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変わらないもの  作者: ユヒミカ
1/2

〜1〜


 好きでもない男の相手をするなんて、充電の切れたスマホの相手をするくらい馬鹿げていた。



 退屈な車内では、聞いたことのない、ご当地ソングが流れている。


 また売れていない田舎アイドルの曲でも、ダウンロードしたのだろう。

 機械音的な歌声は、両耳に指を突っ込もうか悩むくらい、今の自分には不快だった。



 カーナビの音声が、地元である湘南に入ったことを告げる。


 教習所のマニュアル通りに、ハンドルを握る清崎は、ゲームを始める前に、攻略本を読むような、つまらない男である。

 何をするにも、知った上でしか、行動を取らない。


 「コンビニ寄ってもいいかな?」

 

 耳栓を買うチャンスだった。

 首を縦に三度降ると、車は駐車場に左折した。


 こんなに長く感じた一時間は、中学校の全校集会以来である。

 校長の話が始まると、明かりの見えないトンネルに迷い込んだような気分になっていた。


 もう清崎との関係も、一緒に居るだけで限界だった……


 おっさんに囲まれた寿司詰めのエレベーターくらい、窮屈で息苦しい。


 外の空気を吸うために助手席を降りた。


 凄まじい排気音を轟かせた、白いスポーツカーが、ピットに入る勢いで、駐車場に入ってくる。

 異彩を放つその車は、視界に入る全ての人の視聴率を、一瞬で奪った。


 空き缶を蹴飛ばして当てたくなる車ランキングがあったら、間違いなく一位の車である。

 

 反対車線では、三段シートの付いたバイクが二台、信号待ちをしていた。

 この街の海沿は、夏になると外灯に集う害虫のように、改造車が増える。


 「うわ!アレ!やば!あの車!めちゃくちゃ高いよ」


 ついこの間、7年ローンでファミリーカーを買ったばかりの清崎が、好きなアイドルを生で見たように興奮する。


 ちなみに清崎とファミリーになるつもりは、1ミリもない。

 清崎との未来なんて、10年後の天気を気にして

 『アホちゃうか!』

と突っ込まれるくらい、アホみたいな話だった。



 「うーわーマジやばい!」


 「いくらくらいなの?」

 隣の家の晩ご飯くらい興味は無かった。


 「いくらくらいって想像も付かないな」

 猿に道を尋ねるくらい、聞いた自分が馬鹿だった。


 「そっか」

 素っ気ない返事を気にすることなく、清崎がスマホをいじり出す。


 分からない事があると、スマホからの情報にすぐ頼るのが、清崎の癖だった。


 「ほら見て」


 いいから早くコンビニ行けよ……


 仕方なく差し出された画面を見ると、記載されている車体価格は、4,000,000に見えた。

 たしかに高かったけど、馬鹿みたいに目を見開いて、興奮する金額でもないと思った。


 「そうね」

 「そうねって簡単に家を建てれる金額だよ?」



 簡単に……家?



 顔の前に差し出された画面を、もう一度よく見ると、車体価格は40,000,000だった。


 4,000万……


 たしかにこの金額なら、簡単に家は建てられる。


 ただ、車に4,000万も使うなんて、アイドルのグッズに何十万も突っ込む、目の前の馬鹿と同じくらい馬鹿な奴だと思った。


 車内には、スーツを着た横顔の若い男と、サングラスを掛けた女が見えた。


 「まだ若そうだね」

 人生なんて不公平だと、言わんばかりの表情が、口調から滲み出ていた。



 え………?



 男が車を降りる時に目が合った気がして、心臓が跳ね上がった。

 


 朝宮(あさみや)……



 五年振りだったけど、間違いなかった。


 スラっとした高身長……

 人を寄せ付けない独特な雰囲気……


 少し遠目からでも確認できた、両眉の間にあるホクロを見て確信した。


 高校ニ年の夏から付き合い出して、卒業式を最後に、黙って姿を消した、朝宮亮太だった。


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