021 国立ユヴァスキャラ学院2 魔法 vs 魔法
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
「ジュンイチくん、あなたは本当は何者なの?」
「えー、俺の正体、ですか?」
「正直いうとあなたのその技量は既にこの学院レベルではないのよ」
「そんな事ないですよ」
「まあ良いわ。早速、最後の魔法の試験をするわ。殺し合いではないから使用するのは初級魔法だけね。それで相手が参ったというか戦闘不能になったらお終い。いい?」
「はい。お願いします!」
「もう、返事だけは初等部なんだから。でも、私は騙されないわよっ!それでは試験開始っ!」
セラフィーナはそう言うとファイヤランスを頭上に5本展開し、それを俺に向けて放つ。
業火とも言える炎の矢が俺に迫ってくるが、こんな短調な動きは避けるに易し、髪の毛1本焦がす事なく全て避け切る。
だが、セラフィーナは既に次のファイヤランスを展開しており、それと合わせて、俺の足元に拘束結界を発動していた。
「これでお終いね」
セラフィーナはそう言うと俺にファイヤランスを放つ。
だが、それは発動無効が行なわれ、現象発動まで進んでいた魔法が霧散していた。
気が付くと、彼の足元に展開した拘束結界も消え失せている。
「そんな……馬鹿な……っ!」
セラフィーナは狼狽し次の手を打つのを止めてしまった。
俺はファイヤランスだけでなく、アースランス、アイスランス、サンダーランス、エアランスとランス系魔法を5種類発動し、1種につき10本、計50本を頭上に発動し、それを一斉にセラフィーナに向けて放つ。
彼女は状況を判断し……逃げた。
彼女の魔力量では、これらを無効化もしくは防御するのが無理なのだ。
「きゃあっ!」
試験中だと言うのに、可愛い声を上げて逃げ惑うセラフィーナに容赦なくランス系魔法が襲い掛かる。
それも、ただ直進的に飛んでいくのではなく、追跡機能が付いており、避けても消滅せず、セラフィーナを執拗に追跡するのだ。
「シッ、障壁っ!」
彼女の張る障壁など簡単に突き破り、彼女を絶望の淵に追いやる。
数といい、質といい、全てがセラフィーナを上回っているのだ。
「こ、降参よっ!こんなの勝てる筈がないでしょ!」
彼女が宣言した瞬間、全てのランスが停止し、それを見た彼女は安心のあまり膝を突く。
そこで改めて俺のことを見ると驚愕したのか目を大きく見開いていた。
「ジュ、ジュンイチくん……あなたはどれだけランスを放てるの……?」
「やった事はありませんが、1000はイケると思いますよ」
「……こんな化け物に試験なんて……合格!合格に決まっているでしょっ!!」
そう言うとセラフィーナはその場で泣き始める。
俺は彼女の側に近寄り、頭を撫で、
「セラフィーナ先生、先生は素晴らしい技量をお持ちです。これからご指導お願い致します」
「な、何よっ!あなたの方が数段上、いえ、比較するのも烏滸がましいほどの差があるのにっ!それって嫌味?」
「嫌味じゃないですよ。魔法使いとしての経験、実績は俺のような子供にはないものです。俺は先生から学ぶ事は多いですよ」
そう言うと俺は彼女を優しく包容する。
「ほわっ……」
セラフィーナは俺の腕の中で耳まで真っ赤にして小さく俺に抱き付く。
「わ、私みたいなオバさんをオトシテどうする気なの?」
「オトシテはいませんが、先生はオバさんじゃないですよ。十分魅力的な女性です!」
「恐い初等部ね。でも良いわ。あなたが初等部卒業したら私の初めてをあげる」
「えっ!そ、それは……フィアンセもいますし……」
「何言っているの。この国は一夫多妻制なんだから問題ないのよ?それとも、イヤなの?」
「俺……ボク1人では決められないんですよ。フィアンセがエルミ王女なので……」
俺はヘタレを演じてみる事にした。
ハーレム願望なんてないし、今でも恋愛偏差値が低い俺には手に余る状態なんだから。
「あら、王女がフィアンセなら問題ないわ。私、これでも公爵令嬢だからフィアンセが一般国民よりも好都合よ!」
何だか墓穴を掘った感じになってしまったようで、冷や汗がダラダラ流れる。
絶対に獲物を逃さない肉食獣。
エルミとは対極の女性が目をギラギラさせ、豊かな双丘をブルンブルン揺らしながら、俺ににじり寄ってくる。
「セラフィーナ先生ーっ!試験終わりましたかぁー?」
そこに学生支援部で見かけた40代くらいに見える女性職員がやってきた。
するとセラフィナは職員の方に向き直り、
「お待たせしましたっ!ペーパー合格、体術に剣術、そして魔法も全て合格です!後ほど結果をお持ちしますとティニヤさんに伝えておいてください!」
「試験お疲れ様でした!それではジュンイチくん、教室に向かうわよ」
「は、はーい。今行きますっ!」
俺は職員のところに行こうとした際に、
「王城でまた逢いましょう、ね?」
セラフィナは俺にしか聞こえない程度に小さく呟き、俺に小さく手を振って見送ってくれた。
俺は口元が小さく引きつきながらも彼女に会釈して女性職員とともに教室へ向かった。
「推薦書もありますし、何よりセラフィナ先生が合格を出しましたので、あなたは5年1組よ」
説明によると1クラス20人で1学年5クラス編成となっている。
クラス分けは純粋に習熟度別で、1組が最上位クラスとなる。
エルミはこの1組の学生で、俺も試験の結果、いや、恐らく試験が悪くてもこの1組に所属する事になっただろう。
