056 ハルムスタッド軍
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ハルムスタッド軍は膨らんだサポートの人数分の兵糧もどうにか確保し、途中の村からも食糧の提供という名目で強奪していき、国境の森の入り口に到着した。
兵も含めて6000人という集団が短期間でもその場に待機すれば、糞尿などで一気に環境は悪化する。
しかも、森の民と言われてはいるが、現在は森に近い人口環境に住んでおり、モンスターが出てくるような森に入る事は彼らの人生においてそれ程多い事ではないのだ。
そう言った事もあって森の入り口で進軍は足踏みしていた。
「お前たち!偉大なるハルムスタッド王国の軍人が森に入るのを何故躊躇うのか!商人ですらこの森を通って隣国へ向かうのだぞ!」
6000人もの規模の人員をまとめる大将がそう檄を飛ばす。
だが、国別対抗戦の際の選手などは転移ゲートを使ってユヴァスキャラ王国に入国していた。
応援団などもそうだし、普段、仕事で他国へ向かう際はほぼこの転移ゲートを使用しているので、森を通ってユヴァスキャラ王国に向かうというのは何か訳ありの人ぐらいなのだ。
その転移ゲートはこちらの動きを察知したのだろう、ユヴァスキャラ王国側でロックを掛けられており使えなくなっていた。
大将の言葉に促され、ノロノロとした歩みではあるが進軍が再開された。
森自体は幅20キロ程度。
中央に国境となる川が流れており、国境までは僅か10キロしかない。
森の進軍は1時間に1キロ程度で、しかも5時間ほどしか進めない。
それなので明日の夕方には国境に到着の予定だ。
「くっそ、この鎧着て森の中を進軍って正気かっ!」
「国境までは街道くらい整備しろよ!」
「こんなキツイ行軍、国境で敵が待っていたらどうすんだよ!」
そんな不平が兵たちから漏れる。
だが、ハルムスタッド王国という国は王が絶大な権力を持つ国。
王の決めた行軍に逆らう事はできないのだ。
ようやく国境まで半分のところに到着し夜営となるのだが、そんな森の中に6000人が野営できるような空き地がある筈もなく、身体を横たえる事も出来ずに火災予防のために小さな焚火のみで一晩を過ごした。
慣れない森の中の行軍に十分休みも取れない状態で明日、国境を越える事になる。
大将の任を預かる者でさえ、それが如何に無謀な事であるか肌で感じるのだ。
そんな野営地に斥候として送り出していた者たちが戻ってきた。
「ただいま戻りました!」
「うむ。ご苦労だった。で、国境付近はどうだった?」
「はっ!国境には、ユヴァスキャラ王国の国境砦がありました!」
「国境砦だと?どれくらいの規模だ!迂回は可能か?」
「国境砦を中心に10メートルを大きく越える石壁が延々と続いており迂回は不可能です。砦には見た感じ数百人が詰めておりますが攻略するだけで兵の損耗は避けられません」
ここで軍の撤退か、もしくは砦攻略かのどちらかとなるのだが当然、撤退という選択肢はないに等しい。
「……明日、予定通り進軍する」
「一旦撤退して仕切り直した方が……」
「それが一番、いや戦争そのものをなくすべきなんだが、だが王令は絶対なんだ」
結局、明日は予定通り国境に向けて進軍する事になった。
今回の行軍は様々な点で問題が発生していた。
兵站の確保にそもそも問題が生じていたのだ。
川を渡る事も考え、兵士以外に4000人もの人員が加わるという事はそれだけ兵糧の準備を必要とする事になる。
だが、普段から食料の備蓄に熱心な国ではない事もあり、1人あたりの食事量は必要最低限のものになった。
それもカチカチの黒パンに干し肉の中でも1番等級の低い少しえぐみのある物だ。
それでもないよりはマシだと、兵たちは胃袋に収めていく。
翌日も同様の食事でプレートアーマーを着込んで森の中を行軍。
どんどん兵士の士気は下がっていくばかりだった。
そんな中、ハルムスタッド軍の前に国境砦が現れたのだ。
「丁寧にも、石壁からきれいに木々を伐採して見通しを良くしていやがる」
「しかも、あの石壁、王城より立派じゃねえか!」
軍を率いる大将は、それでも攻砦に向けて陣形を整えるように指示する。
だが、大将の怒号だけが響き、兵たちは戦を拒否を始めた。
「勝てる筈ないだろう!」
「疲弊した兵を向かわせても死者が出るだけだ!」
「ろくに食っていないのに戦える筈がねえべ!」
そんな中、少年兵が砦の上から声を上げる。
拡声魔法を用いる事で6000人すべてに声が通るようにして、降伏を告げたのだ。
「我々は戦う必要がありますか?武装解除してこちらに剣を預けてくれれば美味しい食事を提供しましょう!大将が投降すればそれなりのポジションを用意しましょう!よく考えてから投降する方は砦の前に集まってください!」
その申し出は、少年の声ながら、自軍の大将の言葉よりも重みがあり信用に値すると思わせるのだった。
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