011 ユヴァスキャラ王国へ1
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
7日目の朝、やはり日の出前に目が覚めた俺はいつものルーチンで水を1杯飲み、それからコケとコッコに餌を、太郎と花子の牧草の状態を確認する。
出かけるので、敷地を囲むように石製の囲いを作り硬化などを付与する。
畑に行き、育った野菜や薬草を収穫し、少し育成に時間がかかる大根やにんじんなどを植えておく。
熊五郎とにゃん太は敷地内を駆け回って鬼ごっこをして運動不足解消をしていた。
「まあ、1日に1回は家に戻るつもりだけどね」
俺は独りごちながら家に戻り、朝ごはんの準備を始める。
今日はご飯と、ほうれん草となめこの味噌汁、それにニジマスと梨だ。
熊五郎にはりんごとにんじん、それに牛肉を4キロ、にゃん太は鶏肉を4キロ、ぽっぽにはとうもろこしとニジマスだ。
食事の準備をしていたらエルミが起きてきた。
「おはよう」
「おはよう、エルミ。そろそろご飯の時間だよ。顔を洗っておいで」
「今日は森に行かなくていいの?」
「これからしばらくずっと森の中だからね」
「そうだよね……今日から宜しくね」
「ああ。心配いらないよ」
俺はそう言うとテーブルに食器を並べて土鍋をテーブルの真ん中に、そして味噌汁とニジマスの塩焼きを1人3匹並べた。
毎日の運動量が多いからこれだけ食べても体重が増えないんだけど、元の世界を考えると食べ過ぎだよなぁ、と思う。
エルミが座り、外を駆け回っていた熊五郎とにゃん太も戻ってきた。
ぽっぽもやってきて、朝ごはんをいただく。
ご飯をしっかり食べないと途中でバテてしまうから、エルミもお代わりをいつもと同じだけ行う。
食事が終わると、後片付けをして皮鎧を身に付け、熊五郎には鞍などを付ける。
「さあ、エルミの生まれ育った国へ行こうか!」
「がうっ!」
「んなぁーっ!」
「クルルポーッ!」
熊五郎、にゃん太、ぽっぽは元気に挨拶する。
すると、エルミは1頭ずつハグをしながら、
「今日は宜しくね」
と言っていく。
そして最後に俺のところにきて抱きついて俺の胸に顔を埋めて、
「今日からお願い」
少し震えながら俺に思いを伝える。
「ああ。大丈夫だ」
俺もエルミを抱きしめ、そして熊五郎に乗せた。
「にゃん太は熊五郎の後ろに、ぽっぽは熊五郎の背中に乗りエミルの前にいてくれ」
そう指示を出して、家を出た。
家には敷地よりも強固な結界を張り、敷地の境界の結界も普段よりも強めにした。
俺は一度振り返り、ユヴァスキャラ王国へと向かう。
普通の人なら恐らく1時間に1キロ程度しか進めないだろうが、俺たちは3キロ程度の速度で進んでいた。
熊五郎とにゃん太は歩き慣れているので、走れば20キロから25キロは出るかもしれないが、距離があるので無理をしない速度で進んでいる。
「ねえ、ジュンイチ、モンスターが全然出てこないね」
「ん?ああ、それはモンスターや虫が近寄らないようにする弱目の結界を張っているからだよ」
「そんな便利な結界があるの!?普通なら、煙臭い虫除け香を焚いたりするんだよ。ウップ……」
「そうなんだ。それは大変そうだね」
本来なら共感すべき話なんだろうな。
「そうそう、虫除けすると煙くって」
などのように言うと話も弾むんだろうけど、正直、俺には分からないことだからそれは仕方がないことだ。
エルミが跨っている鞍には振動軽減を加えているんだけど、少し車酔いに近い症状が出ているようだ。
そこで状態異常を軽減する弱目の「治癒」を行った。
皮鎧に常時治癒を加えた筈だけど、状態異常は効果が薄いのかな?
