●-12 大丈夫
そう、この日から、私の人生は大きくかわっていった。
父がおかしくなり、夕菜が生まれ、そして、父は自殺した。
家へもどると、母は祖母に何があったのか聞かれ説明している。
ポロポロと涙を流し、言葉にならない感情があふれていた。
祖母も、動揺し口調がとてもきつかった。
私は、美容院の椅子にすわってじっとしてたのだが、
我慢できなくなった。
私:「母さんを責めんで!何も悪くない。
みんなどうしていんかわからんのよ。
今、言わんで。
何もわからないくせに。
もう、言わんで!!!」
強い口調で私は言った。
祖母にこんなことを言ったのは初めてだった。
母が心配だった。
今日ばかりは、母は小さく今にも壊れてしまいそうだった。
母は、涙をふき、しっかりとした口調で、
「ありがとぅ。ごめんね。」
そういった。
私:「大丈夫。」
私は自分に言い聞かせた。
二階にあがり、姉のそばに行った。
姉は祖父、おじと一緒にいた。
父の着替えの準備をしていた。
父は、昔きていた浴衣に着替え布団の中で横たわっていた。
布団の足元は、膨らんでいた。
やはり、硬直した足は、もとにはもどらなかったのだろう。
葬儀屋さんがきた。
一階では、祖母と祖父とおじで葬儀の話しをしていた。
母は、隣でちょこんと座って一点を見つめていた。
私と、姉は父のそばにいた。
姉が言った。
姉:「もう、一人はかわいそうだから。」
「誰かいてあげないと・・・。」
そして、姉は
姉:「父さん、ごめんね・・・ごめんね。」
と、泣いた。
姉もまた、自分のせいだと思っていた。
父の布団の中には、ドライアイスがはいっていた。
私は、父の横に寝転がってみた。
父の体はとても冷たく、硬かった。
胸に耳をあて、何も聞こえてこない。
父は、死んだのだ。
身体はここにあるのに、
父は、もう、起き上がることも、
しゃべることも、、、もうないのだ。
ここにいるのに・・・。
とてもへんな感じだった。
人は、死ぬとどうなるのだろう。
心はどこにいくのだろう。
そんなものはないのかな・・・。
部屋を見渡し、私は考えていた。
父は何を考えながら死んでいったのだろう。
私の言った言葉を何度繰り返しただろう。
「お前なんか、消えてしまえ!!」
孤独で、後悔しながら死んでいったのだろうか。
私を怨み、死んでいったのだろうか。
自分の責任だと感じながら死んでいったのだろうか。
本当にごめん。
あの時、私が家を飛び出さなかったら・・・。
消えてしまえなんて言わなければ・・・。
父は、今も、下を向きながら、だけど
生きていてくれたのではないか。
あやまりた。父に謝りたい。
でも、もう、、父には逢えない。
父と話すことは、もう、ないのだ。
今でも、この感情は残っている。
父を思い出すたび、あの時、私が・・・・と、苦しくなる。
もう、十年たつが、その感情が消えることはない。
お葬式の日程がきまった。
父の実家は、遠方なので、親族が来るのに時間がかかる。
なので、お通やを二日することになった。
連絡をいれる人を母と相談した。
母は、何も手につかない状態で、
私がしっかりしないと・・大丈夫だと思わせないと。
でないと、みんな死んじゃう・・・。
私は、しゃべり続けた。
平気な顔をして、お通やの段取りや、
部屋の掃除。
座布団を借りに行ったり、夜、食べる物の段取り、
祖母と一緒にバタバタと準備した。
私は・・・・笑っていた。
(大丈夫・・大丈夫・・大丈夫・・)
と繰り返しながら、笑っていた。
姉に、冗談を言い、姉も笑わせた。
夕菜を抱きしめ、夕菜にも笑いかけた。
祖母は、母に言った。
祖母:「あの子は、自分の父親が死んだのに、笑ってる。」
「おかしんじゃないの??」
全部聞こえていたが聞こえていないふりをしていた。
その時母は、言ってくれた。
あの子は無理して笑ってる。
あの子の、優しさだと。
母は、分かってくれていた。
家でのお通やは、近い身内だけだった。
ただ、父のそばにいて父の話しをした。
嫌な話は、そこにはなく、
どれも、父が懐かしくなるような思い出ばなしだった。
父が何でも拾ってきた話。
つばめの赤ちゃんや、けがしたハト、スズメやネコ、亀や、ふぐ。
私の家は動物園状態だった。
父は歌が下手だったが、長淵剛が大好きで、
へたくそな歌を私たちにきかせ笑った。
父には、よく関節わざをかけられた。
調子にのりすぎ、姉は、脱臼したこともあった。
飼っていた柴犬には、父だけ嫌われていた。
父も、「あいつ嫌いだ」といつも言っていた。
犬は、父がよんでも、無視していた。
高校の受験前、父は言った。
「勉強ができなくったて、いいじゃないか!」
「おまえ、ペンキ屋の後をつげ!!」
そう言って、私を笑わせた。
夏休みの課題で、木材にニスを塗っていると、
父は、職人技をみせてやると、自分で全部やってしまった。
誇らしそうに、どうだ!!っと笑顔だった。
そう、、、もう、、、彼はいないんだ。。。
話をしていると、父はまだいるかのようだった。
憎かった気持ちはもうない・・。
その気持ちは、父の死にざまをみた瞬間なくなっていた。
不思議なものだった。
あんなに憎んでいた気持ちはなく、
もう、楽しい思い出しかおもいうかばない。
私は考えていた。
これから、どうなっていくのだろうか。
私たち、家族はどうなるのか・・・。
なんとなく、すべてが変わる・・・
そうおもった。
そして、その通りとなった。
私は、一睡もできなかった。
父の悲しみが、心にささる。
父の最後の言葉が頭の中でまわっている。
「お前がいちばん、汚い」
・・・・。
母と、姉が、眠っていた。
寝ているように見えただけかもしれないが・・・。
話かけれなかった。
朝が早く来ないか、布団の中で私はずっと待った。
私は一睡もすることができなかった。
外が明るくなると、私はほっとした。