010 出立前日の夜
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
朝食が終わり、まるで妊婦のようにお腹が膨らんでいるエルミはソファーの上で「うーんうーん」と唸りながら横になっていた。
俺は後片付けを数分で終え、エルミの横で今朝ゲットできたレインボーシープの羊毛を使い、ベッドマットを作ったり、綿の毛布や女性の月のモノ用のショーツ、ナプキンがわりのタオルを作った。
他にも生地を染色してスカートやズボン、ワンピース、シャツ、セーター、マフラー、手袋、靴下を作っていく。
生地としてシルク、木綿、それにウールがあるのだから、大抵のものは作れるだろう。
それに俺が着ていた防寒具の生地を「複製」してダウンジャケット、ダウンコートを。
何せ王国は冬へと向かっているのだから用意しておいた方が良いだろう。
王国で売れるか分からないが、ホーンラビットの毛皮を丸々使いレインボーシープの羊毛で作った生地を裏地に当てたリアルファーを作っておく。
そんな午前を過ごしていたら、ぽっぽが帰ってきた。
コンコン
窓を嘴でノックする。
窓を含めて家全体に破壊不能が付与されているので、エルダーピジョンが嘴でノックしてもガラスが割れる事はない。
「お疲れ様。肉を焼くから食べてな」
「クルルポーッ!」
ぽっぽは嬉しそうに喉を鳴らすと用意した鶏肉を焼いたものを1キロとりんごを食べ始めた。
俺は筒の中から手紙を取り出して、
「エルミ、手紙だよ」
そう言うと彼女はソファーから飛び起き、俺から手紙を受け取る。
「ありがとう、ジュンイチ。早速読ませて貰うね」
そういうと少し険しい表情を浮かべながら手紙を読んでいた。
そして「ふーっ」とため息を吐いて、少し俯く。
「なんて書いてあったんだい?」
「うん。一部で私の死亡説が流れていて……発信源は騎士団長なんだけど、早めに帰って来れるか?と言った内容」
そう言って俺に手紙を渡した。
「読んでもいいか?」の問いに彼女は黙って首肯で返事をする。
俺もそれを読んでから、
「少し早いが、明日にでも出発しようか」
今まで料理してきたものは既に複製しているからいつでも出立できる。
「いいの?」
「ああ、もうこの家も大体出来上がっているからな」
「ありがとう……でも、ジュンイチは王国に住んでくれるの?それともやっぱりこの家がいい?」
「エルミはこの家の住み心地はどうだい?」
「うん。王城よりも快適。ここほど快適な家を私は知らないわ」
「だから俺も帰ってきたいけど、一度、王城へ行けば転移で移動できるからね」
「仕事は王城で、夜はこの家という事もできるの?」
「多分ね」
「それなら、私はそうしたい」
「そうか。それなら色々準備しないとな」
「ありがとうっ!」
エルミは俺に抱きつき、そして唇を重ねた。
午後は、馬車作りをする。
タイプは箱馬車で4人乗りで後部に荷物置きスペースのあるタイプにした。
馬車を作るのは森を出たら馬車で移動できるようにするためだ。
森の中はエルミは熊五郎の背中に乗って移動すれば移動時間を短縮できるだろうが、森を出て熊五郎に跨っていたらそれって金太郎だろ?
