014 ユヴァスキャラ王国へ4 ケルピー
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
この世界に来て9日目、そして王国へ向かい始めて3日目。
俺は転移で自宅へ戻り、コケとコッコにとうもろこしをあげ、太郎と花子の牧草の状態を確認する。
コッコは卵を産んでおり、これってエルミが戻ってくる頃にはちょっとした数に増えているかもな、と期待する。
次に畑の雑草を取り除き、その他異常がないか確認した。
「さて、エルミのところへ戻ろうか」
そう呟くと俺は洞窟へ戻った。
朝食はフレンチトースト、兎肉と大根のスープ、りんごジュースを。
熊五郎とにゃん太は兎肉のローストのスープがけと熊五郎にりんごとにんじんを。
ぽっぽはいつものとうもろこしと鶏肉。
「淳一、いつもこんなに食べるのかね?」
「いやあ、この世界に来てからですよ。多分、魔法を使うからじゃないですか?」
「そんな事はないから超人類になった事による副作用か……」
「俺はそれほど気になりませんから。エルミ、ご飯を食べよう?」
エルミは少しお寝坊さんなので、彼女を起こしにいく。
「寝顔、可愛いね」
寝ている筈のエルミの顔が徐々に赤く染まっていく。
「エルミ、好きだよ」
「大事にするね」
「可愛い唇にキスしても良いかい?」
どんどん顔が真っ赤になり、エルミは俺に抱きついてきた。
そして、可愛い唇をそっと俺の唇に触れさせ、
「イジワル……」
そう小さな声で囁くように俺の心をざわめかすのだった。
そんな俺とエルミを見ていた爺さんは口から砂糖を吐き出していた。
「美味しそう!」
テーブルに着いたエルミの第一声だ。
何せフレンチトーストの虜になったエルミだ。
それがテーブルの上にあればテンションアゲアゲだろう。
爺さんも、
「これは!オーヴァージェンで集めた食材で作ったのか!?」
「ああ。この森は食材の宝庫だ」
そんな会話をしながら「いただきます」をして食事を楽しんだ。
一服したら王国へと向かうのだが、爺さんとはここでお別れする事になった。
「それじゃあ、淳一、頑張るんだぞ!」
「爺さんは一緒に行かないのか?」
「ああ、ワシもキャンプ場の管理が忙しいからのぉ」
「そうか。それじゃあ、また」
「そうじゃな。また会おうぞ」
俺たちがユヴァスキャラ王国へ向かうのを、爺さんは見送ってくれた。
昨日、爺さんと戦ってから、何故だか、魔法やスキルの使い方が何となくからはっきり分かるようになった。
今も熊五郎やにゃん太に風魔法を付与している。
すると昨日と同じように歩いている筈なのだが、速度が倍近く出ている。
この日、俺たちは40キロも進む事ができ、初日からだと70キロ、すなわちこの森の部分の旅程の1/3を超えた事になる。
夜営についても大きな変化があり、馬車作りの際に使った空間魔法を応用して異空間生成ができるようになった。
その空間内に自宅寝室のような部屋を作り、ダイニングセット、ベッドが2台、熊五郎たちが寝る場所用に毛の長いラグを敷き、その部屋にはドアを隔ててトイレや浴室なども設置した。
それなのでぐっすり眠ることも、食事を楽しむ空間も、何よりお風呂の時間も楽しめるようになった。
この世界に来てから10日目、王国に向かい4日目。
小雨降る天候だがしっかりと眠れた事で50キロほど進め、120キロとなる。
そして、この世界に来てから11日目、王国に向かい5日目。
朝食を食べて3時間ほど歩いていると、ようやく、欲しかった仲間?と出会ったのだ。
「エルミ、この先にケルピーがいる。彼らを手に入れたいから、熊五郎たちと先に進んでいてくれないか?熊五郎、にゃん太、ぽっぽ、エルミのこと宜しくな!」
「がうっ」「なー」「クルッポゥ」
3匹が同時に挨拶を返し、その目は「任せて!」という感じで俺を見つめる。
俺は3匹の頭を撫で、エルミの頬にキスをしてケルピーの所に向かう。
