出逢い
︎︎あれから丸一日は経ったか、アンティーク趣味は俺には無いが、記憶を取り戻す前のアンナの趣味である古時計を見つめ思わず呟く。
「……負けた、か……」
︎︎完敗だった、魔法っちゅう俺の前世では有り得ない力を使った戦いではあったが…それでも悔しいものは悔しい。
「…強くならねぇとな。1日5発撃って魔力が空っ穴じゃ連戦は厳しい」
︎︎俺にとって初めての星戦ではあったが、負けても得られる情報“もん”もあった。
︎︎一つ、今の総魔力量だと一日に五発の銃弾を打ち出すのが精一杯という事。
︎︎二つ、何故か俺の弾丸はフィールドにヒビを入れられる。やり方次第では破壊も可能か?
︎︎三つ、前世の技能は今世でも使えるらしい。
「一つ目に関してはこれから次第だが鍛え方次第で補えるか?幸い銃であり剣でもあるみたいだしな…」
︎︎銃撃戦主体じゃなく、剣である事を活かした接近戦を主体にすれば魔力の消費は抑えられそうだ。
︎︎二つ目については直前にリンの説明を受けていたから有り得ないと驚いたが…多分、魔力の質に関係している可能性がある。
︎︎三つ目は…まぁ、やれる自信はあった。
︎︎何か一つ伊達に若頭に任命はされない、俺の場合それがタマの取り合いで培った技術というだけの話だ。
︎︎考え込んでいると部屋の戸を叩く音が聞こえた、次いで入ってきたのは昨日俺を負かした対戦相手であり、従者でもあるリンだ。
「おはようございます、アンナ様。…御加減は如何でしょうか…?」
「リン…はい、問題は無いようです、昨日はありがとうございました」
「いえ、私こそ。…何か思い悩んでいる様ですが…如何なさいましたか?」
︎︎やはり従者、と言うべきか、顔に出したつもりはねぇが簡単に気付かれてしまった。
︎︎…まぁ、それならそれで俺は率直に今の気持ちを伝えるだけだが。
「───リン、私は強くなりたいです、誰よりも。貴女よりも…いえ、この世の誰よりも、私は“誰よりも強く在らねばならないから”…私の誓いの為に」
「……アンナ様、分かりました。何処まで御指導出来るかは分かりませんが私が…いえ、私達がアンナ様を最高の星騎士に…」
︎︎俺の嘘偽りのない言葉…リンは何かを考え込んだが、意向を汲んでくれたようだ。
︎︎…私“達”というのがちょいと気になるが、俺の前世での誓いを今世でも護れるなら俺はそれで良い。
︎︎そんな俺やリンのやり取り、空気を知ってか知らずか、緋色の髪が色鮮やかなメイド服を着た女がドアをノックして入ってきた。
「はーい、お邪魔しまーす。アンナ様もリンちゃんも二人の世界に入らないでくださーい」
「シュリ、アンナ様の御前ですよ?」
「やーん、リンちゃんこわぁい。アンナ様助けてくださーい」
︎︎窘めるリンにそれを戯けて流そうとするシュリに溜息は吐きたくなるが、こうして足を運んだのも何か用事があるのだろうと促す事にする。
︎︎俺の経験上、この手の女は放置してもしなくても面倒事を運んでくるのは身を以て経験しているからだ。
「…シュリ、どうかしましたか?」
「あ、そうでした〜。3ヶ月後にウルガルド学園から理事長先生がアンナ様に逢いに来るらしいので、新しいお召し物を新調する為に今から街に出ませんか?ってお誘いに来たんです〜」
︎︎新しいドレス、か…服には興味は無いが街を見て歩くのは良いかもしれないな。
「分かりました、では授業はその後…でどうでしょうか、リン?」
「…そうですね、ではその間授業内容を考えておくとします。私だけではなくセイやレイ、勿論シュリにも協力して貰うとしましょう」
「リンちゃん了解〜。帰ってきたらお話しよ〜。それじゃあ今すぐ行きましょう、善は急げです〜」
◆❖◇◇❖◆
「ちょっと…歩き過ぎではないかしら…?」
「えー、そうですかぁ?んー、それじゃあアタシは何か飲み物を買ってきますからそこのベンチで休んでいてくださーい」
「…ふぅ…」
︎︎何時の時代も女の買い物は長くて疲れるものなのを忘れとった、少し疲れたが街並みを見れたのは中々───
「そ、それあんたもしかして“色付き”か!?しかも黒!妹を助けてくれ騎士様!」
「…落ち着いて下さい、先ずは何があったのかを聞かせてくれませんか?」
︎︎街並みを見て考え事に耽る暇すら与えない急な来客の慌てように、俺は何があったのかを聞く。
︎︎それがまさか、この世界での初めての事件の始まりに繋がるとも知らず。