「どう?少し楽になった?」
「ありがとう。乗馬でも少し酔っちゃうから。でも、頑張るから」
「無理をするなよ?」
道中、1時間ごとに果物を食べるようにしている。
熊五郎も慣れぬ鞍の装着に少し疲労も起こしやすいだろうし、人を乗せる事自体初めてだろう。
りんごをあげると嬉しそうに食べている。
ぽっぽもりんごを食べるけどにゃん太だけは鶏肉のジャーキーにする。
「んな、んな、んな」
と言いながらジャーキーを噛んでいるのは、体重が500キロもあるクゥアールとは思えない可愛さだ。
俺はこの休憩時間に、大根と豚肉の角煮もアイテムボックス内で作っておく。
そんな感じに休憩時間を活用して出発だ。
エルミも熊五郎に騎乗するのが慣れてきたようで、顔色も悪くないし、何より熊五郎が歩きやすそうだ。
俺も歩くだけだと少し飽きるので、熊五郎に遅れないように採取を続ける。
また、弓矢があるのでいろんな鳥類も狩りながら進む。
この日、野営地に着くまでに、雉子、鴨、雷鳥といった鳥類だけでなくビックホーンディアという500キロ近い鹿型モンスターも狩ることができた。
ビックホーンディアを解体すると、
・ビックホーンディアの肉 300キロ
・ビックホーンディアの角 1組
・ビックホーンディアの皮 1枚
・ビックホーンディアの尻尾 1本
・魔石大 × 1
・討伐部位 : 右耳
調べてみると、このビックホーンディアの肉も高級食材で雷鳥はモンスターでないけど同じく高級食材だった。
野営地は草を刈って地面を平してシートを敷く。
半径10メートルに結界を張るので夜番は不要だ。
焚き火をして、ご飯と芋とにんじん、玉ねぎの味噌汁にお昼に作っておいた大根と豚肉の角煮。
熊五郎とにゃん太は豚肉のローストを4キロに熊五郎はりんごとにんじん。
ぽっぽはとうもろこしと茹で卵だ。
焚き火をするとキャンプをしていた時を思い出し、少しだけ元世界の事を思い出すがここで感傷に耽るのは好ましくないので、
「さあ、食べようか。いただきます!」
家にいる時と変わらずに食事の挨拶をする。
エルミも熊五郎たちも挨拶をして食事を摂りはじめた。
「ねえ、普通はこんな時は干し肉と硬い黒パンというのが定番なんだよ。こんな美味しい食事が食べられて本当に感謝よ」
「干し肉と黒パンか……そう言えば本で読んだことがあるよ」
若い時に読んだ異世界転生ものの小説では定番の食事だ。
「ジュンイチは結構高度な教育を受けているのね」
「高度な教育かどうかは知らないけど、6歳から最低9年は義務教育のある国だったからね」
「9年!王国では9歳から15歳までよ。私もまだ学生なんだ」
「学生で冒険してたの?」
「うん。あれは授業の一環で課外授業中に転移させられたの」
「それは酷いな」
「帰ったら絶対に罰してやるんだから!それはそうと、この料理も美味しいね」
「これは俺の母親に教わった料理なんだ」
「お母様……国にいるの?」
「ああ。元気に暮らしてるよ。大根と豚肉の角煮って言うんだけど、今度作り方を教えてあげるよ」
「え……、私でも作れるの?」
「多分ね……うそうそ、絶対に作れるから王様にでも作ってあげたらいいよ」
「うん。王城へ着いたら教えてね」
食後の会話を楽しんだら俺は全員の体に「洗浄」と「浄化」を行い、シートの上に寝袋を2つ置いてその中に潜り込んだ。
左隣はエルミ。
右は熊五郎でエルミの左側ににゃん太が寝る。
ぽっぽは頭の上に蹲っている。
「おやすみ、エルミ、熊五郎、にゃん太、ぽっぽ」
「おやすみ、ジュンイチ」
エルミは寝袋に入ったまま俺に近づき唇を重ねる。
3匹もそれぞれ返事をして眠りにつくのだった。
『ここに住んでから1週間。どう成長したか見てやろうかのぉ』
そう呟く存在がいたが、誰もこの存在に気がつく事はなかった。
なんだか不穏な存在が登場してきました。
実は、005話にも少し書いてあるんですよ。
感想を頂けると、書くときのエネルギー源になります。
ぜひぜひ、いろいろお待ちしております!!
ブクマ、レビュー、評価なんかは涙が出るくらい頂けたら嬉しいです。
応援のほど宜しくお願いします!




