022 国立ユヴァスキャラ学院3 魔法対決
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「ジュンイチ、お昼、食べに行こう?」
「ああ。俺も学院の食事がどんな物か興味があるんだ」
「え……」
「ん……?」
俺はエルミとのやり取りで察しがついた。
王城の食事があのレベルなのだ、学食が王城より美味しい筈がないのだ。
そしてエルミがもう1人の少女を横に立たせて、
「ジュンイチに紹介するね。この子はエレオノーラ。私の友達なんだ。ピルッカとエレオノーラも婚約しているんだよ」
「初めまして。ジュンイチと呼んでくれ」
「初めまして、ジュンイチ様。何かございましたら私目にお申し付けください」
エレオノーラはそういうと深々と頭を下げた。
俺は頭を押さえて上を天を仰いだが、エレオノーラの態度を見て、ピルッカは不思議に思って尋ねた。
「エレオノーラ、どうしたんだ?随分と畏って」
「……ジュンイチ様は主神オーヴァージェン様の使徒様でエルミ様は聖女様でいらっしゃいます。気軽に話し掛けられるような存在ではありません」
「いや、普通で良いから。そうじゃないと学院生活が窮屈になるから」
「畏まりました。それではご学友の前でのみそのようにさせていただきます。ピルッカもそうして下さい」
まさかここにオーヴァージェンの信徒がいるとは思わなかったよ。
ただ、そんな窮屈な生活は絶対に嫌なので、
「もう一度、お願いするけど、常に、普通に接して。お願いできる?」
「……分かりました。いえ、分かったわ。これから宜しくねジュンイチさん」
「ああ。宜しくな、エレオノーラさん」
エレオノーラは少し表情は固かったが紹介も無事終わり、学食に向かう事になった。
「ジュンイチ、“お弁当”持ってきているでしょう?それを食べようよ」
要するにアイテムボックスから作り置きのものを食べさせて、という意味だ。
俺はもちろん首肯して、
「学食はお弁当も食べられるのかい?それとも外に行くか?」
俺が尋ねると、
「学食よりも外が良いんじゃないかな?」
「俺も外が良いよ」
「私はジュンイチさんが行くところに……」
エレオノーラの発言は他人が聞くと少し怪しいけど、まあ、そこは良しとしよう。
外に出て学院の中庭に行き、俺はそこでテーブルを出してサンドイッチを出した。
根野菜のコンソメスープとりんごも。
「なんだ、このパン!柔らかいしとっても美味しい!」
「このスープもなんて美味しさなの!」
ピルッカとエレオノーラは初めて食べる料理に驚き、無言で食べ続けていた。
俺とエルミにとってはいつもの光景を微笑みながら見つめていた。
「こ、これが使徒様の料理……」
「ジュンイチ、この料理は罪だ……」
そんな事を言いながら次の授業について話し始めた。
5限目は魔法実技、しかも戦闘訓練なんだそうだ。
「1組には少し乱暴者がいるんだよねぇ……ジュンイチは目を付けられるかも知れないなぁ」
ピルッカはそう言いながら注意を促してくれた。
そう言いながら一旦、1組に戻り、それから今日2回目の格闘技場へと向かう。
ただ、俺だけは魔杖を持っていなかった。
そこをピルッカとエレオノーラは心配してくれた。
格闘技場には20人の1組の生徒が集まり、俺以外は魔杖を手にして、魔法の発動の確認をしていた。
「さあ、授業を始めるわよ!」
この授業の担任は当然の事ながらセラフィーナ。
セラフィーナは俺が来るのを事前に知っているので、俺をクラスメートの前に立たせて、
「もう知っていると思うけど、今日から転入したジュンイチね。さあ、ダーリンと戦いたい生徒はいるかなぁっ?」
そこにツッコミを入れたのはエルミではなくエレオノーラだった。
