050 魔震
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
スミマセン。
アップ遅れました。
ピルッカに捕縛された教師は魔封じ用の手枷を後ろ手の状態で嵌められ、衛士に連行されていった。
エルミ王女が狙撃されたというショッキングな場面を多くの群衆が目撃したのだ。
ヴァンター王国に対する感情は最悪なものとなるのは時間のもんだいだろう。
そこに現れたのがまだ初等部5年のピルッカなのだ。
彼はヴァンター王国の教師を捕縛し、しかもエルミ王女は無傷。
エルミ王女が無傷なのはピルッカは全く関係ない事なのだが、多くの群衆は「英雄ピルッカの活躍でエルミ王女は無傷」と思い込んだのだ。
「英雄ピルッカ!」
「英雄ピルッカ!」
「英雄ピルッカ!」
俺にとっては最高の展開なのだが、件の教師が衛士に連行された際、ボソっと何やら呟いたのだ。
「これでユヴァスキャラ王国の王都は壊滅だ」
教師は確かにそう呟いたのだった。
どうもその言葉が引っかかるのだったが、そのまま王城へと向かう事にした。
それが大きな後悔へと繋がるのだが、今はまだその事に気がつかないのだった。
王城正門からは王立器楽隊が演奏して「英雄」を讃える。
この時点で、エルミ、ピルッカ、エレオノーラが「英雄」であり、その中でも王女を狙撃から護ったピルッカが英雄の中心人物という事になっていた。
もちろん、お調子者のピルッカは、本当に自分は英雄だと思っているが、それ以外はエレオノーラも含めて本当の英雄は俺だと考えている。
「英雄御一行の到着〜〜!」
馬車が王城に入るための階段前に停車し、そこから彼らは馬車から降りる事になった。
そこにはエルミの父親である王シュルヴェステルと王妃エヴェリーナが並んで一行が到着するのを待っていた。
馬車を降り、エルミ、ピルッカ、エレオノーラ、俺、由香、麻衣そしてセラフィーナの順で王の前に進む。
シュルヴェステルは俺がピルッカを英雄に祭り上げようとしている事を察し、その順番で並ぶ事を受け入れてくれた。
本来なら王城内で謁見の場を設けて褒賞などの受け渡しを行うのだが、今回は群衆も遠くからにはなるが見ることのできるように配慮していた。
王城周辺に王都人口の半数は集っただろうか、シュルヴェステルによる英雄を讃える言葉があり、そして褒賞が渡される。
(俺の思い過ごしであれば良いのだが……)
あの教師が呟いた言葉が思い起こされる。
王都壊滅。
王都を壊滅させる手段として、何が考えられるか。
飲み水に毒を混入するという手段もあるだろうが、これだけ広い王都の水源全てに毒をもるのはほぼ不可能だろう。
すると残された方法は……地震だ。
大きめの魔石を使い、その都市の地下で魔力暴走を起こせば大きな振動を引き起こす。
いわゆる魔震が起きるのだ。
(クソっ、浮かれてしまい魔震について考えていなかった!)
俺は熊五郎、にゃん太そしてポッポに念話で王都警戒を頼んだ。
(思い過ごしであれば良いのだが)
俺はそう思いながら、俺の意図を汲んでくれて警戒をしてくれる3匹に心の中で感謝する。
それと同時に俺は王城全体に強化を行う。
「ピルッカ!お主には騎士爵を与える。初等部を終了した時点でお主は騎士爵位に就くのだ」
彼はユヴァスキャラ王国の伯爵家の三男。
家を継げるポジションにいない彼の行末は、男系子孫のいない家に婿養子となるか、もしくは在野に下るかと言った道しか残されていない。
そんな彼に騎士爵が与えられれば、近い将来、王国軍騎士になる道が拓かれる事になるのだ。
エレオノーラも伯爵家の次女である事から、いくら婚約してはいるものの、ピルッカに未来がなければ婚約破棄の可能性もあったのだからエレオノーラにしても今回の陞爵はうれしいものだった。
ピルッカは嬉しそうに王の前に立ち、いざ陞爵証書を受け取ろうとしたその時、
「ん?地面が、揺れてる?」
誰かがそう言った瞬間、地面が跳ね上がるのだ。
直下型地震。
それと同じものが王都を襲ったのだ。
上下にシェイクされる建物。
石積みの家であろうが上下に揺らされれば石が崩れ、建物は崩壊する。
「うわっ、立ってられん」
シュルヴェステルはエヴェリーナを庇いながら地面に片膝立ちで小さく丸まる。
俺は瞬時に2人に多重結界を張り、万が一に備える。
王城は強化を行ったお陰で崩れる事はないが、城壁や正門などは音を立てて崩れていく。
「揺れは…‥収まったか……」
