●-2 父の異変
私が中学に入学して初めての夏だった。
その時は気にもしていなかったが、このころもうすでに、
父の異変はおこっていた。
私は相変わらず、優等生だった。
仲のいい友達と楽しく学校に通い、部活もしていた。
夕方かえると父とテレビをみて、ご飯をたべ、また朝を迎える。
そんな、普通の生活をおくっていた。
姉は、入院していた。
母は姉の付き添いや、仕事でバタバタしていて、
家を空けることが多く、父と二人になることが多かった。
父は、ごはんを食べていると、机をたたき、音をだしていた。
「どうしたの??」
「何やってんの??」
そう聞いても、父は笑顔で
「いやー別に。」
といった。
ある時は、
父:「最近、誰かが話しかけてくるんだよね。」
私:「はぁ??」
父:「ハハハ!!!おかしいねぇ。」
私:「何いってんの??」
「なんて話してくるの??」
父:「暑いなぁぁって。」笑
私:「馬鹿じゃん。誰なんそれ。」
父:「んー神様??」
私は、父はまた、馬鹿なこといってんなぁと思っただけで、
まさか、本気でそんなことをいっているとは思ってはいなかった。
休みの日に、姉の病院へお見舞いに行った時のことだった。
姉は手術が終わり、ベットの上でしんどうそうにしていた。
父は、無言だった。
この頃の父は、あまり口をきかず、
楽しいおしゃべりも少なくなっていた。
父は
父:「ジュース買ってくる。」
といい、病室を出て行った。
すると母は、
母「ゆぅ、ついていって。」
私は、なんだなんだ??とおもいながら父のあとを追った。
父はむごんだった。
話しかけることもできず、エレベーターに乗り自動販売機を探した。
このとき、父がおかしいと初めて思った。
帰りのエレベーターで父は、
両手に持った缶ジュースを壁にぶつけはじめた。
二人っきりのエレベーターの中に、
「ゴーン、ゴーン」
と一定のリズムに鳴る音が響いていた。
私は怖くなった。
けど、何も言葉がでてこない。
父の表情は、変わることなく、目は遠くをみていた。
エレベーターが開くと父は、何もなかったかのように、
姉がいる病室へと歩いて行った。
私は、少しの間動くことができなかった。
(・・・。父さん、どうしたんだろう。)
(怖い。なんだったんだろう。)
それから、父の様子を観察するようになった。
父はいつもどうり仕事へ行き、ご飯を食べ、
普段と変わりない生活を送っていた。
姉も退院し、家族4人での生活が始まったころ、
私の人生が少しずつ変わっていった。
日曜日の夜、父がビデオをみようといい、
私は父と二人でビデオをみていた。
父は、映画が好きで、よく二人でビデオを見ながら夜を過ごした。
ビデオの途中で父は言った。
父:「今から話すことは、母さんにはまだ言うな。」
「約束できるか??」
私:「うん・・。どしたの??」
「なんかあった??」
父:「これから、何があっても、大丈夫だからな。」
「ワシがおまえを守ってやる。」
「だから心配するな。」
「わかったか??」
私:「うん・・・。」
「なに??なんかあったの???」
父:「遠くに行くことになっても、みんな一緒だから。」
「家族はずっと一緒だから。」
私:「え、、わけわかんないよ。」
「なに??どこいくの??誰と???なんで??」
「何いってんの??なんかあったのってば。」
私は、半泣きだった。
何か、まずいことが起こったのだ。
夜逃げ???誰かにおわれてるの??
どこにいくの??
一瞬でいろんなことを考えた。
私:「誰かに追われてるの??」
そういうと、父の顔が豹変した。
父は、むくっと起き上がり、私を起こし、
私の肩を強くつかみ、大きく揺さぶった。
父:「何でわかった。なんでだ。」
「誰からかきいたのか??」
「言え!!!言え!!!ゆぅ。」
父の大きな声にびっくりして、私は泣きだした。
私:「父さんの話きいて、そう思っただけだよ。」
「誰からも聞いてないよ。」
父は、私から手をはなし、
父:「心配するな。」
「ただ、母さんには、絶対にいうなよ。」
私:「え???母さんは一緒にはいけないの??」
父:「一緒だよ。」
「大丈夫、大丈夫だからな・。」
父は、泣いていた。
目を真っ赤にして、泣いていた。
それを見た私は、もう、何も言えなかった。
私:「わかったよ。」
そのまま、父は眠った。
母には言えない。だけど、ものすごく気になった。
父はトラブルをかかえているのだ。
だけど、家族が一緒ならそれでいい、そう言い聞かせ、私も眠った。
次の日の朝だった。
目を覚ますと、父は私のベットの横にたって私を見下ろしていた。
私:「どしたの??ビックリするじゃん。」
父は、シーと言い、小さな声で私に言った。
父:「今から、父さんは、下に降りる」(一階のこと)
「何か聞こえても、お前は降りてくるな。」
「母さんの隣にいって、布団にはいってろ。」
「いいな??」
私:「う・・うん・・・。」
私は言われたとおり、母の布団にはいり、耳をすました。
最初、何も聞こえなかったが、
急に声が聞こえた。
「なんだ!!どうするんだ!!」
「ドン!ガン!ガシャーン!」
私は、一人布団の中で何がおこっているのか、
考えようとした。
けど、何がなんだかわからず、何も考えれなかった。
母を起こし、
私:「父さんが何かやってる。母さんみてきてよ。」
母:「はぁぁ??どしたの??」
「仕事いくんでしょ?」
私:「いいから、お願い、見てきて。」
「なんか音がする。」
母:「もぉーーー。」
と、母は、階段を下りて行った。
ドキドキしながら、下の音を聞いていた。
母:「ゆぅーーー!!!!」
母が私をよんだ。
ゆっくりと階段を下り、父、母がいる部屋をのぞいた。
母:「早く学校でしょ??」
母は不機嫌そうに私に言った。
ブツブツ文句をいいながら、机の上をかたずけていた。
父は、いつも、すわっている所にすわり、ぼーっとしていた。
(なんで???なんだったの???)
(父さんが朝いってたのはなに?)
(なんで、何も言わないの?)
母:「早くしなさい!!」
私は、母にせかされ、学校へ行く準備をしようと、
父の横を通り過ぎた。
その時、父が急に立ち上がり、私の腕をつかんだ。
父:「今日は学校やすめ!」
「いいか、学校にはいくな!」
すごい勢いだった。
それを聞いた母が、
母:「何いってんの?」
「ゆぅ、早くしなさい。」
私の腕をつかむ父の手は、強く、本気で言っているのだとかんじた。
昨日の夜、私に言った話だろう。
そのことを父は不安がっている。
だけど、母は知らない。
どうしたらいんだろう。
母:「父さん、シャワー浴びといで」
「わけわからんこと言わんでいいから。」
「仕事は??休みなの?」
父は、私の腕を離し、母に促されながら風呂へはいっていった。
その間に、私は学校に行った。
何度も後ろを振り返り、誰かにつけられていないか確認した。
学校につくと、家のことが気になり、不安でしょうがなかったが、
誰にも相談することができなかった。
私自身、何がおきているのか、わからなかったからだ。
この日は、一日授業も上の空だった。
今後、自分はどうなるんだろう・・・。
そればかりをかんがえていた。
学校も転校するのかな?
どこにいくんだろ。県外??
お母さん、なんていうんだろ。
住むところはあるのかな?
考えても、わかることは何もなく、この日、部活も休んだ。
そして、私は、現実とは思えない父の姿をみるのだった。