061 ユヴァスキャラ王国への侵入
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「なかなか良い宿だな」
ドワーフ兄弟との腕相撲対決に勝利し、その後、宿に向かっていた。
宿はこのミッケリ王国の中では上位に入るようで、お風呂が各部屋に用意されている高級宿のようだ。
4人部屋を10室と1人部屋を1室なのだが、4人部屋は4人同時に湯船に浸かっても余裕のある大きさとなっていた。
「これだけの水量をどうやって確保しているんだ?」
「はい。これはユヴァスキャラ王国から販売されている魔石具でお湯を出しています。温度調節もできますからお湯が熱いようでしたら、ここを捻ると温度調節ができますよ!」
「排水はどうなっているんだ?」
「排水も魔石具ですね。水を浄化して魔石具で作ったお湯を回収しますね」
良く見ると、この宿は魔石具だらけだ。
照明も、温度調節も、掃除も魔石具を使っているみたいで、それについて仲居として部屋の説明をしてくれていた女性に質問をぶつけてみたのだ。
確かに一般的な宿とは違って非常に快適な空間であり、照度、温度、湿度、臭気など気になる要素が見当たらないのだ。
「すごいな。これだけ魔石具を使っていたら宿泊費も相当値上げしただろ?」
「いいえ。以前は魔法具を使っていましたが、全体的に経費も安く済んでいますから以前より利益が上がったんですよ。しかも以前より快適な空間を提供できるようになったのでお客さんのリピーターが増えました」
他にも調理用の魔石具や食料保存用の魔石具などがあるのだそうだ。
仲居さんが部屋を退室した後、イェルドや魔法具に詳しい部下を集め、給湯の魔石具の解析を試みる。
「確かに、これだけのお湯を出せるのなら……魔法具より遥かに高性能だ。これを購入して国に持ち帰り解析したいな」
「隊長、ちょっと分解は出来なさそうですが、簡単な解析から始めましょう!」
彼らは集まってどう言った仕組みなのか調べ始めたのだが、一考に判明できないのだ。
本体にも様々な魔法陣が組み込まれているのだが、それがどう言った意味合いの元使われているのか皆目検討もつかないのだ。
その魔法陣に使われる魔法言語も彼らの知らぬ言語であり、読む事もできないのだ。
また、魔石そのものに魔力が溜まっているような感じもせず、お湯を出すときだけ魔力を感じる。
これだけの事象を引き起こせるような魔力がこの魔石に込められているとは到底思えないのだ。
「魔石具はユヴァスキャラ王国に直売らしく、しかも、ハルムスタッド王国やヴァンター王国には販売しない事になっているそうです!」
隊員の1人が調べてきた事をイェルドに報告する。
「仕方がない……魔石具についてはダミー組織を他の国で作りそこを通して手に入れるか……取り敢えず、明日、ユヴァスキャラ王国に移動してからの話だな」
そういうと彼らは旅館の素晴らしさを堪能するのだった。
水洗トイレは臭わず、使用直後も臭いを気にせず次の人が使えるのだ。
基本、ユヴァスキャラ王国とヴァンター王国以外は臭気が常に漂う。
この国の王都もそんな芳しい香りを常に感じさせていた。
だが、この旅館はそんな臭いを全く感じさせずに過ごさせてくれ、これはヴァンター王国の王城ですら不可能な快適な環境といえるのだ。
料理は今ひとつだったが、こんな環境で過ごせるのなら、いくら掛かってでも良いと考える者は多いだろう。
「これほどの物なら魔法具が駆逐されたのも分かるというものだが……」
イェルドは食後、たっぷりにお湯が使われているお風呂に感動をしながら、翌朝を迎えるのだった。
朝食後、荷物を整えて転位ゲートへと向かった。
「さあ、これで転移すればユヴァスキャラだ」
「意外とあっけなく到着しそうですね、隊長」
そんな話をしながら順番を待っていたのだが、何やら転移ゲートに違いを感じるのだ。
良く見ると、ユヴァスキャラ王国行きの転移ゲートだけが何やら構造が違う。
そうこうしているうちに彼らの順番となったのだ。
「それでは転移陣の中に入ってください。それでは、行きますよ!……ん?」
係員は彼らが転移しない事に驚きの声を上げる。
一応、イェルドたちは魔族に見られないようにポルヴォー共和国人に見えるように偽装していたのだ。
「あのー、転移装置に、あなた方は魔族の方々であると表示されておりまして……現在、ユヴァスキャラ王国はヴァンター人とハルムスタッド人、国籍は違っても魔族の方々の入国はできないんですよ」
「何?俺たちはポルヴォー人だぞ!何故、そのような表示が出るんだ!」
「一応、偽装解除機能もありますのでそれを使用させて貰ってもいいですか?」
その言葉に慄いたイェルドたちは転移陣の使用を諦め、国境越えを行う事にしたのだった。
だが、この転移陣は個別の魔力紋を採取する機能がついており、ユヴァスキャラ王国にその魔力紋と今回使用した偽名と身分証データが送られていた。
これにより、ハルムスタッドの宰相とイェルドが同一人物である事が判明し、テロリスト首謀者として国際指名手配を行う事になったのだが、まだ、イェルドはそれに気が付いていないのだった。
「森林地帯を20キロか……厄介な行軍だな」
ハルムスタッドとの国境線も河川だったが、ミッケリ王国との国境線もまた大河が横たわっていた。
その大河を中心に10キロもの森林地帯がある。
これは協定によりそう言った国境にするようになっていたのだ。
森林地帯が幅20キロもあれば大軍を送り出すことが不可能になるからなのだが、それが近隣国との交通を転移ゲートに頼る事に繋がった。
「隊長、確かに歩きにくいですが、モンスターは少ないようですね」
現在は1時間に1キロ程度の速度で進んでいた。
全員が特殊技能を持ってはいるが、全員が体力的にすぐれているのではなく、頭脳面での選抜もあった関係で魔族にしてはゆっくりとした進度なのだ。
「そうだな。だが、全体的に鬱陶しいな」
食事は干し肉とカチカチの黒パン。
あまり旨くない食事を胃に流し込みながら、休みを取らずに黙々と歩き続ける。
そうすれば1日に歩ける距離を稼ぐことができるからだ。
結局、この日は8キロほど進むことができた。
「明日は午前中に国境線に到着し、川を渡ったら状況次第でそこで1泊だ」
そういうと2人ずつ夜番をしてもらう事になり、夜を迎える。
イェルドは隊員を休ませようと、率先して夜番をすることにした。
夜番のペアはほぼ唯一の話し相手をしてくれている隊員だ。
彼は、魔人訓練のために森の中に入る森のエキスパートでもあったことからイェルドもまた彼を信頼していた。
ちころが、森の中にも関わらず彼らを監視していた者がいた。
(ほう、あの者は以前森の中で出会った者か……)
エドヴァルドは転移ゲートからの情報を受け、彼らを尾行していたのだ。
彼らを一定の距離をおいて追尾しており、その経過を淳一に報告していた。
(親方様、ヴァンター王国のイェルドは国境の2キロ手前で野営するようです)
(今日のうちにミッケリ王国に新たに作った国境砦にピルッカを連れて行ったよ)
(流石、親方様。先見の明がおありです)
イェルドの知らないところで、彼らに関する情報がやり取りされており、用意された罠へと向かう事になるのだった。
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