パン好き彼女に贈る詩
学生のときのバイト先
今日で閉店すると聞いた
そのことは何日も前から新聞にも載っていたから
けっこう有名な飲食店だったんだと
僕が最後まで言えなかった言葉
君に言えなかった言葉・・
あとで聞いた話だけど
君がこの店をバイト先に選んだのは
近くにお気に入りのパン屋さんがあったから
バイトに入る前
休憩時間か
バイトを終えた後に
君はパン屋に寄ってはお気に入りのものを探す
けっこう買い込んでは
はにかんだ笑顔でいる
僕は一度だけ、その店に行こうと誘われたことがあった
残念ながら、その頃の僕は
特にパンが好きなわけでもなく
君に連れていかれただけで
何の感想を語らないでいた
そのパン屋は今も変わらずその場所に存在する
僕が駅に向かう
この交差点で待つ間
店の中にいる君を偶然見かけたことも
そして、僕は
交差点に立つ君を
何度、見かけたことか
信号が青になり
僕を見つけては
走ってくる君は
特別にまぶしかった
大事そうに抱えるパンの袋も印象的だった
今になって僕が
その店のとりこになっていた
この店のガラス越しに見える風景
5年前の君にはどんなふうに映っていたのか
店の中から
向かいの交差点で待つ僕の姿を
君は何度も見かけたと言った
「なかなか、カッコいいじゃん。モデルみたいだよ」
「彼女がうらやましいわ・・、大事にしないといけないよ」
僕に彼女がいないことを知りながら
君はそう言って
舌を出して、はにかんで見せた
今もあのころと同じ味なんだろうか
僕には分からないでいるけど
なつかしい思い出をありがとう
僕はあのころと同じだろうパンの袋を
大事に抱えては
交差点を歩いていく