●-3 誰??
私は、まだ中学一年生だった。
世間を知らない、子供だった。
これからおこる異常な出来事は、
今でも鮮明に思い出せる。
不安をかかえ、自転車で家に帰った。
家の前に自転車を止め、玄関をみると、
いつもついている美容院の明かりが消えている。
(え??やっぱり何かあったのかな・・・。)
おそるおそる、玄関を開けた。
鍵はかかっていなかった。
お客さんが順番を待つ椅子に、姉が座っていた。
うつむいたまま、何も話かけてはくれなかった。
部屋をのぞくと、母がいた。
母は、台所でスープを温めていた。
母と目があった。
私:「ただいま・・・。」
「どしたん?」
母:「みてないん?・・・・。」
「そこ・・・・。」
母の指さした場所は、美容院のイスだった。
そこに目をやった瞬間、
私:「きゃーー!!!!!!!」
私は飛び上った。
そこには・・・・
美容院のイスにつながれ、イモ虫のように横たわる父がいた。
虫・・・。動いている。
手、足をしばられ、横たわり・・・
目は、固くつぶり、何かモゴモゴしゃべっている。
(これが、私のお父さん??)
その瞬間私は言った。
私:「何でこんなことするん。」
「おかしんじゃないの。意味わからん。」
私は、父のそばにいった。
しゃがみ込み、父の顔をのぞきこむと、
父:「殺されるーーー。」
と叫んだ。
母は、私に説明をはじめた。
私が学校に行ったあと、お風呂から出た父は二階へあがり
布団の上で、誰かと闘っていたらしい。
もちろん、その誰かはどこにもいない・・・。
母が止めに入ると、父は、ベランダから、
父:「助けてください!!!」
と、叫んだ。
姉と母は、父を家に引っ張ってつれてはいると、
父:「偽物だろ。わかってる。口をきいたら死ぬ。」
とわけもわからないことを叫んでいた。
父は、姉、母を殴り外に飛び出そうとする。
それを止めようと必死だったらしぃ・・・。
母や姉の体は、アザだらけだった。
二階の部屋のガラス戸は、割れ、机の上のものはすべて床へおちていた。
それを見たとき、父は、おかしくなったと理解することができた。
昨日の夜はなしたこと、それまでの父の行動・・・
もう、ずっとおかしかったのかな。
父は、飲み物も、食べ物も口にしていなかった。
毒がはいっていると言って口にはいれない。
母も、姉も、言葉もでてこないくらい、疲れ切っていた。
私は、父にポカリスエットをもっていった。
私:「父さん、、飲んで??」
すると・・・少し目をあけ、私を見た。
私はどきっとした。
父:「ゆぅか・・・。」
そう言って、飲んだのだ。
母は、びっくりしていた。
何度、持っていっても、偽物と怒鳴られ、
絶対のまないと口を固くつむった。
姉も同じだったらしい。
だけど、私がもっていけば、飲むのだ。
父に、ありがとうとまで言われた。
私は混乱していた。
私と話す父は、普通だった。
これからどうするのか、話し合った。
ひもをとけば、父は暴れた。
外へ出ようとし、ベランダで叫び、暴力をふるった。
それでは、母も仕事ができず、生活ができない。
仕方なく、父をベットに拘束することにした。
姉の彼氏をよび、父を二階につれてあがってもらい、
私のベットに大の字に縛った.
そして、理解できないような生活が始まった。
私は、動揺していたが、学校へいかなくてはならず、
昼間は家を空けていた。
その間、姉と母が父の面倒をみていた。
母が美容院で仕事をし、居間にもどると、
固くつながれていたはずの父が部屋の隅に体操座りをし
じっとしていたらしい、、、
じっとしていたかとおもうと、暴れだし、取り押さえる。
その繰り返しだった。
学校からかえると、今日おきたことを聞くのが日課になった。
今日は、普通に話をしたとか、
ずっと寝ていたとか、
毎日急いで家に帰った。
そのころ、私は誰にも相談できなかった。
信じてもらえないと思った。
父の姿を友達にしられたくなかった。
体育の時間、先生が、
「最近元気ないね?何かあった??」
と声をかけてきた。
目に涙があふれ、思わず泣いてしまった。
先生はとても心配してくれた。
けど、話すことはできなかった。
夏祭りのころ、父の騒動でなかなか遊びにいくこともできず、
姉が、彼氏と行くからゆぅもおいでとさそってくれた。
久し振りに忘れて、三人ででかけることにした。
母に浴衣をきせてもらい、髪を結ってもらい、父のそばに行った。
私:「いってくるね。」
ベットに横たわる父に私は言った。
私:「お土産は何がいい??」
返事は返ってこないと思ってきいたのだが、
父:「たこ焼き・・・。」
ぼそっと父はそういった。
父とお祭りにいくと、必ず二人でたこ焼きを食べた。
父はあつあつのたこ焼きをおいしそうに食べ、
どっちが多く食べれるか、競い合っていた。
心がギューっと締め付けられた。
私:「わかった!!まっててね。」
その日は、本当に楽しかった。
何も考えず、楽しくすごした。
帰り際、父のお土産のたこ焼きを買いまた現実へと帰って行った。
家に帰ると父は穏やかだった。
手は縛ったままだったが、座った状態で私は父にたこ焼きを食べさせた。
父はおいしそうにたこ焼きを食べ、その顔を見ていると、
涙が出てきた。
父さんはどうしちゃったんだろう。
なんで、こんなになっちゃった??