5年1組に向かいながら俺の身長の話しやこの学校の施設の説明を受けていると3限目が終わる鐘が鳴った。
「あら、丁度良いから、次の時間から授業を受けてくださいね」
そう言うとクラス担任のオルヴェに俺の事を引き継ぐ。
「このクラス担任のオルヴェだ。宜しくな!」
「イトウ・ジュンイチです。宜しくお願いします!」
「うん。良い挨拶だ。卒業まで宜しくな」
短い紹介を済ませると俺はクラスの中にオルヴェと共に入っていった。
すると、クラスの中から驚きの声が聞こえてきた。
14歳のエルフの平均身長は男で165センチ、女は156センチらしい。
俺の身長は176センチ。
クラスに男からしても10センチほど俺は背が高く、女の子から見ると20センチも高いのだ。
そりゃあ、驚くだろう、と思っていたら。
「きゃあー、イケメンよ!」
「このクラスで良かったっ!」
「名前はなんて言うのかしら!」
「ああ、抱かれたいっ!」
そんな声が女子生徒たちから聞こえ、男子生徒からは、
「くそっ、これで更にモテなくなるぜ!」
「あれだけイイ男ならモテ放題だろうな!」
「人族にもあんな男がいるんだな」
「何も最後の年にイケメンが転入してくるなんて……」
よくよく考えてみたら、俺の魅力知9999だったっけ。
セラフィナがああなったのも、この魅力知のおかげなのかも、と思って教壇の横に立った。
「はい、静かに!今日から転入してきたイトウ・ジュンイチくんだ。転入試験も優秀だったようだ。お互い刺激しあってより高みを目指して頑張ってくれ!」
俺はオルヴェに促され、挨拶をする。
「イトウ・ジュンイチです。今日から皆さんと一緒に学ばせていただきます。宜しくお願いします」
クラスからは拍手がされるがクラスの中程に、少し不機嫌そうなエルミがいた。
そこで俺は手を小さく振ると、彼女は満面の笑顔になり俺にも手を振ってくれた。
もちろん、そんな合図を送れば誰もがそれに気が付き、その合図の先で手を振り返しているエルミに気がつく。
「イトウさんに質問です!エルミさんとはどういった関係なんでしょうか!」
ある女子生徒が挙手をするも発言が先生によって許可される前に質問をした。
学院内では親の立場などは建前上、関係ない事になっており、お互いを「さん」もしくは「くん」付けで呼ぶようになっており、まだそれ程親しくない事もあり、女子生徒は「さん」付けになっている。
「はい。エルミは僕のフィアンセです」
「「「「「えーっ!フィアンセ!?」」」」」
女子生徒はイケメンは既に相手がいた事に、男子生徒からは学年、いや上級部も含めて学生から人気の高いエルミが婚約していた事に落胆した。
確か、この2週間ほどの休み前は婚約していなかった筈なのだ。
一夫多妻制のこの国は、ジュンイチはまだ望みはあってもエルミに関しては完全に芽がなくなった事を意味するのだ。
「さあ、それではジュンイチくんはフィアンセの隣にでも……座らせません!正直、俺のクラスで砂糖を吐きたくないしね!」
オルヴェがそう宣言すると、男子学生たちからは拍手喝采が送られた。
俺はクラスの一番後ろの窓側の席に座ると、隣の席の男子生徒が挨拶をしてきた。
身長は170センチくらいで、なかなかの男前だ。
金髪碧眼でこれが日本なら絶対にモテモテだろうって感じだ。
「ピルッカって言うんだ。宜しくな、モテ男!」
「ははは。ジュンイチだ。こちらこそ宜しくな。お前が言ったら他の男子生徒は怒るんじゃないか?」
「まあな。ほれ、教科書ないだろ?一緒に見ようぜ」
そう言いながらピルッカは俺の机に自分の机をくっ付けた。
4限目は魔法概論のようだ。
ー魔法は火、水、風そして地の属性があり、この他に聖の属性がある。この聖属性はエルフに使う事は出来ず、代わりに森の精霊による魔法が…… ー
こんな内容が書かれていた。
だが、実際に俺が使ってみての感覚では属性魔法という括りは存在せず、本人のイメージ次第で全ての属性が使えると感じていた。
実際に俺のスキルも「魔法(全属性)」となっているしね。
「先生!雷はどの属性になるんでしょうか?」
「氷はどの属性でしょうか?」
「はいはい。質問は挙手をして当てられてから答えなさい。ちなみに雷は風魔法の応用で、氷魔法は難しいが水魔法に火魔法の反転使用で氷魔法になるんだ」
「はいっ!」
「質問か?」
「はい!反転使用というのはなんでしょうか?」
「良い質問だ!火魔法は普通に威力を上げようとすると温度が上昇するだろ?これを反転使用すると温度が下がっていくんだ」
俺は、それは最初から氷を作ろうとしているだけの話なんじゃないかと思うのだが、どうしても4属性に纏めたいがための方便なんだろうな、と納得する。
だが、このクラスはなかなか向上心があり授業も工夫されていてなかなか面白かった。
あっという間に授業が終わり、食事の時間となる。
「ジュンイチ、1時間半ほど昼飯の時間なんだ。一緒にどうだ?」
「エルミも一緒で良いか?」
「ああ。もちろんだ。俺の彼女はエルミさんの友人だからな、一緒に紹介するよ」
そう話しているとエルミともう1人、エルミより少し身長が高く160センチほどの美少女がやってきた。
寝取りはないので、そこは安心してお読みください!
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