015 ユヴァスキャラ王国へ5 王都神殿 ※
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
この世界に来てから12日目、王国に向かい6日目。
昨日は熊五郎たちの暴走もあってエミルは大変な目にあったのだが、その暴走の結果、昨日だけで65キロほど進む事ができた。
要するにあと15キロで森を抜けるのだ。
今日は午前中に森を抜けて、そこから馬車に乗り換え途中1泊して明日、王都に入都の予定だ。
昨晩、エルミと俺は軽めの食事だったこともあり、早めの朝食を取り、7時には王都へ向けて出立し、昨日の今日ということもあって時速4キロほどの速度で進む。
「やっと森を抜けたわっ!」
まだ森の近くという事もあり街道はないが、草原が広がり何より空が広がっているのが気持ちがいい。
「街道に出るまでこのまま進もう!」
1時間ほど進むと漸く街道に出た。
街道といっても砂利を敷いているとかそんな整備はされておらず、轍もできている典型的な地方街道だ。
だが、俺が作った馬車はこれくらいの轍はどうとでもできる。
馬男と馬子を馬車に繋ぎ、俺は御者服に着替える。
エルミも用意していたドレスに着替え、中に座る。
問題は熊五郎たちだ。
魔法でサイズを変えることもできるが、小さな成獣は可愛くない。
小熊、子猫がいいのだ。
そこでリジュヴェネーション魔法を作り、熊五郎とにゃん太を小熊と子猫に戻し、馬車の中にエルミと一緒に乗ってもらう。
ぽっぽはそのままの大きさで御者台に俺の横にいて貰う事にした。
御者台の後ろには小窓があり、俺はそこを開けて、
「それじゃあ、出発しよう。道が悪いから少し揺れるけど気持ち悪くなったら言ってな!」
「はい。宜しくお願いします」
エルミは王国内に戻ってきた事とドレスを着た事で、少しいつもと違う雰囲気のエルミがそこに座っていた。
背筋もピンと伸び、気を張り詰めさせている。
ケルピーに手綱で指示を出すと馬車が走り出した。
馬車としては少し早めの時速8キロで進む。
轍がひどい場所があるので少しゆっくりめに走っているのだ。
2キロも走ると小さな町があったが立ち寄らずに王都に進む。
途中、休憩を入れながら夕方になる前に夜営地を決めた。
そこは遠くに王都を望む事ができる小高い丘の上だ。
馬男と馬子にはりんごとにんじん、とうもろこし、それに牧草とたっぷりの水だ。
熊五郎とにゃん太はリジュヴェネーション魔法で小さい時は食事量も少なくなるので、それぞれ1キロ程度のお肉だ。
それなので今は3匹の中ではぽっぽが1番の大食漢だ。
異空間の中に俺とエルミ、小さな熊五郎とにゃん太、そしてぽっぽ。
馬男と馬子は気に括り付け、食事が終わったら熊五郎とにゃん太に朝まで護衛をしてもらう。
「エルミ、夕食だよ……緊張するかい?」
「……それはね。1週間以上も王城を離れた経験もなかったし……それに、フィアンセを連れて帰るなんて……どんな顔をして親の顔を見たらいいか悩むところよ」
「王女らしい話し方だね。そんなエルミも凛々しくていいね」
「もう、照れちゃうじゃない……」
ドレスを脱いでもやはり口調は出会った頃の話し方だ。
エルミと王都に戻る前の晩餐をし、早めに就寝する事にした。
この日、2人のベッドを近づけて、エルミと手を繋ぎながら朝を迎えるのだった。
翌朝、自宅へ転移していろいろ用件をこなしてから朝食の準備だ。
馬男と馬子に食事と水を。
今日はご飯となめことほうれん草の味噌汁、ラム肉のソテーとりんごジュースだ。
日本にいた頃ならこんな重い食事なんて食べられなかったが、今ではこれが標準となっている。
熊五郎とにゃん太もラム肉のソテー。
ただし塩は弱め。
