泣いた日和と駆ける自転車
お兄ちゃんとヒカリの共通点がわからないわ。
こうなったら、ヒカリに直接聞いてみるしかないわね。
「おはよー、日和……」
噂をすればとはこのこと!
まぁ、一人で思っていたから正確に言えば、噂していたとは言えないけど。そんなことはどうでもいいわ。
「ヒカリ、正直に答えてほしいんだけど、私のお兄ちゃんとは、知り合い?」
「え、えぇ。まぁ、一応……」
なに、その反応は。
ちょっと頬を赤らめたその表情。
……。
私の予想は当たっていたようね。
「ヒカリの好きな人は私と一緒なんでしょう?」
お兄ちゃんが私を振った理由。しかもあんな強く、堂々と。
そしてあの、『ライバル』という意味深なセリフ。
あれはお兄ちゃんが私のライバルという意味ではどうしても辻褄が合わないの。ライバルという言葉の真実は、貴方にはライバルがいるということ。
つまり、ヒカリが好きな人は星ヶ丘喜代孝――私のお兄ちゃんということなのね。
「うん、そうだよ」
そうなのね。
やっぱりそうだったのね。
可笑しいと思ったわ、お兄ちゃんの口から女の人の名前が出たのは本当に久し振りだった。そしてこのタイミングで私を振るという行為。
全てが繋がったわね……。
「……ヒカリは、その…………」
言葉が上手くでないわ。
だって、この勝負端からは私に勝ち目はないもの。お兄ちゃんの気持ちは完全にヒカリに、向いてる。そりゃそうなの。私は妹、家族だもん。恋人には決してなれない。
「ちょっと、日和…………」
「…………分かっていたわ、でも、嫌なの…………諦めるなん…………て……ぜった……い」
あれ。
なんだろう、視界がぼやけていく。
私、もしかして。
泣いてるの?
「……泣かないでよ、日和…………」
「ないて……なんか……う、うえんんんん!」
堪えらない。
一度溢れ出した涙はもう、止まらないわ!!
「……日和、そんなに彼のことが」
ヒカリが動揺している、周りで何人か見てる、恥ずかしい。でも、止まらなかった。
「……日和、ちょっと、待って!」
ヒカリの言葉は届いていたけど、理解はできないの。もう、私は終わり。
後悔があるとすれば、私とお兄ちゃんが兄妹だったことかしらね。
そうじゃなきゃ、正々堂々と戦えたのに……。
いえ、それも言い訳。私は悔しいだけ。お兄ちゃんが他の女の子に、それも、友人に捕られてしまうことが。
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こんなに短い距離なのに、しかも、自転車まで借りたのに、目的地があまりにも遠いぞ。なんだこれ、ループしてんか、もしかして、同じ場所行ったりきたりしてるとか。
あー! そんなことじゃないことぐらいわかっとるわ!
胸は張り裂けそうで、この時間が体感の三倍ぐらい長く感じてるんだよな。
日和が今、泣いている。
しかも、今回ばかしは俺のせいだ。
くそ! なんでこんなことになった。
理由は明確だ。妹を好きな俺の変なプライドのせいだ。
そうだ。妹はチャンスをくれたんだ。兄として生まれ変われるチャンスを。
それなのに、それを無駄にして、挙句の果てには、妹の純粋な恋路を邪魔する悪魔になってしまった。
しかも、ヒカリさんという妹の大切な友人をダシにして。
俺は最低だ!
「くそくそくそっ!」
日和、こんなお兄ちゃんで本当にごめんな。
お前を泣かせるような兄貴で。
今からちゃんと伝えに行くよ、俺は妹と兄という近いのに近づけない、もどかしいこの関係を全て受け入れると。
そして、日和が好きな結城くんは本当にいいやつなんだって!
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「薫は優秀なんだから、あまり、下手なことはしない方がいいぞ? いや、まぁな、このぐらいのことで、お前の成績をどうこうすることはないけど、一応、担任だから。今後から気を付けてくれ」
「……はい、すみませんでした」
「あぁ、喜代孝には後から理由を問い質すとして、薫はもう、戻っていいぞ?」
「はい、失礼します」
あーあ、怒られちゃった。
まぁ、気にしてないけど。それより、喜代孝急に行っちゃうんだもんな、そりゃさ、妹のこと大切だってこと知ってるけど。
鍵だけ、勢いで渡しちゃったけど、自転車分かったかな?
いや、まぁ、そんなことより、今回の一件はどうも嚙み合ってない。
そもそも、日和ちゃんが結城を好きなわけがないんだよ。だって日和ちゃんの好きな人は喜代孝だし。
喜代孝も日和ちゃんのこと、きもいぐらい大好きだし。絶対両想いなんだけど。
なんで、こんなことになったんだろう。
多分、キーはヒカリという女の子にあるんだろうけどね。
考えられることとしては、そのヒカリちゃんという子が結城のこと好きで、日和ちゃんも結城のことを好きだと勘違いしていて、それを喜代孝に相談したと、まぁ、この辺りが妥当な見解だよね。
まぁ、喜代孝がこれを機に妹好きを治して、ついでに男も好きになってくれれば、僕としてはこれ以上ないほど、幸せだけど、そんな都合よく動かないでしょう。
全ては喜代孝と日和ちゃん次第だよ。
帰って来たら、おめでとうはちゃんと言ってあげるから、頑張ってね、喜代孝!