表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42歳独身サラリーマン、異世界で小さな幸せを掴む  作者: もふもふ大好き
第2章 学院生活
23/66

023 国立ユヴァスキャラ学院4 聖女

いつもお読みくださり誠にありがとうございます。


「えっ……私、戦闘センスは皆無なのはセラフィーナ先生も知っていると思うんですが……」


「良いから中央に行きなさい。対戦相手はエレオノーラあなたよ」


いきなり名指しされたエレオノーラは驚く。

基本、こう言った模擬試合は親しい者同士は指名しない暗黙の了解があった。

しかもエレオノーラはエルミとは違い、女子生徒の中では抜群に模擬試合は強く、男子を含めてもトップ3に入るくらいだ。

反対にエルミは戦闘だけでいうなら学年で40位にも入れるかどうかあやしいポジション。


「先生、私とじゃ試合になりません!」


エルミは親友であり、今は崇敬の対象である聖女でもある。

そんなエルミとは戦いたくないと思うのは致し方がないことだ。


「もう、良いからあなたもさっさと中央に行きなさい」


エレオノーラはセラフィーナの指示に従い格闘技場の中央に向かい、エルミと対峙した。

セラフィーナは2人に対して試合のルールを述べる。


「試合は魔法、近接武器、どんな手段でも構わないわ。手を抜いて闘ったら、規定通りクラスダウンよ。エレオノーラ、分かったわね?」


エレオノーラは黙って首肯する。

この場合は、少しでも早く終わらせた方がエルミを傷付けなくて済む。

そう考えて、開始の挨拶前から魔力を練り始めた。


「2人とも良いかな?それでは始め!」


エミルは逃げ腰だったが、それに対してエレオノーラは落ち着いて魔杖を掲げた。

魔法を発動する時によく見るポーズだが、エレオノーラはデロングと異なり、詠唱短縮が使えた。


「地にある石礫よ。古よりの契約に従い、その力を持って我に対する者を撃て。石飛礫(ストーンバレット)っ!」


これが石飛礫のフル詠唱になるが詠唱短縮の場合は


「我に対する者を撃て。石飛礫(ストーンバレット)っ!」


となる。

「撃て」がバレット系のキーワードとなり、「石礫」がそのままのキーワードとなっている。

因みに詠唱略となると、


石飛礫(ストーンバレット)っ!」


のみで、無詠唱だと何も言わずに魔法を発現できるようになる。

魔力操作とイメージさえ出来れば誰でも無詠唱は可能なのだが、教科書的にはフル詠唱の方が威力や効果が高くなると書かれている事もあり、多くの魔術師たちは詠唱を行なっている。