エルミは少し不安そうな表情を浮かべているが
20頭ほどの群れが草原で草を喰んでおり、俺はそこに向かっているのだ。
何となく、草食のモンスターは俺に対して警戒しない傾向にあり、ケルピーたちも俺が彼らに近付いても逃げる事なく俺に興味を持って見つめてきた。
「馬って言えばにんじんか」
「収納」からにんじんを取り出してケルピーの中でまだ若そうな1頭に差し出してみたら、スンスンと匂いを嗅いで美味しそうに食べ始めた。
すると別の1頭が俺に近付いて来たので、そのケルピーにもにんじんを与える。
2頭は美味しそうににんじんを頬張りながら俺に馬体を摺り寄せてくる。
すると、いつもの表示が現れてきた。
『「従属化」もしくは「眷属化」できます。 眷属化/従属化』
今回は「従属化」。
名前はオスとメスなので馬男と馬子。
馬男は黒曜馬のように漆黒の馬体で、馬子は瑠璃色の馬体だ。
「この子たちを連れてっても良いかい?」
群れのリーダーらしきケルピーに問いかけると「ヒヒーン」と嘶き、俺と一緒に群れを離れることを許してくれた。
「ついておいで!」
馬男と馬子に声を掛けて俺はエルミたちの所へ駆けていく。
身体強化を行うと森の中でも時速20キロを超える速度で駆ける事ができる。
ケルピーたちはそんな俺に負けない速度でついて来ていた。
そんな俺たちに気がついた熊五郎とにゃん太は速度を上げて俺とケルピーが追いつかないように駆け出した。
急に熊五郎が駆け出したので上に乗っているエルミは振り落とされにように熊五郎にしがみつき、
「く、熊五郎〜!速すぎるよ〜〜〜っ!」
エルミは途中、半ば気を失いながらもしがみついており結局2時間ほど走るのだった。
エルミは熊五郎の上で完全に車酔い状態なんて生易しいものではなく、顔も真っ青。
「治癒」「回復」を重ね掛けをし、どうにか話せる状態まで回復した。
熊五郎たちは追いかけられると本能的に逃げるんだそうで、俺たちが走ってきたことでつい走ってしまったようだ。
この日は、これ以上移動するのは止めにして早めに休むことに。
「ごめんな。今日はベッドでゆっくり寝ていてな」
「こっちこそ、ゴメン……」
「そんな事ないよ」
「ねえ、少しだけ隣にいて?」
未婚女性と同衾するのは好ましい事ではない。
だけど、ここまで衰弱した彼女の事を考えると側にいてやりたいという思いも強い。
「分かった。一緒に寝はしないけど隣で座っていようかな?」
俺はそういうと椅子を1脚取り出してベッドの横に置き、そこに腰掛ける。
するとエルミはベッドの真ん中から俺寄りに近付いて、
「ありがとうね」
「いや、礼なんていらないよ。俺がしたくてしているんだから」
そういうとエルミは目を瞑るのだった。
その間に俺は料理をする事にした。
爺さんが俺のアイテムボックスの中に色々お土産を入れてくれたのだが、それが本当に涙が出てくるほど嬉しいものだった。
先ずはお酒。
リクエストした、日本酒は甘口から辛口まで揃い、ワインも赤ワイン、白ワインもそれぞれ甘口から辛口まで。
シャンパンは某有名銘柄が白とロゼがそれぞれ入っていた。
他にも麦焼酎やコニャック、泡盛、それにソーダ水も入っていたのだ。
飲み物としては、全部ペットボトルの500mlと2リットルの2種類用意されていて、水、お茶、サイダー、コーラ、スポーツドリンクなどが入っていた。
そして最も嬉しいのは、調味料類がたっぷり入ってたのだ。
味噌も白味噌や赤味噌、合わせ味噌だけでなく麹味噌や麦味噌も。
油もオリーブオイル、エゴマ油、ごま油、しそ油にサラダ油などが入っていた。
他にも醤油、調理酒、みりん、砂糖、塩、蜂蜜なども数種類ずつあり、欲しかったゼラチンやコーンスターチ、バニラエッセンス、ニガリと言ったものや、米も数種類、野菜類はレンコンからオクラ、ほうれん草などスーパーで買える野菜は一通り入っていた。
他に香辛料も多数追加。
これで作れない料理はほぼ無くなったんじゃないかな?
