016 ユヴァスキャラ王国王城1
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ユヴァスキャラ神殿を後にした一行は王城へと向かった。
俺は王都の地図を開き眷属たちと共有した。
「ぽっぽ、ここから少し別行動だ。王城周辺を警戒して何かあったら伝えてくれ」
「クルルッッポゥッ!」
ぽっぽは羽を広げて、王都の空へと飛び立っていった。
そしてにゃん太を呼ぶ。
にゃん太は御者台の後ろの小窓から「うにゃにゃ」と身を捩りながら俺の横にきた。
「にゃん太。お前も地下から王城へと侵入し、何かあったら城の内側から撹乱してくれ」
「にゃあっ!」
にゃん太は御者台から飛び降り、颯爽と地面を縫うように走り抜けていった。
「熊五郎、聞こえるか?熊五郎はエルミから離れず、何かの時には彼女を守ってくれ」
「がうっ!」
まもなく王城に到着だ。
エルミが今身につけているペンダントに物理攻撃、魔法攻撃、異常状態をそれぞれ無効化付与を行っておく。
オーヴァージェンの指輪を身に付けているから、そうそう害される事はないとは思うが、エルミにとって王城は伏魔殿だからな。
警戒しても警戒しすぎというのはないだろう。
俺と目が合ったエルミはニコッと微笑んだが、やはり普段の様子とは違い緊張した感が抜けない様子だ。
程なくして王城に到着。
先導してくれた門兵はここまでで、そこからは王城警備隊の所轄なのだそうだ。
「エルミ王女及びイトウ・ジュンイチ殿です」
門兵が衛兵と情報のやり取りをしている。
馬車は王城の前まで乗り付け、そこから俺とエルミ、それに彼女に抱かれた熊五郎が王城へと入城する事になった。
王城はフランスのシャンボール城に似た、ルネッサンス様式の華美な城であり、俺がエルフという言葉に抱いていた森の守人というイメージとは掛け離れた建物だ。
何となく木の上に家があり、緑豊かな感じをイメージしていたが、ここまでの道中も石造の家が立ち並び、王都内には樹木を見る事はなかった。
王城内の庭園には樹木が植えられているようなのだが、王都内の庶民の暮らしには緑のある生活というのは無縁のようだ。
外見も華美なら当然の事ながら城内も華美な内装であり、高い天井にそして多くの魔石燈が室内を明るく灯していた。
街並みとかは中世ヨーロッパを彷彿させるが、このあたりは流石異世界と言った感じだ。
俺たちは侍女に先導され、そして2人の衛士が俺の後ろに位置し、俺が歩くにはどことなく場違いな城内を移動していた。
「それではエルミ様はこちらへ。ジュンイチ殿は応接室にお越し下さい」
エルミは熊五郎を抱きしめ、俺に向かって小さく頷き、そこに待機していた侍女と一緒にどこかに向かう。
俺もそれに首肯で返し、そのまま王城の奥へと案内された。
応接室はいくつかあるようで、その中でも最も位の高いものが招かれる応接室に俺は通されるのだと説明を受けた。
恐らく、そこには王族たちが待機しているのだろう。
応接室らしき場所のドアを侍女がノックし、
「失礼します。エルミ王女が連れて参りましたイトウ・ジュンイチ殿をお連れしました」
「入れ」
部屋の中から声が聞こえ、侍女はドアを開けて俺をその中へ誘った。
俺が応接室に入ると5人の男女が座していた。
王妃、兄の第1王子、姉の第1王女、弟の第2王子と第3王子が座っていたのだ。
「よくぞエルミを無事に届けてくれた。礼を言おう」
兄のエドヴァルド王子が最初に口を開いた。
「先に家族を紹介させてくれ。こちらが王妃であるエヴェリーナ、その隣が第1王女のサネルマ、次に第2王子であるエルネスティ、私の右にいるのが第3王子のラーファエルで、最後に私が第1王子のエドヴァルドだ。ここにはいないがこの国の王のシュルヴェステルがエルミの父親になる」
「丁寧な紹介をありがとうございます。私はエルミのフィアンセのイトウ・ジュンイチです」
俺の紹介を聞いたサネルマは、
「フィアンセ?そんなの誰も認めないわ。どこの馬の骨とも知れぬ男にエルミを嫁がせる訳にはいかない!」
少し興奮気味に話しているが、俺がしている指輪に気が付いたようだ。
「何、その指輪。もう結婚しているとでも言いたい訳?」
「そうですね。これは主神オーヴァージェンの指輪と言いますがご存知ですか?」
「オーヴァージェン?何、戯言言っているの?そんな神などいる筈もないし、そんな指輪に仰々しくも神の名を冠するなんてそれこそ不敬じゃない?」
それに対して、エヴェリーナは顔を青ざめながら、
「ジュンイチ殿……いや、ジュンイチ様、大変恐れ入りますがその指輪を見せていただく事はできますでしょうか?」
「王妃様。申し訳ありませんが、この指輪は主神オーヴァージェンとの契約で既に私の身体の一部となっており、外すことができません。ですからお側に私が参りましょう」
俺が立とうとした際に、ドアがノックされエルミが部屋に入ってきた。