ただ、実際は詠唱しようがしまいが全く差がなく発動できるのは知る人ぞ知ることだったりする。

エレオノーラは、短縮詠唱でも攻撃に差がない事を体感で知っているので、この場も詠唱短縮を行う。


「我に対する者を撃て。石飛礫(ストーンバレット)っ!」


5センチ程の石礫が形成され、エルミに向かって飛翔していく。

狙ったのは太もも。

痛みを感じやすいが治癒もしやすい場所だからだ。


「きゃあっ!」


エルミは悲鳴を上げるが、模擬試合の間は誰も助けてはくれない。

もちろん、ジュンイチもだ。

エルミは掌を相手に向けて顔を覆うように防御とは言えない防御を行い目を瞑った。


「……?」


だが一向に痛みどころか衝撃すらない。

目を開いて見ているとエレオノーラが動揺する様が見受けられた。


「なっ!我に対する者を撃て。石飛礫(ストーンバレット)っ!」


再び石礫が形成され、エルミに向かって飛んでくるのだが、1メートル手前で具現化した魔力が強制解除されていたのだ。

一般に魔法の防御は反射するか耐えるかの2通り。

だが、エルミは無に帰す、という方法を行っているのだ。

要するに俺がデロングに対して行った魔法防御をエルミも行ったのだ。

エレオノーラは数度試しても全て掻き消されるのを見て、威力が上の魔法攻撃に切り替えた。


「我が敵を焼き払え!火の槍(ファイヤーランス)っ!」


デロングよりもより槍らしく形成された炎は青白い高温を意味する色であり、大きさも一回り大きいものだった。


「す、すっげーっ!」


クラスメートたちから感嘆の声が聞こえてくる。

それだけ素晴らしい魔力量と魔力制御なのだ。

その火の槍がエルミに向けて投擲された。

だが、その火の槍も石飛礫同様に1メートル前で消失していく。


「そ、そんな……使徒様だけでなくその伴侶の聖女様も同じことができるなんて……ステキっ!」


エレオノーラのエルミを見る目には♡マークが浮かび上がっているかの様だ。

彼女はエルミに対して次々と魔法攻撃を仕掛けるが全て消失。

エルミも次第にコツを覚えたのか、魔力発現そのものを強制キャンセルさせる事ができるようになり、エレオノーラはただ魔力の消費量だけが増えていった。


「エルミ、攻撃しないとクラスダウンよっ!」


セラフィーナからのダメ出しを受けてエルミは攻撃力の弱い石飛礫をエレオノーラに向けた。

すると直径1メートルはあろう巨石が幾つも形成され、それがエレオノーラに向けられる。

彼女はその魔法が自分に向けられた事で腰を抜かし、避ける事も出来なくなってしまう。


「ま、待って、エルミっ!流星雨(メテオ)なんか極大攻撃魔法を使ったらエレオノーラどころかこの学校が吹き飛んでしまうわ!あなたの勝ち、あなたの勝ちよっ!」


無詠唱で規格外の攻撃魔法を行使しようとしたエルミを慌てて止めたのだが、


「先生、これ流星雨ではなくて石飛礫なんですけど……」


この一言に、エレオノーラはエルミに対する崇敬の念を強め、セラフィーナは正妻の座を諦めたようだった。

エルミは発現させた巨石をキャンセルし俺のところへ戻ってきた。


「ジュンイチ、どうだった?」


「ああ。見事だったよ」


彼女の魔力量は聖女になり大幅に増加していた。

大魔導師とされる人でも2000有るかどうかという感じだが、俺と指輪を通して繋がった事で彼女の魔力量も俺と同じ9999となっていた。

これは彼女にとって今まで50ccのスクーターに乗ってたのを1000ccの大型バイクに乗り換えた様な感じだろう。

だからこそ石飛礫が流星雨の様な感じになったのだろうし、そこはこれからの課題。

しかし、これで彼女が聖女である事は学院にも知られるんだろうな。

そう考えていたら、クラスメートたちが俺たちのところにやってきて、


「エルミさん、すごーいっ!」


「いつ魔法の練習していたの?」


「今度、デロングをぶっ飛ばしてよっ!」


エルミもまさか模擬試合で自分が囲まれる日が来るとは思っても見なかったようで、非常に嬉しそうにしていた。

そうこうしているうちに、他の生徒たちの試合が行われていく。

非常に魔力が大きい者もいれば制御に長けている者もいるし、反対に魔力が小さかったり、制御が今一つの者もいた。

その中で最も問題なのが、魔力が大きく制御が苦手な者。

クラスメートの中ではヴェッラモがそうだ。

そんな彼女はエルミの発動した魔法に触発されて「自分も流星雨を発動させたい」と考えていた。

そのためには自分の番でもないのに魔力を練り始め、魔力を凝縮させていく。

ヴェッラモの番になる頃には、対戦するクラスメートもその異常な魔力量に足を竦ませてしまう程、魔力が膨れ上がっていた。


「い……いくわ、よ……天空に煌めく星々よ、その秘めたる力を我が敵の上に雨の如く降らしめよ!流星雨(メテオ)っ!」


俺は格闘技場に結界を張っていた事で、仮に本来あるべき力を持った流星雨が発動しても問題なく抑え込めると思っていた。

そういった事もあり、俺は特段ヴェッラモに注意を払っていなかったのだ。

だが、彼女が魔力制御に長けていない……いや、未熟な事から、彼女が練り上げていた魔力が暴走を始めた。


「えっ……?何?」


魔力は魔法として発動せずにそこで魔力暴走を始めた。

魔力が不定形にその性質を変えながら、より制御しづらいものへと変わっていき、最後は爆発を引き起こす。

その爆発は魔力量に比例するのだが、ヴェッラモが凝縮した魔力量は結界がなければこの格闘技場が跡形もなく吹き飛ぶ程の威力だ。


「いや、これ制御できない……暴走が、始まってる……死にたくない、死にたくない……」


ヴェッラモが泣き叫ぶ事で魔力暴走は決定的となり、結果、爆発を引き起こしたのだ。

結界内を閃光が満たし、その中のものは爆散する。

その瞬間、俺はヴェッラモとその対戦者に個別結界を張ったのだが……間に合わなかったのだ。

対戦者は気絶はしているが怪我一つなかった。

だが、ヴェッラモの両腕は肘から先が弾け飛んでいたのだ。


「うわああぁぁぁぁ……」


「ヴェッラモっ!」


彼女は地面に跪いた状態で泣き叫ぶ。

直ちに治癒を行わないと彼女の命も危うい大怪我を負っている。

そこに、俺とエルミ、そしてセラフィーナが駆け寄る。


「これは……酷いな」


クラスメートたちはただ見ているだけであり、女子生徒の中には、ヴェッラモの姿を見て恐怖の連鎖によって泣き叫び始める子たちもいた。


「これは酷い……」


セラフィーナが呟くとエルミは、


「先生、先に治癒をかけさせてください「治癒」。


詠唱略で「治癒」を掛けた瞬間、ヴェッラモも腕消失面が光りその先に失われた腕が生えてきたのだ。

それを目の当たりにしたセラフィーナは、


「これは……聖女の癒し、か……」


そう呟くとオーヴァージェン教の信徒でもないにも関わらずエルミに対して跪く。

欠損部位の復元などは通常行われる「治癒」では不可能であり、現在では伝説の中でのみ知られている「使徒の癒し」「聖女の癒し」のみでしかできない事なのだ。

こういった伝説などは宗教とは関係なく子供の頃から何度も読み聞かせを受けているこの世界の人たちにとって憧れであり、実際にそれを目のあたりにした際には、信仰の対象にすらなるだろう。

ヴェッラモはエルミに抱きつき、涙を流しながら感謝の言葉を重ねる。

クラスメートたちは、


「聖女様っ!」


「聖女様だ!」


「聖女の癒しを見られたなんて!」


エルミが聖女であると分かり、セラフィーナ同様、跪いていた。

当然、エレオノーラは聖女の奇跡である「聖女の癒し」が行われた事に感動し、跪きながら涙を流していた。

この日、学院内にエルミが聖女である事が一気に広まり、結局騒動が収まるまでエルミは学院を休まざるを得なくなるのだった。

感想を頂けると、書くときのエネルギー源になります。

ぜひぜひ、いろいろお待ちしております!!

ブクマ、レビュー、評価なんかは涙が出るくらい頂けたら嬉しいです。

応援のほど宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 楽しみにさせてもらっています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