第十二話 整理整頓ができない人達①
ユーグをクビにした後、宰相が最初に取り掛かったのは倉庫の整理だった。
「まったく、あの無能め。倉庫の管理すらもできないとはな」
王国の倉庫は理解できないほどゴチャゴチャにアイテムが収納されていた。
分類もバラバラで、石ころのような無駄なものまで保管されていた。
「宰相! 空調の魔道具がフルで稼働しています!」
文官の部下の一人が報告しに来た。
見に行ってみると巨大な空調が倉庫の至る所に、合計で二十四ヶ所に設置されていた。
しかも暖房と冷房で使い分け、倉庫の奥が冷たく、倉庫の手前が暖かかった。
「まったく、こんな所にも無駄な所が……」
宰相は頭を抱える。
少なくとも、これだけの空調を稼働させるには一日で金貨三枚も必要になってしまう。
一月で金貨九十枚だ。
無駄過ぎる。
「稼働させる空調は四つだけにしなさい! 基本は24℃キープに!」
これでかなりの資金が浮く。
「宰相! この石ころは如何しましょうか!?」
「所詮は石ころです! 裏路地にでも捨てて来なさい!」
と言っても、ただの石ころだけで何百キロもありそうだ。
軍人を呼んで、運ばせた。
これでスペースがかなり空いた。
「宰相!」
「分類はしっかりと分けなさい! 武器は剣、弓、槍と!」
倉庫の整理が全くされていなかった。
剣だけで五ヶ所も分けられていたし、盾や鎧もそうだ。
だから宰相は全ての剣を一ヶ所に纏めた。
完璧だ。
無駄なものを取り除いて捨てる事で、倉庫の中はスッキリした。
さらに部屋は一定の温度に保たれ、分類もしっかりされている。
もう一度言おう。完璧だ。
宰相は自分の有能過ぎて、腹を抱えて笑ってしまう。
だが、宰相は知らない。
ユーグがわざわざ剣の収納場所を分けたのには理由があったことを。
ユーグが部屋の温度を奥が冷たく、手前を暖かくしていたのには理由があったことを。
後にこの倉庫整理が自分の首を絞めることになる事を、宰相は知らない。
「宰相! 呪いの箱を発見しました!」
「一番奥にまとめてしまっておきなさい!」
呪いの箱は危険なものだ。
だから宰相は部屋の奥に“纏めて置いた”。
倉庫の整理が終わり、宰相は自室でワインを開ける。
煩わしい無能を追い出す事が出来たんだ。
心の底から愉快で笑いが出る。
「まったく、無能は無能らしくしていれば良かったんだ。私に命令なんてしやがって………」
あの無能はいつも私に命令をした。
倉庫の場所が少ない、清掃道具の購入費が必要だ、人員を増やしてくれ、休ませてくれ。
無能如きが休みだと? ふざけるな!
倉庫整理なんて、そもそも一人もいらないんだよ!
宰相は飲む速度を上げる。
ワイングラスをぐいっと空け、空になったグラスにさらに注いだ。
……。
…………。
………………。
宰相はいつの間にかワインを一本丸ごと空けてしまい、ぐーすかと眠ってしまった。
そして、宰相の人生で最後にぐっすりと眠れたのは、この日が最後になる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これで二章完結です。一週間の休みを挟み、連載を開始します。
「宰相あほ」
「ばーかー」
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