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兆し


︎︎俺の牽制に気付きはしたが数秒遅く、片腕を弾丸で抉られながらもエステルから飛び退いた首無し騎士に剣先を向けたまま、リンとは移動距離も速度も雲泥の差がある見よう見まねの歩法で、エステルとレオナに背中を向け割って入る…視線を向けると気絶こそしているが何とか無事なようだ。


︎︎首無しが狼狽えているのは、邪魔が入らないはずの場所で俺が現れたからだろうか…それは定かではないが奴が動かないなら2人を逃がすには今しかないな。



「だ、誰だテメェ!?」


「…下衆に名乗る名前はありません、そこの貴女」


「え、わ、私ですか?」


「そうです、この下衆を片付けるのに少し暴れます、その方を連れて離れてください。…直ぐに私のツレが来ますが念には念を、です」



「わ、分かりました!」


︎︎片付ける、という言葉にわなわなと震える首無し、恐らく年端もいかないガキに言われてキレたと見て良いだろう。


────が、俺も俺で、この下衆に静かにブチ切れていた…こんなにキレたのは前世で極道の道に入って以来だ。



「テメェ…俺様を片付けるだァ…?やってみろや!俺様はこれまで何十人とテメェみたいな星騎士を喰ってき「───では、やってみせるとしましょう」は?」


「あ?あ、あ、ぁ…!?俺様のうでえぇぇ!?なんでっ!?!いでぇッ!いてぇよおぉぉッ?!」



︎︎間の抜けた声の後に聞こえてきたのは腕を二本失った事による絶叫。

︎︎リンならこの一瞬で両手両脚を斬り飛ばして達磨にでも出来るのだろうが、如何せん、俺の今の技量じゃ両腕を斬り飛ばすのがやっとだ。


︎︎そのまま奴が自分の腕で抱き抱えていた頭部を掴みあげると、頬に親指を食い込ませ顔を近づける。

︎︎奴の眼には怯え以上に恐怖の色が見て取れた。



「ぎゃあぎゃあ騒ぐな、三下。俺ァ今虫の居所が悪いんだ…大体、弱い奴を何人いっぺんに殺そうが、何人殺してきただろうが自慢にも何にもならねぇ……手前、あのガキ共を喰うなら喰うでなんで傷付けた?」


「あぐっ、そ、そへほはなひたらゆるひてくれるのは?」


「……」


︎︎頬から僅かに親指を離してやる、聞くに絶えない言葉よりはマシだろうから、という考えだが、それを肯定と捉えたのかべらべらと喋り始めた。



「お、俺様達魔族は、色付き・色無し関係無しにお前等外から来る奴の生気と魔力が餌なんだよ…特に恐怖に染まった感情が混じった魔力は最高だ…っ、お、お前だって飯は喰うだろ?それと同じだ!」


