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上手く嚙み合わない日

 遂にこの時が来てしまったわ。

 ここまで異常に早く感じたけど、どうにか、心の準備ができたみたい。たぶん。

 お兄ちゃんと放課後、いつも一緒に帰っているけど、今日はどうしよう。今、お兄ちゃんと会ったら絶対上手く喋れないよ。


「……日和ちゃん、また明日、ね」

「あ、うん、またねー」


 ヒカリ、やっぱり元気ないわね。友達としていつもなら、気に掛けるとこだけ、ごめん、今日は私も一杯いっぱいなの。

 お兄ちゃんには先帰るように連絡して、早めの家で待機しとこう。

 あ、なんか、変な汗かいちゃった。お兄ちゃんに臭いなんて思われたら絶対嫌だし、お風呂入って、リラックスしなくちゃ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 遂にこの時がきた。

 ここまで長いようであっという間だったけど、心の準備は万全だ。きっと。

 放課後はいつもの場所で待ち合わせて一緒に帰るのが日課だったが、今日は先に帰るらしい。

「へぇー、今日は一緒じゃないんだ?」

「……まぁ、あんなことがあれば嫌われて当然かな」

「まぁ、でも意外だな、もっと喚きだすかと思っていたのに?」

「…………そんなもの、とっくの昔に忘れたさ」

「あれ? 悟り開いたの?」


 俺は何があっても、大丈夫。波阿弥陀仏。


「それじゃ、僕は帰るけど、また、結果教えてよ?」

「他人事だと思って、軽々しい!」

「他人事じゃないんだけな…………」

「え?」

「いや、なんでもない! じゃーねー」


 薫は何か焦っていたな。お腹でも痛いのかな。

 まぁ、大丈夫だろう。薫に限って心配する必要はない。それより、俺の心配をしてほしいぐらいだ。

…………。

 まぁ、それは我儘か、俺にとっては今世紀最大のピンチでも、薫にとっては当たり障りのない日常だ。

 それよりどうしよう。このまま帰るのは意味がなくなる。というのも、日和が早く帰ったのには、俺のことを嫌っていることが理由じゃないはずだ。

 日和は少なからず俺を更生させようとしていた。その優しさと日和はとても頭が柔らかい。もしかしたら俺を変えるための良いアイデアが浮かんでそれの準備をしているのかも知れないのだ。


 ここは時間を少しだけ、時間を潰しておくのが良いだろうな。

 日和の努力を無駄にしたくない。まぁ、日和がどんなことをしても日和に対しての俺の気持ちは絶対に揺るがない。

 けど、日和が俺のためを思ってしてくれたことに、感謝しないわけがない。

 

「……カフェでも行くかな」


 俺は、駅前のカフェテリアに向かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ただいまー」

 今日の帰り道は長かったわ。距離は変わってないけど、お兄ちゃんと一緒に帰るとやっぱり直ぐに家についてしまって、あーあー、もう終わりかっていつも悲しくなるのに。


「…………おがえりー」

「お姉ちゃんどうしたの?!」


 ゾンビのように床を這いつくばっているこの人は私の姉の美乃梨。

「…………わたし、だめかももう、死んじゃう」

「え、ちょっと何があったの?」

「…………」

「え、お姉ちゃん?!」


 死んだ? 動かなくなっちゃた。え、どうしよう。ほったらかしてていいのかな。

 いや、流石に良くない、どうすればいいの。

 家に引き籠ってるだけなのに、何でこんな惨劇が生まれるの。


 まって。今何時? 

 …………。

 え、もうお兄ちゃん帰ってくる時間じゃない! でも、お姉ちゃんこのままって訳にはいかないし。


 もう! この人は何でこう言う大事な時に限って足引っ張るのかな。


「……うわ、お姉ちゃん、酒臭い」


 なるほど、これは泥酔しているのか。姉ちゃんは時々、お酒を飲み過ぎてこんな哀れな姿になってしまうことがあるから、対処法はわかる。

「……まずはベッドまで運ばないといけないわね」

 お、重たい。お姉ちゃんロクに運動もしないから、太ったんじゃないの。

 いや、そんなに太ってないのよね。むしろ、女性らしい身体付きで、兎に角胸がでかいわ。服がよれよれで、もう、ほぼあれが見えてるんじゃないの。そんな恰好でお兄ちゃんの前にでないでよね。

 まぁ、お兄ちゃんは貧乳好きだから、大丈夫だけど、ね。


「……ふう、これでよし、お姉ちゃん、水持ってくるから、待ってて?」


 はぁ。世話が焼けるお姉ちゃんだこと。昔はあんなにかっこよかったのに。そんな過去のことを言っても仕方ないけどね。


「……はい、お姉ちゃんこれ飲んで?」

「………………は、い」

 

 はぁ。取り敢えず、後は安静にしてれば、明日にけろって治るわ。

 それより、早く、お風呂に入らないと。

「……日和?」

「あ、どうしたの? 体調大丈夫?」

「…………も…………る」

「ん?」

「……もれ…………る?」

「なに? どうしたの」

「……もうだめ、漏れる…………」

「え?」


 その刹那。


 ベッド上では大洪水が巻き起こり、毛布は黄色の世界地図を広げた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……あ、ブレンドコーヒー、加糖でお願いします」

 ここ辺りでも人気のカフェテリア。

 思ったより、JCやJKばかりで、かなり恥ずかしい。

 オススメ! と書いてあったブレンドコーヒーを頼んだけど、コーヒーはあまり好きではない。苦いのは飲めないのだ、こんな見た目だから、コーヒー飲んでそうとか言われるが、どちらかというと甘党だし、可愛いものが好きだ。ギャップ?といえば聞こえはいいが、キャラに合わないだけだなのだ。


「……あのお客様。大変混み合っておりますので、相席宜しいですか?」

「あ、はい。もちろん……」


「…………すみません」

「いえいえ、お気になさらず」


 何とも、暗いな。

 暗いというのは根暗とか、そういう悪い意味ではなくて、とてつもなく、悩んでいるような。なんて分かり易い人なんだろう。

ん。この制服確か、日和と同じ中学校だな。

 しかも、青のリボンは確か一年生だから、学年も一緒か。


「…………日和」

「え?!」

「あ、いや、なんでもありません……」


 やべ、口滑らした。たまにあるんだよな。想像してたことが口から出ちゃうこと。これはきもいかも知れない。否、確実にきもい。

 しかし、この少女、驚き過ぎではないか。そんな珍しい名前だろうか。

 あ、この少女の名前ももしかして、日和なのか。そんな奇跡有り得るのか?


「何で、分かったんですか? 私が悩んでいることを?」

「はい?」


 この時の俺は、まさか、こんな結末になるなんて思っていなかった。


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