第六話 マザー
森にしか生息しない魔物がいる。
木のような見た目で、枝が手、根が足だ。
普段は弱い兎や牛を狩っているが、時々人を襲う時もある危険な魔物だ。
そのトレントは二体で行動していた。
家族や兄弟という概念がないトレントだが、生まれた時から隣にいることを疑問に思わなかった。
彼らに目的はない。
新鮮な大地と美しい空気を求めて、森を移動する。
ああ、あそこにうまそうな土があるよ。
本当だな。あそこに行こうか。
良い住処を見つけた。
水が沢山飲めて、柔らかい土がある。
それに水場も近い。
獲物も沢山食べれる。
最高だ。
動クナ
動クナ
動クナ
動クナ
動クナ
何だ。
何が起きた?
トレントは混乱した。
さっきまで、そこには誰もいなかった。
だが今は、気配がする。いる。
自分達に絡まる枝は、間違いなく同族のものだった。
此処カラ先ハ
マザー、ノ
ナワバリ
ダ
マザーニ
従
エ
十や二十どころではない。
その辺り、全ての木がトレントに成っていた。
二体のトレントには何のことだか分からない。
私達は自由だ。
ただ、豊かな自然を求めるだけの生物。
従う理由など分からない。
ソウカ
ナラバ
仕方ガナイ
殺ス
死ネ
自分達を縛る枝の力が強くなる。
メキメキと音がする。
だが、トレントにはわからない。
どうしてこうなったのか。恐怖もない。
ただ、隣で死ぬ同族を少し哀れむだけだ。
哀れむ? なんだ、それは。
わからない。わからない。わからない。
結局、トレントはその答えを見つけることができなかった。
マザー
ゴメンナサイ
同族ヲ殺シテシマッタ
同族、増エナイ
マザーは答えない。応える必要がない。
どうせ“子供達は増やせる”から。
現存のトレントを仲間に呼ぶのは面倒が省けるから。
マザーは天にまで達するであろう、その巨体を揺らしながら命令する。
同族を集めなさい。
決戦の時は近い。
我らの大地を取り戻すのです。
憎き、憎き人類から。
彼女の名はマザートレント。
トレント達がマザーと呼び、木をトレントに変える力を持つ者。
その支配領域はもはや森全体に及んでいた。
待っていなさい。
必ずや、この大地を取り戻してみせます。
マザーの咆哮が森を、大地を揺らした。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
「メリッサ暴れてるな〜」
「おっ、新しい魔道具だ!」
「続きが楽しみ!」
と言う方は、ブックマークや評価(★★★★★)などよろしくお願いします。
そうすると作者のモチベーションが上がります。