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●-9 心の変化

夕菜が生まれ、家族が増え一緒に生活していく中で、

私の心は変化していった。


ゆうたとは、別れた。

夕菜との事が原因ではなかった。

あの頃の私は、とても子供で、わがままだった。

そんな、私に、愛想つきたのだった。


私にとって、初めてのちゃんとした恋愛。

そして、最初で最後の失恋だった。

私の取り乱し方は、すごかった。

なきじゃくり、いやだ!とゆうたにすがった。

彼は、


「ごめん。」


それだけしか言わなかった。


失恋とは、せつないと、初めて感じた。

どんなにもとに戻りたくても、

相手の気持ちがないと戻れない。

今までの、自分のダメさを悔やんだ。



夕菜との生活は、ハラハラドキドキだった。

熱をだし、入院することも何度もあった。


時には、顔色、唇が紫色になり、

救急車を呼ぶこともあった。


そのたび、誰も口にはしないが、

死 という言葉が、頭をよぎった・・・。


毎朝、目覚めるたび、夕菜の寝顔を見ると、

ほっとし、安心したのだった。

そして、同時に、生きていることを感謝した。


誰もが好き好んで、障害を持つわけではない。

けれど障害を持って生まれてきたからといって、

不幸ではないのだ。

かわいそうにと思うこと自体、失礼なことだと思う。

障害も、その子の一部だから・・・。


とても悔しかった出来事があった。

私の先輩とその友達とで、ご飯を食べに行った時のことだった。

三人でワイワイ楽しく食事していると、

後ろの席に、お母さんと子供が座った。

その子は小学生くらいで、おそらく知的障害者だったのだとおもう。


その子をみるなり、先輩たちは変な顔をしていた。

そして、中学生の頃に一緒の学校だった、

障害児の子の話を始めた。


「気持ちわるかった。」



「一緒の教室に入れるなって感じだったよ。」



「自分がそうだったら、死んだ方がまし!」



「よく一緒に連れて歩くよ。迷惑だよね?」


もう、散々だった。

昔の私なら、調子よく話を合わせ、

一緒に悪口をいっていただろう。

だけど、私には、聞き流すことができなかった。

もう、先輩だとかそういうのも、関係なかった。

夕菜、そして姉を否定されている気がした。


私:「障害を持って生きることはそんなに恥ずかしいことですか?

   私から見たら当たり前のように適当に生きてる、

   先輩たちの方が、よっぽど恥ずかしいですよ。

   死んだ方がまし??

   生きてる価値もないってことですか??

   よく考えてしゃべった方がいいですよ!

   私、帰ります。」


私は、怒りで震えていた。

悔しくて涙がでてきた。

障害と向き合うことのない生活を送っている

彼女たちに、理解できるわけではないが、

いきていることすら、否定している彼女たちが許せなかった。

必死にいきている人たちは誰であっても馬鹿にはできない。

障害者も、健常者も命の重さはなんら変りないのだ。


もしかすると、以前の私は先輩と同じように笑っていたかもしれない。

けれど、夕菜と出会えたことで、

変われたのだと思う。


それから、先輩とは連絡をとっていない。

だけど、何の後悔もしていない。

夕菜の存在が、私にとってとても大きく意味あるものだと

感じることができた。

自分でも驚くほど、大切な存在になっていた。


私の読んだ本の中に書いてあった文章がとても印象にのこっている。


 〔 障害者とは、障害をもって生まれた者ではなく

         たくさんの障害を乗り越えていかなくてはならないという意味だよ〕


この言葉にひどく感動した。

障害者という言葉自体にとても違和感があったからだ。

けれど、この言葉のように考えれば

なんだか、気分が明るくなった。


夕菜と私たち家族はこれからたくさんの障害を乗り越えなければならない。

その中で、夕菜の存在を、伝えていきたい。

そう思った。



姉が話してくれた出来事にも心を打たれた。

夕菜は、リハビリのため、リハビリ施設に通っていた。

体操をしたり、マッサージをしたりするのだ。


姉が順番を待っている時のこと。

中学3年生か、高校生くらいの男の子が掃除をしようと

ほうきを出していた。

姉と目が合った男の子は、素敵な笑顔で

大きくはぎれよく、


「こんにちは!!いいお天気ですね。」


と話しかけてきたらしい。


姉も、にっこりとほほ笑み、


「こんにちは。」


と自然と言葉にでたらしい。

澄んだ眼でにっこりとこっちを向き、

そして、そうじを始めたのだ。


姉は、

 

 「同じ年ごろの健常者の子供はあんな風に挨拶できるかな?」

  

 「それに、あんなに一生懸命、自分の学校の掃除できないよ。」


当たり前だといわれていることができない事のほうが多い障害者。

けれど、当たり前にできなければけない事が出来ない健常者。

なんだか、笑顔になれた。

障害者の子が健常者の子に勝てるところを見つけた。

純粋なところ。一生懸命なところ。

私は、なんだか、胸を張れた。


夕菜にも、素晴らしいところがたくさんある。

障害者だろうが、健常者だろうが、

やっぱり生まれてきたこと、それは、

本当に素敵なこと。

そうおもった。


この頃の父は、やはり前と変わらず卑屈なものだった。


そんな姿に姉はとてもイライラしていた。

理解してほしかったのだ。

そして、夕菜の存在を認めてほしかった。


父と、姉は衝突するようになった。

父は、いつも酔っぱらっていた。

現実から逃げていた。


父もイライラし、私にあたった。

そして、私とも衝突した。


父がいると、いつも喧嘩になった。

どうして、父は逃げるのか。

どうして、もっと夕菜をしっかりと見てくれないのか。

父がわからなかった。

以前とは違う感情だったが、

いっそのこといなくなってしまえ。

私は、心の中でそうおもっていた。



そして、あの日をむかえる

取り返しのつかないあの日を。

すべてが変わっていったあの日。



戻りたい、、、ここに、、、戻りたい。












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