フレームやシャフト、車輪、サスペンションなどをアダマンタイト製にして全体的な強度を上げる。
そして、黒檀を使って車体を作り、中はクッションの効いたソファーを設置する。
タイヤは使っていたキャリーカートの車輪についていたゴムを「複製」してそれを基に創造して車輪に巻き付けた。
金属部はミスチルワームから得た金を使ってメッキ処理し、車体部分は伐採した木の中に漆があり、それに酸化鉄を混ぜて黒の塗料を作る。
それを外側に、中は赤色酸化鉄を混ぜて赤色にした。
最後に不破壊、魔法攻撃無効、物理攻撃無効、状態異常無効、防汚、防音、減振動、重さ1/5、温度・湿度調節などを付与した。
また、エルミが熊五郎に跨るために必要な鞍などを作りエルミの負担を減らせるようにした。
「さて、後は、エルミの装備だ。グレートベアの毛皮を鞣して皮鎧を作りそれに各種付与をすれば良いか」
俺は自分用とエルミ用の皮鎧を作り、また、ミスリルでブロードソードを作った。
そして皮鎧には防御系だけでなく体力回復や魔力回復、常時治癒も付与した。
「エルミ、これを装着して貰えるかい?」
「これは?」
「グレートベアの皮を使った皮鎧だよ。森の中を行くのに、あの装備は厳しいからね」
「いつも……ありがとう」
エルミはそう言って俺に抱きつく。
細くて柔くて、そんなエルミを俺も抱きしめ、
「明日から少し大変だからな」
「うん」
互いの体温を温もりとして感じるのだった。
出立前日の夕食という事で、今日はメタルボアのステーキにした。
1人300グラム。
熊五郎は5キロ、にゃん太は4キロ、ぽっぽは1キロをグリルで焼き上げる。
スープはトマトとにんじん、サツマイモのコンソメスープだ。
そしてもう一つ。
牛乳と砂糖、卵黄、そして生クリームでアイスクリームを作る。
ご飯を土鍋で炊き、その間にスープ、それからステーキの順で作る。
アイスクリームはアイテムボックスの中で調理する事でエルミに知られずにできる。
「さあ、ご飯の時間だよーっ!」
エルミも食器を出すなど手伝いをしてくれる。
炊き上がったご飯は軽くかき混ぜて土鍋ごといったん「収納」して「複製」しておく。
その土鍋をテーブルの真ん中に置き、ステーキ、スープをよそい、
熊五郎、にゃん太、ぽっぽの皿にそれぞれステーキを配る。
もちろん、スープを少し掛けてあげる。
「それでは、いただきます!」
「いただきます……」
「がうっ!」
「なーっ!」
「クルッポーッ!」
いつもならまっ先に食べ始めるエルミはまだ箸すら触っていない。
「どうした?」
「うん……森にはやっぱり恐怖があるから……」
「大丈夫。俺が守るし、熊五郎もにゃん太もそしてぽっぽも付いてるよ」
「そうだよね」
3匹は食べるのをやめてエルミに身体を擦り付ける。
「優しいね、みんな」
「そうだな。皆んな、本当にいい子たちだよ」
「さあ、私もしっかり食べよう!」
そう言うとエルミはメタルボアのステーキを食べ始めた。
この日、エルミがお代わりを2回しかしなかった事で初めてご飯を残す事になった。
お風呂も入り、今日はソファーではなく自分のベッドに寝る事になったのだが……
エルミは俺のベッドにやってきた。
「同衾はダメだろ?」
「ダメ。でも……」
「それなら熊五郎たちと一緒に寝ようか?」
「いいの?」
「ああ。俺もエルミと触れ合いたかったし」
エルミは顔を上気させて持ってきた枕をギュッと抱きしめる。
俺はベッドから出てエルミの肩を抱き寄せてリビングに向かう。
「熊五郎、にゃん太、側においで」
700キロの熊五郎を枕に、クッションを並べて簡易のベッドにし、500キロのにゃん太と俺とでエルミを挟んだ。
「ポー!」
部屋が暗いと言うのに、ぽっぽが床の上を首を前後に振りながら歩いてエルミの足元にやってきた。
毛布で俺とエルミを覆う。
「皆んな、エルミが好きなんだよ」
「がう」
「なっ」
「ポー」
3匹もそうだよ、と肯定する。
「私も皆んな愛してる。特に……ジュンイチ」
エルミは俺に顔を近づけ、一瞬、恥じらいを見せて唇を軽く触れさせる。
「俺も愛してる」
「知ってる」
顔を真っ赤にしてエルミは俺の言葉に答え、毛布を頭から被る。
彼女の肩に手を回し、彼女の少し早くなった鼓動を感じながら意識を途切らせ、こうして6日目を終えるのだった。
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