エルミが普通に入室してきた事にサネルマは驚き、エミルの後ろに位置する侍女をキッと睨むが、侍女はサネルマに首を横に振っていた。
侍女はエルミに何かをしようと企んでいたようだ。
「ただいま戻りました。お母様、お姉様、お兄様、そして可愛い弟たち」
「よくぞ戻って参った……エルミ、その指輪っ!?」
エヴェリーナが目敏く左薬指にはまっている指輪を見つけた。
「はい。主神オーヴァージェン様の使徒であるジュンイチ様が生涯の伴侶として私を選んでくださいました。そこで主神オーヴァージェン様との契約を行い結婚が認められ指輪を受けました。そして今代の聖女となりジュンイチ様を支えていく事になりました」
「聖女……」
エヴェリーナは椅子から立ち上がり、跪く。
「母上、どうされたのですか?」
サネマルが王妃であるエヴェリーナが臣下の如くジュンイチと娘のエルミに跪いたのだ。
驚かない筈がない。
「主神オーヴァージェンはこの世界の創造神。その使徒様とその伴侶たる聖女様は我ら王族が相見える事が許されるような存在ではないのよ」
神殿が王都にもあるのだから少なからず信者は存在する。
そして、エヴェリーナはその少ない信者のうちの1人なのだ。
ギリッ ギリッ
どこからか歯軋りが聞こえる。
エルミが聖女に選ばれた事は許せないと考えるサネルマの口元から聞こえてきたのだ。
サネマルの形相は怒りに打ち震えた般若の如く、左右の眉の間には深い縦皺が刻み込まれている。
だが、そんなサネルマの事など視界に入っていないかのように、エルミはエヴェリーナとの会話を続けている。
「今回、使徒であるジュンイチが慈悲の心を持って父シュルヴェステルを癒しに来てくれたのです」
「有り難き幸せ。どうか、私の夫をお救いください!」
だが、それを聞いたサネルマの口元は歪な笑みを浮かべている。
(あれは病じゃないのよ。いくら治癒をしても良くならないのよ!)
そんなサネルマとは無関係にエヴェリーナは完全にジュンイチとエルミを神聖化していた。
兄弟たちはこの展開に全くついてこれず、ただ、エヴェリーナを先頭に、全員で病に伏しているシュルヴェステルの寝室へと向かうのだった。
「こちらが夫の部屋です」
部屋には様々な魔石具が置かれており、照明はもちろん、空気清浄や温度調節などが行われていた。
ベッドは介護しやすいようにシングルサイズのものだったが、掛け布団も重そうなものを使用していた。
そのベッドの中央で顔が黒く干からびた人物が横たわっていた。
話すことも出来ず、僅かに胸の上下で辛うじて生きているのだと分かる状態だ。
「夫のシュルヴェステルです。ジュンイチ様、どうか、どうか夫を治してください!」
俺は爺さんに言われた事を思い出し、右手を自分の心臓に当てて手の甲をシュルヴェステルに向ける。
「治癒」
俺がそう告げると紋章が光り輝きシュルヴェステルを照らす。
それと同時に右手を上げて紋章を掲げると、シュルヴェステルの身体から黒いもやが出てきてそれが光により浄化され消え失せていった。
「これは……病ではなく呪いですね。強力な呪術を掛けられていたようで、その呪いは今、掛けていた者たちに呪術返しとして向かっています。そうですね?サネルマさん」
エヴェリーナの後ろにいたサネルマが苦しそうに首を押さえて蹲っていた。
それとは反対にシュルヴェステルの顔は生気が戻り血の気を感じさせる顔色になっていた。
俺は合わせて「回復」をシュルヴェステルに掛けておいた。
シュルヴェステルの顔色が良くなるの対してサネルマも顔色は次第に黒くなっていく。
「この城の地下にこの呪術を行う魔法陣があるようですね。数人の術者がおりますので衛士に向かわせて捕縛をさせて下さい」
俺の言葉にエヴェリーナは即座に反応し、
「衛兵!地下に向かい不届きものを捕縛せよ!」
「はっ。直ちに衛兵を向かわせます!」
部屋の外から控えていた衛兵の声が聞こえ、バタバタと慌ただしい足音がしている。
その間に俺はアイテムボックスからりんごを取り出し、すりりんごを作った。
特別にミスリル製で彫金を施した器に同じ素材で作ったスプーンを添えてだ。
「エヴェリーナ様、いえ、お義母様とお呼びしても宜しいでしょうか。これはりんごの果実を搾ったものです。こちらをゆっくりとお義父様に飲ませて下さい」
当然、りんごは希少なもので王都では超高級食材だ。
りんご1個で金貨1枚という値段。
それをすんなり取り出した事に、他の兄弟たちも驚く。
「え、えぇ。ありがとうございます。目が覚めましたら飲ませてみます」
「それと、この呪術はサネルマさんが主体となって行なっていたようです。ただ、お義父様に掛かっていた呪いがそのまま返りましたので、解呪しませんと1週間ほどで亡くなると思います。どうなさいますか?」
実は、この呪術は……
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