もう、もとにはもどらない??
何を考えているの??
心でそうおもい、涙を拭いた。
その日の父は、これまでにないほど穏やかな顔をしていた。
父:「ゆぅ、そこに座れ・・・。」
父が私を呼んだ。
ベットにつながれた父のそばに正座した。
父から呼ばれることは、ここ最近なかったので
少し緊張していた。
父:「・・・みんなに聞こえるから、小さい声でいうな。」
「愛してる。お前たちを愛してる。」
父は笑顔だった。
鬼のような顔をし、暴れ、ほどけーーと怒鳴る父ではなかった。
私:「ゆぅもだよ。」
父:「この紐は、ほどくなよ。絶対。」
そういい、父は眠った。
父の手は、皮がむけていた。
保護していても、あばれるとものすごい力で引っ張るので、
どうしても傷になってしまうのだ。
体を拭いたり、薬をぬったり、父の世話は、大変だった。
夜中になると、父は、また異常な父となった。
でっかい声で叫び、
「ほどけーー!!」
と、、、
わけのわからない言葉でしゃべり、
目が合うと私を威嚇した。
つばをはき、汚い言葉を使い、猛獣のようだった。
みんな、疲れ果てていた。
眠れない毎日。ほっとできる時間がない。
イライラし、私たちまで喧嘩していた。
ある日、私は、母に聞いた。
私:「どうして、病院へつれていかないの??」
「もう、無理だよ・・・。」
母:「ダメ。あなたたちが結婚できなくなる。」
母はそういった。
このころ、まだ、うつ病など心の病にとても大きな偏見があった。
精神病院にかよっているとなると、貰い手がいなくなる。
母は、自分が最後まで面倒をみると。
母:「だから、お願い。もう少しお願い。」
と、涙目でそういった。
母と父は喧嘩ばかりだった。
母は、父が嫌いなのだとおもっていた。
でも、一番、父、私、姉を想っていたのはやはり、母だった。
私:「わかった・・・。」
相変わらず、毎日が大変だった。
少しずつ、会話ができてきた父は、自分の状況が分かり始め、
だんだんと、元気がなく、死んだようにねむっていた。
こんな生活は、半年続いた。
父はもちろん、仕事はできず、家は火の車だった。
母の収入だけでは、生活できていなかった。
父がだんだんと冷静になっていき、紐をはずす時間も増えた。
一緒に、ご飯をたべ、昔の話をした。
父は小さくなっていた。
声に張りはなく、ボソボソとしゃべる。
たまに、
父:「誰かがみている!!」
とおびえ、布団にもぐっていたが、
そばにだれかいれば、普通に生活できるようになった。
私が寝ていた時だった。
夜中、目が覚め、目をあけると、父が私のそばにたっていた。
声がでなかった。
手にはハサミをもち、真っ暗ななか、私を見下ろしていた。
父は、そのまま無言で自分の布団にはいっていった。
いつか、殺される。
わたしは、自分の父親に恐怖をかんじていた。
父の状態は、日に日によくなっていった。
ながい時間はかかったし、昔の父ではないが、
また、一からやり直そう!!
みんなで励まし、父も仕事復帰をした。
この半年間、学校の記憶が一つもない。
頭の中は父のことで一杯だったのだろう。
心配はとてもあったが、もとに戻れる・・・。
そう思い、私はニコニコしていた。
だけど、父の異常な状態はおわったが、
闘いは、これからだった。