「爺さん……次来たら旨いもんたっぷり用意するからな!」
それは小さく呟くと、エルミの晩ご飯だ。
アイテムボックスないで、米を2合ほど洗って、ごま油で炒める。
それを5倍の水でじっくり煮込んで中華粥を作る。
これとは別にごま油を熱して塩を溶かし込んだものを作り、お粥を食べる前にこれで味付けをするのだ。
すりごま、青しそを刻んだもの、分葱を刻んだものや鶏肉を蒸したものなどトッピングも。
折角、爺さんがゼラチンを用意してくれたので、プリンも作る。
卵と牛乳と砂糖を軽く熱しながら掻き混ぜていき、ゼラチンを加える。
錬成で作った型に、砂糖を熱して作ったカラメルを入れ、その後にプリンの溶液を流し込み冷やすと出来上がりだ。
まだ、エミルは起きて来ないから御者服や靴、エルミのドレスなども作っておこうか。
いつもの夕食の時間。
熊五郎たちは異空間の外で食事だ。
地面を均してシートを敷く。
そこに彼らの食事を並べる。
鴨肉のローストを熊五郎とにゃん太に。
熊五郎にはりんごとにんじんを追加し、ぽっぽはいつものメニューだ。
複製しているコンソメスープを少し掛けて、エルミのいない「いただきます」をする。
「やっぱりエルミがいないと寂しいな……」
「がぅ……」「なぁ……」「くぅ……」
彼らも同じように思ってくれているようだ。
「明日には元気になるから、今日は我慢だ。俺は異空間にいるから、何かあったらパスで呼んでな」
彼らは小さく返事し、俺は異空間に入っていった。
彼女はまだ寝ており、俺は椅子に座ってタオルケットに身を包んでうたた寝をする。
どれくらい寝ていただろうか、
「………たぁ」
そんな声が聞こえてきた。
「……いたぁ」
エルミの声だ。俺は椅子に座り直して、
「おはよう、エルミ、ご飯にしようか」
彼女はベッドの背もたれクッションを置いて背を預けて座り、膝の上にトレーを置いてそこに中華粥とトッピング、塩を溶かし込んだごま油を並べる。
同じものを俺の分も用意して「いただきます」をして食べ始める。
「お腹に優しい……」
「うん。なかなか美味しいな。今日は内臓が疲れているから軽めにしような」
食べ終わってから、食器類を収納して、プリンを出す。
黄色くてプルンとした見た目はこの世界にはない食べ物だ。
「……ジュンイチ、これって……食べ物?」
香り自体は甘い香りをしており、何かしらのデザートだと言うことは推測できるのだが、正直得体の知れない食べ物に見える。
「そうだよ。プリンと言って俺が住んでいた国では女性に大人気のデザートだよ。試しに食べてご覧」
エルミはそういうと恐る恐るスプーンをプリンに入れる。
プルンとスプーンの上に乗ったものをそっと口の中に入れる。
すると甘さが口中にふわっと広がり、得も言われぬ甘美な味わいに一瞬現実から意識が乖離してしまう。
「エルミ?」
「ふわっ……これ、美味しくてびっくりっ!」
「良かった喜んでくれて。消化にも良いからゆっくり食べてね」
「うん」
エルミは14歳というより6歳ぐらいの子供のようにプリンを食べていた。
ただ、やはりこの食事ではお腹が空いたようで、翌朝の食事はいつもより多く、肉を大量に食べるのだった。
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