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013 ユヴァスキャラ王国へ3 背後にある者

いつもお読みくださり誠にありがとうございます。

オーガが8体、待ち伏せをしており俺はその後ろに転移を行った。

6体は通常タイプのオーガ、1体は先ほど手合わせしたジェネラル。

そしてもう1体は……分からない。


「何故だ?鑑定でも分からないというのがあるのか。これってヤバい奴なんだろうな」


俺は取り敢えず、弓を構えて、「速度」×2「威力」「雷撃」を付与して連射した。

速度を重ね掛けした事もあり、音速を超えたようだ。

それに伴い、ソニックブームを生じる。

これだけ激しい音を伴うのだから逃げられそうだが、音がしたと思ったら矢が既に飛来しているのだ。

矢を連射し続ける。

普通のオーガは振り向く事なく爆散し、ジェネラルもまた吹き飛ばされ原型を留めていない。

だが、正体不明の存在だけは違う。

矢が当たっているにも関わらず、何もなかったかにようにそこに存在する。


「矢はダメか…それならった!」


俺が今まで使ってきた魔法は付与や土魔法、それに結界だ。

この結界を使って閉じ込めてみるか。


「多重結界!」


物理攻撃と魔法攻撃の無効化を付与した結界だ。

謎の者はこちらに向き直り、ニヤリと笑っている。

だが、今張っている結界はできうる最大の結界。

そうそう破られる筈が……


バリン


呆気なく破られてしまう。

多重結界が、物理攻撃や魔法攻撃無効を付与していたのに、だ。

この世界に来てまだ1週間だというのに、俺は今、足が震えて身動きができなくなっていた。

喉がカラカラになり、冷や汗が流れる。

だが、生きる可能性を捨てる事はできない。

転移で逃げる事もできるが、エルミを置いて逃げるなんてできない。


俺は弓と矢を収納し震える手で剣を握る。

謎の者が俺に向かって歩いてくる。

距離でいうなら500メートル程を歩いているのだから6分程でここに到着するだろう。

俺は恐怖で衝動的に走っていこうと思うのだが、それすらできないほど恐怖に囚われていた。


死。


その一文字が俺の頭の中に浮かび上がってくる。

そして、謎の者は俺の5メートル前までやってきた。

構えた剣先は震えて1点に留まっていられない。


「淳一、たった1週間で随分と逞しくなったのぉ」


「えっ?」


先程まで顔は認識できずにいたのだが、今、俺の目の前にいるのはキャンプ場の爺さん。

その爺さんが優しい眼差しで俺の事を見つめていた。


「ほれ、「状態異常解除」。これで震えは止まったかの?」


「あ、ああ。だが、爺さんがなんでオーガたちと?」


「そうじゃの。おぬしがどれだけ戦えるか見てみたかったのじゃ。80点、といったところかの」


「それって合格点か?」


「もちろんじゃ。まだスキルに振り回されてるし、使うスキルに偏りがあるがの」


俺は急に気が抜けて膝を突く。


「おぬしにはこの世界で気楽に生きて貰いたかったが、面倒事に巻き込まれてしまったようじゃ。そこでおぬしにこれを授けよう」


爺さんがそういうと俺の右手の甲に紋章が光り輝く。

五芒星の周囲にルーンが描かれており、付与を行う際の魔法陣とは違った言語が刻まれていた。


「その紋章はオーヴァージェン主神たるワシの紋章じゃ。ユヴァスキャラ王国の王都に着いたら神殿に行きこの紋章を見せるのじゃ。さすればエルフの王族なぞ……ふははははっ!」


「爺さん、悪人面してるぞ?」


「いいんじゃ。あの国はワシを敬う事をせんからの。あー、それでじゃ。エルミの父親を癒す前に必ずその紋章を掲げるんじゃ。あの男には厄介なモノが取り憑いているから普通のポーションや治癒では良くならん」