「……そうか、確かに飯は喰うな」



「そうだろ!?だったら…「ただ」ひッ…!?」



︎︎そう、飯は生きている限り人間も動物も関係なく喰う。

︎︎魔族が人間を喰うのも、それは世間一般で言う食物連鎖というものなのだろう。


︎︎だが、俺がキレてるのはもっと別の理由だ。

︎︎…何なら、或る意味では八つ当たりでもある。


︎︎尤も、それを教えてやる理由も義理もない。

︎︎代わりに俺は奴の胴体を魔力をたっぷりと込めた蹴りで上空に蹴り上げ、それから手に持っていた頭を投げ剣先を向ける。



「──ただ、手前みたいに他人を使って。それも無理矢理従わせて、更にはろくに抵抗出来ないガキ共を一方的に嬲るような屑は個人的に気に食わねェ…あばよ」


「ひぎッ?!ぢ、ぢくじょお゛ぉぉぉッ…!」



︎︎手向けとばかりに頭と身体を同時に収束させた魔力を物質化させずに、粒子砲の様に打ち出せば首無し騎士は、霧の様に霧散した、…否、消滅させた、が正しいか。


︎︎直後、パチパチパチと拍手の音と共に振り向くと鉄扇を手にしたシュリが笑顔で近付いてくる。




「あらま〜…かなり急いだつもりなんですが片付いちゃいましたね〜…お疲れ様です、アンナ様〜」



「…シュリ、お疲れ様です。ですが貴女ならもう少し速く来れたのでは?」


「買い被りですよぅ、シュリちゃんはアンナ様の御命令通りアンデッドの皆さんを浄化していたら遅れちゃいました〜」



︎︎両手を前に出し首を振り否定するシュリを見つめる。

︎︎あの動きが出来るシュリの実力的に買い被りだとは決して思わない…が、それでも仕事はちゃんとこなしたシュリに労いの言葉を掛ける。



「…それで彼女達は無事ですか?」


「はい〜、エステルさんには回復魔法を掛けたので何とか〜」


「そうですか、…それは「お姉さまーー!」…?」


︎︎ふと聞こえた声、その声の主に心当たりはあるが呼ばれているのが俺だとは思わずシュリの方を見遣る。


︎︎おいそこ、セクシーポーズしてんなや。


「お姉さま!助けてくれてありがとうございました!」


「え、と…お姉さまというのは此方の…?」


「違います!アンナ様の事です!」



︎︎いや、俺かよ!?


︎︎と、ツッコミたくなるが我慢だ、今の俺はアンナ・ノワール…一応は姫なのだから。

︎︎まぁ、少しだけ指摘はさせて貰うが。


「はぁ…私、ですか…肉体的な年齢は大して変わらない様な気もしますが…」


「身体は関係ありません!アンナお姉様は私達の命の恩人です!」


「ふふふ〜、随分慕われちゃいましたね〜、…アンナ様が星騎士として初めて救った生命、どうか忘れないでくださいね〜」



(救った、か…)



「…えぇ、努々忘れないようにします」



︎︎…救う、なんてガラじゃあないが、な。


︎︎何処か優しげに微笑むシュリと、100パーセントの善意でお姉様呼びしてくるレオナに居心地の悪さを感じるが、一先ず俺達は仮想空間から現実世界へと帰還する事とした。


◆❖◇◇❖◆



︎︎時刻は夕暮れ、リオンの家の前でリオンとレオナ、そしてエステルがアンナとその従者、シュリに頭を下げていた。



「今日は本当にありがとうございました、このご恩は一生忘れません!」


「いえ、礼ならリオンさんに…私達はたまたま居合わせただけですから」


「それでも…ありがとうございます…!アンナ様達が居なければ…!」


「……どういたしまして」


︎︎アンナは知らないだろう。…否、知っているが故に“知らないふりをする”だろう。

︎︎たまたま居合わせただけ、と口にする自身がその実3人の少年少女の今後を変える程の出逢いだった、と。


︎︎実際は、何十、何百、何千以上もの人々を変える出来事ではあるのだが。それを知るのは些か早過ぎる。


︎︎アンナはシュリを伴い帰路に着く、その背を見守る3人だったが、エステルは何処か遠くを見つめる眼差しをしていた。



「………」


「あれ、お姉ちゃんどうかした?」


「……うぅん、なんでもない。今日はもう帰らなきゃ、またね二人共」



︎︎エステルも2人に別れを告げ帰路に着く、そんな2人を兄妹は何時もの様に手を振り見送る。



「おう、またな」


「またねー、…はぁ…それにしてもかっこよかったなぁ…アンナ様、また逢えるかなぁ」


「きっと逢えるさ、じいちゃんや親父達も絶対礼がしたいって言い出すと思うし…アンナ様達にうちのメニュー、ご馳走しようぜ?」


「うん!えへへ…楽しみだなぁ…」


︎︎大事な人達が救われた事で、本来辿る筈だった絶望の未来を破壊されたリオン。

︎︎命を救われた事で、本来辿る筈だった死の未来を破壊されたレオナ。


︎︎2人の兄妹は何時も通りに三ツ星レストラン“ステラ”で料理長として、そしてコックとして働いている家族を待つ日々へと戻った。


◆❖◇◇❖◆



︎︎そして、エステルも本来辿る未来“現実”とは異なる未来と想いを抱える事となる。



「アンナ様…か…」



︎︎本来、つまりゲームでのエステルはこの日、自分を庇って幼い人生を終える事となるレオナを失ったリオン達家族に、怨嗟の声を浴びせられ逃げる様に引越す筈だった。



「また、逢えるかな…」



︎︎少女の願いはこの先、意外な形で何度も叶う事になる。


︎︎その憧憬を。

︎︎その思慕を。

︎︎その初恋を。


︎︎今は未だ、気付くこと無く少女は日常へと戻った。


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