ぽっぽは定番のとうもろこしと鶏肉だ。
これを食べ、俺は御者服、エルミはドレスに着替えて王都へ向かう。
王都の入り口は行列だった。
馬車で50台以上は並んでいるだろう。
「ジュンイチ、貴族専用の門があるからそちらに回って。そこから右に行けばいいから」
「分かった。おっ、あれかな?」
貴族専用の門は馬車が数台しか停まっておらず、どの馬車も立派に見えるが……この馬車には敵わないね。
直ぐに俺たちの番になり、門兵がやってきた。
「この馬、本当に馬?」
第一声がこれだった。
「これは第2王女エルミ様の馬車である」
俺は少し仰々しく、しかも朗々とした声で言ってみた。
すると門兵たちが集まってきて、
「本当にエルミ様の馬車か?御本人の確認と中を改めさせて頂きたいのだが」
俺は御者台から降り、ドアをノックする。
「エルミ様。王都門兵が顔を拝見したいそうです」
「どうぞ」
普段とは違う凛とした透き通った声が中から聞こえてきた。
俺は「失礼します」と言いドアを開ける。
そこにはこの国のドレスとは少し違うが、門兵たちが知るエルミ王女がそこに座っていた。
「久しぶりね。学院でお会いして以来かしら」
門兵はエルミの通う学院にも来ていたらしいが、そこは俺の知らないエルミだ。
「エ、エルミ様、大変失礼しました!ご不明になったと聞いており、我ら王都騎士団は全員、心配しておりました」
「心配かけたわね。私は主神オーヴァージェン様の加護を持つこちらの使徒ジュンイチに助けられ、無事に戻って参りました。王城へ向かう前に神殿に誘導してください」
「はっ、畏まりました!」
門兵たちは一礼して、1人は王城に伝令を、そして2人は神殿へと騎乗した上で誘導をしてくれた。
(なかなか練度の高い兵たちだな)
そう思いながら、神殿へと向かう事になった。
馬車は神殿前に停められ、俺とエルミ、そして門兵1人が神殿の中に入る事になった。
それまでは、熊五郎とにゃん太、ぽっぽが馬車を守ってくれるそうで、
「みんな、馬車のこと宜しくな」
というと、熊五郎は「フンスッ」、にゃん太は「にゃあ」そしてぽっぽは「クルッポゥ」と鳴いて応えてくれた。
一応、残りの門兵も馬車を見てくれるそうなので安心と言えるか。
俺とエルミを門兵が先導して神殿の中へと進むと、祭服と帯ともに白い下位神官がやってきて、
「すみません。ここは聖なる神殿です。帯剣されている方はお預かりしたいのですが」
「ああ。無作法で失礼した。用件はこの2人なのだ。エルミ王女、私どもは神殿前でお待ちしておりますので何かございましたら何なりとお申し出ください」
「ありがとう。それではその時に」
そういうと門兵は神殿前に戻って行った。
それを見送っていた下位神官は、
「王女様でいらっしゃいましたか。それで、本日の用件をお伺いします」
「はい。恐らく神託があったかと思いますが、主神オーヴァージェン様の使徒でらっしゃるジュンイチ様をお連れしました」
「神託!はいっ、ありました!急いで上位神官をお連れします!!」
そういうとその下位神官は急いで神殿の奥へと走っていった。
俺とエルミはお互いの顔を見合わせて、ぷっと吹き出す。
「爺さん、やっぱり偉いんだな」
「主神なのよ。もう爺さんて言わないの!」
「そうなんだけど、俺が主神オーヴァージェン様って言ったらどんな反応示すかな」
そんな話をしていたら5人の神官たちが慌てて走ってきた。
先程の下位神官は息を切らして苦しそうにしている。
「お、お、お待たせしましたっ」
5人のうち4人が白い帯で話しかけてきたのが赤色の帯だ。
「使徒様の印をどうかお見せ頂けますでしょうか?」
俺は右手の甲を掲げると主神オーヴァージェンの紋章が浮かび上がり、神殿全体が光り輝いた。
