嚙み合わない二人。
俺は爆速で自転車を漕いだ。
体感での時間は永遠のように感じたけど、喉元過ぎれば熱さを忘れる、たった今、日和が通う、桜ノ宮中学校についた。
だが、俺は重要なことを忘れている。
「…………日和何処にいるんだよ」
ヒカリから詳しい場所を聞いていなかった。
何処に日和がいるのか。こうなれば、やけくそだ。
片っ端からドアというドアを開けてやる!
「…………日和!」
「き、きみは誰かね?」
「日和はいますか!」
「日和……? いや、ここにはいないが…………」
俺は扉を閉める。
後方から「ま、まて!」と怒号が聞こえるが無視だ。
「…………日和!」
ちっ! ハズレか!
ただの物置部屋だ。
「…………日和!」
「きゃぁ! 誰か! 先生―!」
ちっ! 女子更衣室か、ハズレだ。
くそ、何処にもいない。
………………。
冷静になろう。
普通に考えて、泣いている女子が向かいそうな場所は――。
きっと、あそこだ!
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まさか、ヒカリが好きな人がお兄ちゃんだったなんて。
そんなことある?
そもそも、何処でどうやって繋がったのよ。
「…………日和、大丈夫?」
「…………うん、大分、落ち着いたよ」
落ち着くわけがないじゃない。
お兄ちゃんがモテることは理解してたつもりだったけど、でも、よりによってヒカリだなんて。
こんな運命、酷すぎる。
それにお兄ちゃんが私にライバルと言ったということは、ヒカリと私、どちらを彼女にするのか迷っているってこと。
これは。
チャンス!
私にも付き合える可能性が残されているってことね。
「…………それじゃ、私は教室戻るから」
「…………あのね!」
「え! どうしたの?」
私は覚悟するしかない。
「あなたには負けない!」
「…………うん! 私も!」
ヒカリも腹を決めているようね。
それなら私も全力で立ち向かうわ!
そんな会話をしている時、保健室の扉が勢いよく開いた。
「日和!」
そこにはお兄ちゃんがいた。
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俺は保健室に駆け足で向かった。
てか、はなからそうしとけ、馬鹿か俺は。
「こら! 君、何をしてるんだ!」
保健室へ向かう時、職員室の前を通るしかない。
俺は多少躊躇したが、そんなこと気にしてる場合じゃないのだ。その詰めの甘さが、命取りになった。
「……君? 高校生だろう? 何で、こんなとこにいるんだ?」
俺は言葉に詰まったが、ここは正直に話すのが吉だろう。
「妹が、泣いているんです」
「泣いてるって?」
「後で、事情は話すので、ここは行かせてください」
俺は真剣にお願いした。
後で謝罪でもなんでもしてやるから、今は一刻も早く、日和のところへ向かわなければいけないのだ。
「…………わかった、用事が終わったら、職員室まで来なさい」
「ありがとうございます! 必ず行きます!」
俺は名前も知らない先生に頭を下げて、保健室へと走り、とびらを開けた。
「日和!」
扉を開けると、日和…………とヒカリがいた。
てか、日和の居場所をヒカリに聞けばよかったんじゃないか?
何処まで頭回らないんだよ、俺は。
「…………お兄ちゃん、なんで?」
日和は当たり前だが、Rhineを送ったヒカリも驚いていた。
いや、あんなRhineが来たら、気になって、心配になって、駆け付けるだろう、普通。
「ヒカリからRhineがあったんだ。日和が泣いているって」
まんまると開いた目で、日和はヒカリを見つめる。その視線に気づいたのかヒカリは日和の方を向いて、目線が合う。
そして、数秒見つめ合った後、俺の方に向き直す。
二人のアイコンタクトはお互い何が伝わったのかは分からないけど、そんなことより、俺は謝らなくてはならない。
「ごめんな、日和」
「…………何が、ですか?」
日和は俺の口からしっかりとした理由を聞きたいようだ。
「日和の恋を邪魔して、ごめんなさい。兄として本当に恥ずかしいことをしたよ」
「……え?」
まだ、納得してない様子の日和に俺は言葉を続ける。
「結城くんは本当に良い奴だよ、そりゃスーパーヒーローみたいに。だから、俺は認めるよ。日和が誰を好きになろうとも」
これが俺の本心だ。
「ちょ、ちょっと待ってください? 何の話をしてるの?」
「…………え?」
日和は納得していないのではなかったのだ。
理解していなのだ――。
久し振りの投稿です。時間が空いてしまい、申し訳ありません。
今後、投稿を再開するので、良ければ読んで下さい。