなくなるまで、待とうとおもって。」
姉は、本気だった。
子供の父親はまともに働いておらず、
子供ができたと聞いて、逃げたのだ。
姉と、夜通し話しをし、
明日、母に話すことにした。
姉も、母や、父に黙っていることに
ストレスを感じていた。
姉の頼みで、母との話しに私も立ち会った。
冷静さを失ったら、止めてと頼まれた。
母は、やはり大反対だった。
姉一人の問題ではなく、生まれてくる子供のことを
考えなければいけないと・・・。
姉:「父親がいなくても、幸せにできる。」
「父親がいるから、幸せとは限らない。」
母:「生活はどうするの?一人でどやってやってくの?」
駅の喫茶店でえんえんと話しは続いた。
昔の姉とは違い、落ち着いていた。
私は、パスタを食べながら黙っていた。
父親のいない子を産んで、姉、子供は幸せになれるのか・・・。
姉の気持ちを大事にしてあげたかったが、
私も母と同じ意見だった。
しかし、姉の意思は固かった。
臨月まで働いて、出産費用、働けない間のお金を貯める。
お金の面では迷惑かけない。
ただ、孫をかわいがってほしい。
姉の説得は続いた。
母自身もすごく悩んだであろう。
苦労するのは目に見えている。
だが、ひとつの命を大切にしたい。
そして、母は産むことを許した。
母:「子供を持つことは想像以上に大変なこと。」
「もうやめた!ということは、できない。」
「あなたが自分の人生をすべてこの子に捧げる
ことができる覚悟があるなら、産みなさい。」
「母さんも、一緒に守ってあげるから。」
母も、姉と同様、その時決心したのだろう。
この子を幸せにしようと・・・。
後は、父だった。
私:「一発くらいは殴られそうだね??」
姉:「だよね・・・。」
「絶対反対だよね・・・。」
私:「父親は誰だっていうよね??」
姉:「絶対教えない。教えたってどうにもなんないもん。」
私:「もし、ダメっていわれたらどうすんの??」
姉:「それでも産む・・・。」
休みの前の日、姉は家に来ていた。
父と話しをするためだった。
母は、事情は父に説明してあるといっていたが、
後は、自分でなんとかしなさいといった。
私は相変わらず父との関係はぎくしゃくしていたが、
家を出た姉を父はいつも心配していた。
姉は、緊張していた。
喧嘩になると、思っていたからだ。
が・・・父の反応は意外なものだった。
姉の話しを黙って最後まできき、こう言った。
父:「分かった、父さんが守ってやる。」
「死ぬまで働いてやる。」
「そのかわり、しっかりやれよ!」
父親のことも聞かず、無理した笑顔で
おじいちゃんかぁと笑っていた。
姉は、泣いていた。
息ができないほど、声を出し泣いていた。
父の不器用な言葉の中にあったかいものを感じ、
私も、父を少し見直していた。
姉は、臨月までびっしり働いた。
父親の分までしっかりろうと必死だった。
貯金もし、産まれてくる準備は整っていた。
私は相変わらずな生活を送っていた。
学校にバイト、遊ぶことで忙しかった。
姉は、出産のため、実家に戻ってきた。
姉との生活がまた、はじまり、私は嬉しくてしょうがなかった。
姉がいるので、父も機嫌がよく、喧嘩も無くなった。
私も、家にいることが多くなり、姉と子供の事をよく話し、
産まれてくるのを楽しみにしていた。
私:「ゆぅは、この子と手をつないで、散歩にいくの」
「そんで、妹にする!!」
「だから、かわいい子うんでよ?ぶさいくはいや!」
私は末っ子だったので、妹がほしくてしょうがなかった。
姉の子が女の子だとわかったときは、誰よりも喜んだ。
バイトの給料がはいると、子供の服を買い、
姉にプレゼントした。
私は、産まれてくる前から、こんなに愛されている、
この子が幸せだと、感じた。
父親はいない。
だけど、みんなに愛される。
さびしいおもいは絶対させない!
姉は、子供の名前を考えていた。
辞書を出し、字画を調べ、苗字とてらしあわせて、
一生懸命だった。
決まった名前は「夕菜」ゆぅな
私は、はじめからこの名前が好きだった。
姉は、私と同じ、ゆぅとつけたかったらしい。
なんだか、照れくさかった。
ほんわかした感じがみんなをあったかくしてくれる名前。
早く産まれてこないかなーー!!
大きくなった姉のお腹はかわいかった。
ピクピクと動き、この中に赤ちゃんがいるとおもうと
すごく変な感じがした。
まだ、お腹のなかなのに、愛おしかった。
私はたくさんの想像をした。
姉の買った育児雑誌を読み、勉強していた。
早く歩けるくらいになったらいいな!
ゆぅって呼ばせよう!
動物園とか、水族館にいきたいな。
将来の想像をしながら、にやけていた。
この時の私は、元気に産まれてくるのが普通だとおもっていた。
いや、障害を持つということすら、頭にはなかった。
当たり前に産まれ、当たり前に成長していく・・・。
きっと、多くの人がそう思っているだろう。
予定日をすぎた朝、姉が破水したのだ。
姉は急いで病院へ・・・。
私はやっと生まれる。やっと会える。
その日一日をとても幸せな気分ですごした。
学校にいてもソワソワしてしまい、
何度も母に電話をかけた。
しかし、今日は産まれそうにないと、母は言った。
家に帰っても、姉はいなかった。
次の日の夕方、家にかえると、母は仕事をしていた。
病院に付き添っていたが、予約があったのでいったんかえってきたらしい。
私は、電話の前で、病院から連絡があるのを待っていた。
そして・・・病院から電話があった。
少し前、生まれたと・・・
そして・・・・
子供が息をしてないことも・・・。