「分かった。いろいろありがとう、と言いたいところだけど、もう、あんなテストはしないでな。本当に死ぬかと思った」


「そりゃあ悪かった。この森の主くらいのレベルにしておいたんじゃがな。森の主は眷属を殺されたみたいだから怒っているやも知れん。一度、挨拶に行くといい」


「眷属ってエルミを襲った狼たちか。今回の件が済んだら行くとするよ」


「そうじゃな。それが良いだろう」


俺は立ち上がり膝に付いた土を払う。

そして、熊五郎たちがようやく到着し、俺を見つけて手を振っている。

俺も手を振り返し、


「爺さんは晩飯でも一緒に食うか?クリームシチューとか作れるがどうだ?」


「それは旨そうじゃの。何せこの世界のメシは不味いからの。おぬしが作ってきた料理はどれも旨そうでよだれが出てきて大変だったんだぞ」


「そうか、それならたまに食べに来たらいいさ」


「そうじゃな。キャンプ場が暇なら来てみるとするかな」


キャンプ場といえば、俺はあの世界から失踪した形になっているのだろうか?

両親や友人たちは心配しているのだろうか?


「おぬしがこの世界に転移してからはおぬしが存在していないパラレルワールドと入れ替わっておる。それとも、もう元の世界に戻りたいのか?」


「いや、それはない。この世界は気に入ったし、今はエルミを守ってやろうと思うしな」


「エルミか。あの子はいい子じゃ。大事にしてやるんじゃぞ?」


そんな話をしていたら、熊五郎たちが駆け寄ってきた。

エルミは熊五郎の背中から降りて、俺のところにきた。


「ジュンイチさん、大丈夫でした?それと……こちらの方は……?」


「紹介するよ。名前はオーヴァージェンで良いのかい?それとも爺さん?」


「おぬしは……まあ良い。ワシは人からはオーヴァージェンと呼ばれておる。宜しくな、お嬢ちゃん」


「はい!私はエルミと言います。ジュンイチさんの……フィアンセ、です……。よろしくお願いします!」


エルミは自分で言ったフィアンセという言葉に照れてしまい、顔を真っ赤に染めていた。

そして彼女はその赤い顔を隠すためにジュンイチの胸に顔を埋める。


「ふははははっ。淳一、愛い奴と思うじゃろ。良き女子じゃ。大事にするんじゃぞ」


「分かってるさ。間も無く雨が降ってくるからこの先にある洞窟で今日は夜営をしようか」


「なんじゃおぬし、もうそんな事まで分かるのか?」


「ああ。毎朝、採取をしていたからな」


「そうかそうか。これからも魔法の練習を励むんじゃぞ」


「そうするよ。もし分からない事があったら教えてくれるか?」


「旨い料理次第じゃな」


「よし!言質を取ったからなっ!」


俺たちは目標の距離には至らなかったが、10キロは進むことができ、洞窟で夜営をする事にした。

地面を慣らし、シートを敷いてテーブルと椅子を置く。

温度調節・湿度調節を行い、洞窟内と俺たちに洗浄・浄化も行った。

浄化を行った時に、洞窟の奥から何やらうめき声が聞こえてきたのだが、


「この奥にアンテッドが巣食っていたようじゃな。浄化で消え失せたぞ」


爺さんの言葉に、エルミは目を丸くして驚き、


「アンテッドを浄化って……オーヴァージェンさん、ジュンイチさんってやっぱり神官だったのですか?」


「お嬢ちゃん。ワシの事はジェンとでも呼んでくれ。略して爺さんでも良いぞ?ジュンイチは神官などではない。大神官の上位の使徒じゃな」


「おいおい、爺さん、そんな事言うとエルミが信じちゃうだろ」


「ワシは冗談は言わんのだがな」


エルミはそれを聞いて「キュ〜」と言いながら熊五郎の背中に倒れて気を失っていた。


「ほら、言わんこっちゃない……」


ついでだからベッドを出してエルミを寝かせておく。

洞窟内で火を起こすのは色々心配なのでアイテムボックス内で料理をする事にした。


芋とにんじん、玉ねぎを切り、鶏肉も一口大に切りバターで炒める。

それから少しブランデーを入れて炒め、それから小麦粉と塩、胡椒を加えて粉っぽさがなくなるまで炒め、野菜に火が通ったら牛乳とコンソメを加え、最後に仕上げにチーズを入れてコクを加えて出来上がりだ。

