第二話 酒場にて
俺はその日、ヤケ酒を飲むために酒場に来ていた。
国のために尽くしたのに、それを評価してくれなかった。いや、見ることすらしてなかった。
「くそったれめ」
三杯目のおかわりをしようとーーー。
「なあなあ、お姉ちゃん、一緒に飲もうぜ?」
「いいだろ? その後、ちょっくらホテルに行くだけだからさ〜。ぐへへ」
「悪いがお断りさせてもらおう」
「なんだよ、男でもいるのか?」
「一人で飲みたい気分なんだ」
「なら俺らがもっと楽しませてあげるからさー。ぐへへ」
どうやら、一人飲みしてるお姉さんに冒険者が絡んでるみたいだ。
お姉さんは面倒くさそうにあしらってるが、酔っ払いはしつこい。
だが、見ていて思う。
これ以上やると死ぬな、コイツら。……と。
というか、あの立て掛けられた大剣を見て只者じゃないとわかるだろ。
間違いなくお前らの体重よりも重いぞ。
流石に見殺しにするのは可哀想なので、止めてやろう。
「おい。やめとけ」
「あ? 誰だ、てめえ」
「殺すぞ、どいてろや!」
ぐわっ、と胸ぐらを掴まれた。
この手の輩は面倒だな。気絶させるか。
《収納》から指輪を取り出し、嵌める。
魔法指輪。
弱い魔力の弾丸を飛ばすことができる。
まあ、酔っ払いにはちょうど良いだろ。
「ほう」とお姉さんが俺を見た。
「グエッ!?」
「グボォ!?」
誰にもバレないように二人の腹に撃ち込んだ。
簡単に気絶してくれた。
「おいおい、酔い潰れたか? ったくよー」
と店主が気絶した二人を引きずって運んで行った。
あの様子だと、路地裏のゴミ捨て場コース確定だな。
目立ったから店を変えようと思ったが、後ろから声をかけられた。
「どうもありがとう。助かったよ」
さっきのお姉さんだった。
「いえ。当然のことなので。それじゃ、俺はこれで……」
「ちょっと待て。少年」
「なんですか?」
「一緒に飲もうじゃないか。丁度、飲み仲間が欲しいと思っていた所だ」
「え?でも、あの人達が誘ってましたよね?」
「気分が変わったんだ」
まあ、美女と飲めるなら、ありがたく飲ませてもらおう。
「わかりました」
「そうこなくっちゃ」
お姉さんの正面側の椅子に座った。
嬉しそうに笑った。
「素晴らしい腕前だな」
「……なんのことですか?」
「とぼけるな。魔法指輪であの二人を気絶させただろう。しかも、一発ずつでだ。そんな芸当ができる人間を私は見たことがない」
スッと目を細めて言った。
「君は何者だ?」
「無職、ですかね」
「……ふざけてるのか?」
「本当なんですよ。ついさっき、王城をクビになりまして」
それから、あらましの事情を説明した。
「それは、なんというか、酷い職場だな」
「ははは。まあ、そうですね」
正直笑い事じゃないほどブラック企業だった。
勤務時間は五百時間なんて軽く超えてるし、休日なんてものはない。残業代も出ないし、人に評価すらしてもらえない。
あれ? 何で俺、あんな仕事してたんだろう。
「それより、お姉さんは何の仕事をしてるんですか?」
「私か? 私は冒険者だ」
やっぱり。
「冒険者ってどんな仕事なんですか? あまり知らなくて……」
「そうだな、冒険者もギルドによって変わるが、私のギルドは「自由」だな」
「自由?」
「そのままの意味だよ。自由なんだ。私なんて森を禿げさせたり、街を破壊したり、色々やってるけど、冒険者をやれてるからな」
自由、か。
王城で働いてたら聞かない言葉だな。
「そうだ、君も冒険者になったらどうだ?」
「冒険者……考えたこともなかった」
「君の冒険者としての才能は保証しよう。それだけの腕っ節があるんだ。使わない手はないと思うがね」
才能。俺に冒険者の才能があるのか。
「でも、面白そうですね」
これまでずっと倉庫の管理ばっかりしてたんだ。
外の景色も見てみたい。
「よし! 決まりだな! では行こうか!」
そう言って、お姉さんが立ち上がった。
支払いも済ませ、俺の手を無理やり引いていく。
「え? ど、どこに行くんですか……?」
「私達のギルド【未知の足跡】だ!」
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