綺麗に整えられていた石畳も波打ち、今の地震がどれだけの被害をもたらすかそれだけ見ても予想できる。
「エルミっ!住宅街へ向かうぞ!怪我人の救護だ。手伝ってくれ!」
「ジュンイチ、いつでも行けるわ!」
「セラフィーナ、救助した怪我人を受け入れる準備を!」
「任せて!」
「由香と麻衣は患者の運搬を!」
「お兄ちゃん、任せて!」
「お兄様のためなら頑張れるわ!」
俺とエルミは王シュルヴェステルに断りを入れてから転移で街中へ向かった。
王城ですら城壁が崩れるなどの被害を生じたのだから意図を汲んでくれて意図を汲んでくれて王都内の平民の住宅は悲惨であった。
家々は崩れ果て、所々から火が出ていた。
「クソ、火事も起きてるか。「広域消火」」
先ずは火事を消し、それから全マップ探査を行い、瓦礫に埋もれている人がいないか調べる。
「エルミっ、俺が瓦礫を持ち上げるから中から人を引っ張り出してくれ!」
「エルミ、崩れそうな家には強化をして崩れないように補強だ」
俺は瓦礫を持ち上げるとそれをアイテムボックスに入れてしまい、瓦礫除去も同時に行う。
だが、どんなに強力な魔力を持っていようがたった2人でできる救命には限度がある。
王も救助隊を組織するのだが、救助活動は遅々として進まなかったのだ。
一方、セラフィーナは負傷者を受け入れる場所を作った。
恐らく数千人規模になるだろう。
由香と麻衣は次々と患者を運び込んでくる。
今回、不幸中の幸というか、多くの国民は家を出て王城周辺に向かっていた。
それにより家の下敷きになるというケースが少なく済んだのだ。
少なくと言ってもそれでも数千人という死傷者が出たのではあるが。
結局、その日は王都全体で言えば1割程度の地域しか救助できず、瓦礫撤去しながらの救助ができたのは3日間でせいぜい4割程度の地域しか助ける事ができなかったのだ。
最終的に、死者2747人、負傷者を30572人、行方不明者103人、家屋倒壊5万戸という被害をもたらしたのだった。
◇
「ふひゃひゃひゃひゃっ!これでユヴァスキャラもおしまいだぁっ!ヴァンター王国が攻め入り、この国は滅亡するのだ!!」
衛士詰所で尋問を受けていた教師は俺しか外せない手枷をしたまま石材の下敷きになり膝下が潰されていた。
詰所もまた魔震により倒壊しており、尋問官もろとも石材に潰されていたのだ。
使徒と聖女を殺す事は叶わなかったのだが、それでも王都壊滅を成し遂げた。
ここまでの被害であれば使徒や聖女も無事ではないだろう。
そう思っての言葉だった。
「さ、最後にこの国が滅びるのを目にできなかったのは残念だが……」
そう呟き自らの死を受け入れようとした。
尋問官もまだ生きているようで呻き声が聞こえるが、これだけの災害だ。
しかも建物の瓦礫を取り除いてからの救出。
それだけでも数日は掛かる。
助かる見込みはないのだ。
「それに……娘の顔も、妻にももう一度会いたかったが……」
そう言って目を瞑る。
その時、暗闇にいた筈だが瞼を通して強い明るさを感じた。
教師は驚きながら目を開けると、石材が浮いており、それが消失する。
「治癒」
少女の声が聞こえたかと思うと、先ほどまで感じていた熱く灼けるような痛みがなくなる。
「生存者を運び出してくれ。あっ、こいつはこの魔震の実行犯だから……口封じ対策を施し……連れて行ってくれ」
そんな言葉が聞こえたかと思うと、「俺は死ねなかったのか」と呟き教師は意識を手放した。
◇
魔震発生から1週間。
王都の7割近くが更地になっていた。
この世界の土地は全て国のものであり、王都の都市計画は住民との協議を必要とせずに立てられた。
だが、これだけの街を再興するのは多額の費用と何より人手が必要だ。
恐らく10年単位での期間を必要とするだろう。
「シュルヴェステル王、王都再建に関してお願いしたい事がありまして……」
「ジュンイチ、俺のことはお義父さん、と呼んでくれぬか?」
「お…義父さん……でいいでしょうか?」
「そうだ。次からはそのように呼んでくれ」
「はい。それでお願いなのですが、王都再建を任せて頂く事はできますでしょうか?」
「できるのか?」
「もともと建築が専門ですから」
「あい分かった。人手はこちらで手配するからいろいろ言ってくれ。ただ……資金はあまり出せないのだ」
「大丈夫ですよ。お願いするのは人件費くらいですから」
こうして王都再建が始まるのだった。
ようやく。
淳一の本領発揮です!
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