「先生、今、ジュンイチさんの事をなんと仰いましたか?」
「え?ダーリンよ。聞こえなかった?」
シレッと返すセラフィーナ。
驚きのあまりフリーズしてしまったエレオノーラの事は放置し、
「さあ、立候補する子はいないのかな?」
2度目の言葉に、挙手をした男子生徒がいた。
身長は160センチに満たず、ずんぐりとした体型で、デロングという名前の生徒だ。
「デロングくん、ダーリンと戦ってみる?」
「ああ。杖も持たないような男に負ける筈がねえしな!」
「そう?それじゃあ、ダーリンとデロングくんは中央に行って貰える」
俺は何も手にせず、側から見たら徒手空拳でデロングに立ち向かう無謀な男に見えるようだ。
デロングはこの国の典型的な魔法使いの装いをしており、マントを羽織り魔杖を片手に俺の前に立った。
「デロング!俺たちのアイドルを奪った男を懲らしめてくれ〜っ!」
そんな声も聞こえて来る。
デロングは俺に向かってニヤリと笑い、
「降参するなら今のうちだぞ?」
そう言いながら杖で自分の肩をトントン叩いている。
「さあ、2人とも準備は良いかな?さあ、始めっ!」
セラフィーナの掛け声とともに模擬試合が始まる。
デロングは詠唱を開始する。
「原初の業火よ、万物を焦がす焔が数多の炎槍となり目の前の我が敵を焼き払え!」
彼が詠唱をし終わるとデロングの頭上に1本の火の槍が出現した。
「スゲー……」
「さすが、デロング……」
「ちびっちまいそうだぜっ!」
デロングは男子学生からの人気が高いらしく、彼が出現させた火の槍を褒め讃える。
彼は鼻を膨らませながら、俺に向かって腕を振り下ろすと、火の槍は俺目掛けて飛んできた。
どっびゅん
「「「「「うおぉぉぉっ!」」」」」
格闘技場に歓声が湧き上がる。
誰しも、俺がデロングの火に焼かれるのを期待していたようだ。
だが、その火の槍は俺に届く前に消滅していた。
俺は魔法が発動していてもそれを解除できるのだ。
「ん、なにっ?魔力が足りなかったか? 「原初の業火よ、万物を焦がす焔が数多の炎槍となり目の前の我が敵を焼き払え!」
再度火の槍が出現し俺に向かって飛来してきたが、今度は俺の手でそれをはたき落とす。
「……」
「ぐぬぬぬ、それならばこれでも喰らえっ!魔界の焔よ、全てを焼き尽くす真紅の滾りを以って焼き払え、地獄の業火っ!」
火の渦ができ、それが俺に向かった動き始めたのだが、魔力が絶対的に不足している。
火は俺に届く前に消え失せてしまった。
「えー、デロングくん?炎槍ってこうやるんだ」
俺の頭上に100本ほどの炎槍が出現し、それがデロングに向かって飛翔していく。
彼には当てないよう、地面にひたすら撃ち続けていくと、彼の足元は地面が溶けマグマのようになっていた。
それを見て彼は漏らしたようで、足元から湯気が立ち昇る。
「デロングくん。怖がらなくても大丈夫だよ。君の周辺には結界を張ってあるから」
そんな模擬試合の様子を見て男子生徒たちは口を閉ざし、反対に女子生徒たちからは黄色い歓声が上がった。
俺は土魔法で地面を元に戻し、セラフィーナの「勝者、ジュンイチ」の掛け声で試合は終了するが、この試合により圧倒的な魔力量と技量の違いを目の当たりにしたデロングはこれ以降、乱暴者という形を潜めるのだった。
「さて、次の試合は……当然、エルミさん。前へ」
エルミは元々、戦闘行為が苦手だった。
1組に在籍してはいるが、彼女はどちらかというと座学が得意な子なのだ。
セラフィーナはエルミの変化に気が付いたのだろうか、今まで模擬試合にエルミを指名したことはなかったにも関わらず今日は珍しく彼女を指名したのだった。
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