神官たちは全員腰を抜かし、
「「「「「た、確かに神託通りの使徒様だ〜〜っ!」」」」」
赤帯神官は腰が抜けてしまい満足に歩けないので4つばいになりながらも御神体へと移動して、そこに納められていた指輪を持ってきた。
「使徒様、お名前を伺っても宜しいでしょうか」
「ああ。俺はイトウ・ジュンイチ。イトウが姓だ」
それを聴くと神官は腰が抜けたままで、神言を紡ぎ、
「イトウ・ジュンイチを主神オーヴァージェンの使徒と認め、その証としてこの指輪を授ける」
そういうと赤帯神官は俺の左手薬指に指輪をはめた。
指輪には高級な石が付いている訳ではないが、鑑定すると神鋼というものでできており中には神言が掘られていた。次いで
「エルミ王女を主神オーヴァージェンの名において使徒イトウ・ジュンイチの伴侶と認める」
そしてエルミを手招きして彼女の左手薬指にその対たる指輪をはめる。
「さあ、お2人の指輪を合わせてください」
言われた通りその指輪を合わせるとカチリとはまり、俺の魔力がどんどんエルミに流れていくのだ。
「ぐぅぅっ」
「ジュンイチ様、今しばらくの辛抱です。これでエルミ王女は使徒様と並び立つ、聖女となるのです!」
聖女?そんなの聞いてないよ!
そんな事を考えていたら、彼女の右手の甲に俺と似たような紋章が浮かび上がっていく。
俺は初めて魔力枯渇に近い状態になるり立っているのもやっとの状態だ。
「ジュンイチ様。今後、私ども主神オーヴァージェン様を祀る我ら神殿はジュンイチ様を主神の顕現体であると考え、お支えしていきたく存じます。また、聖女エルミ様も同様に神殿は聖女様のために在るものとして働きかけていきたく存じます」
その時、神殿の入り口から10人ほどの騎士団が入ってきた。
勿論、帯剣してだ。
「ここは神聖なる神殿です。帯剣しての入殿はできません」
赤帯神官がいうと、1人の男がエルミを見て驚愕の表情を浮かべ、
「くっ……エルミ様、よくぞ御無事で……」
それを見たエルミは、
「そこのハンネスを捕らえよ!我に対する不敬罪及び殺人未遂だ」
騎士団は一瞬混乱した。
何せ、ハンネスというのは騎士団の団長だからだ。
その混乱に乗じてハンネスは剣を抜きエルミに斬りかかった。
「御命頂戴致します!」
だが、その剣が届く前にジュンイチ受け止められる。
右手の親指と人差し指でハンネスの剣を受け止めており、ハンネスはその剣を動かすことができなかった。
「さすが使徒様だ!」
「主神の加護は伊達ではない!」
「使徒様最強というのは本当だった!」
そんな声が神官たちから聞こえてくる。
そして、俺は「結界」を作りハンネスを拘束した。
ハンネスは部下たちに取り押さえられ、騎士団詰所の独居房に連行され収監される事になった。
「神官の皆さん。それではこれから王城へと向かいます」
「ジュンイチ様、そしてエルミ様。何かありましたらいつでもご命令ください!」
俺とエルミは神殿の馬車に戻り、門兵に先導されて王城へと向かうのだった。
※ スキルの変化
称号 : オーヴァージェンの使徒(NEW)
スキル : 剣術、棒術、槍術、体術、弓術、魔法(全属性)、付与、転移、眷属化、従属化、収納、鑑定、隠密、結界、鍛治、錬成、錬金術、重力操作、創造、治癒、回復、裁縫、調理、農業、狩猟、建築、自動地図、索敵、全マップ探査、身体強化、漁業、洗浄、浄化、話術、交渉、スキル獲得、健康体、複製、木工、紡績、生地作成、縫製
加護 : オーヴァージェン主神の加護
エルミ、聖女になってしまいました......
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