これだけだと少し物足りないのでレインボーシープのラム肉を炒めて複製していたものを解体でスライスし、土鍋ご飯とトマトサラダを用意した。


熊五郎とにゃん太にはマトンを焼いたものを。

熊五郎にはそれに追加してりんごとにんじんを与え、ぽっぽには定番のとうもろこしと鶏肉だ。

エルミは美味しそうな匂いで目を覚ますと食卓にやってきた。


「ジュンイチさん、使徒なんですか?」


「いや、違うぞ(そうだぞ)」


俺と爺さんが同時に答える。


「淳一、そろそろ現実を受け止めるんじゃ。偽っていたら苦しいだけだぞ?」


「はい……使徒だけど、他の人には秘密な?」


「はい!2人の秘密です!」


エルミは嬉しそうに食卓につく。

爺さんも食卓につくと、俺は木の器にクリームシチューをよそってテーブルに並べる。

真ん中には定番の土鍋ご飯。

それとラム肉のローストを大皿に盛り付け、取り箸と取り皿を用意する。

熊五郎たちのお皿にもマトンのローストを食べやすいように切り分けて、少しシチューをかける。


「それでは、いただきます!」


「いただきます!」


「いただきます、じゃの」


「がうっ!」


「なー!」


「クルッポゥ」


エルミは初めての料理を見て、1口、口の中に入れる。

本能だろうか、ほくほくした芋にトロッとシチューがかかっているものを、初めの1口に選んでいる。


「熱つ……おいひぃー!」


彼女はほふほふ言いながら食べる。

シチューの中のほくほく芋って最強だよな!

そう思いながら、俺もほふほふ。

爺さんもほふほふ。


「んー、んまいっ!」


「ほんに、旨いのぉ」


ぽっぽが俺の所に来て、自分にもシチューをかけてくれ、と言ってくるので、


「少しだけだぞ?」


そう言ってほくほく芋も一緒に入れてあげると、それを嘴の中で


「ぽ、ぽ、ぽ、ぽ……」


と言いながら美味しそうに食べている。

それを見た熊五郎とにゃん太も「もっとシチュー!」と訴えてきたので彼らにもほくほく芋を。


「んぐんぐんぐんぐ……」


「ぅなぅなぅなぅな……」


2頭とも美味しそうに食べている。

そして、エルミと爺さんも、


「おかわり!(じゃ!)」


もちろん、俺もおかわりをした。

食後、爺さんとビールを飲みながら色々世間話をしていた。

エルミは俺の側に寄り添いながら黙ってその話を聞いている。


「そういえば、今、淳一が欲しいものはあるかのぉ?」


「うーん……欲しいものねぇ……特にないけど、あったら嬉しいのは純米大吟醸と赤ワインと白ワイン、それにシャンパンの白とロゼかな?」


「ふははははっ。酒ばかりじゃの?」


「いや、大抵のものは作れるけどこればかりはなかなか難しそうだからな」


「そうか。それでは欲のない淳一にもう少しプレゼントをアイテムボックスに入れておいてやろう」


「爺さん、いつもありがとうな」


俺はお酒を飲んで気持ち良い感じにいたのでアイテムボックスを確認せずにそのままベッドに向かう。


「エルミ、爺さん、俺……3台のベッドを置いて羽毛布団……枕……」


結局、ベッドにはエルミと爺さんが寝ていて、俺は熊五郎とにゃん太、ぽっぽに包まれて寝てしまうのだった。

爺さん再登場でした!


感想を頂けると、書くときのエネルギー源になります。

ぜひぜひ、いろいろお待ちしております!!

ブクマ、レビュー、評価なんかは涙が出るくらい頂けたら嬉しいです。

応援のほど宜しくお願いします!

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