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ロックマン  作者: 立花 まりも
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手にするもの

第一話

兆し


はい、不幸の手紙

妻の雪はそう言って、貴也の前に封筒の束を置いた。

これで、何十通目になるだろうか。

見るのも嫌になる。

机に置かれたそれは、いつも同じ内容で、いつもと同じようにゴミ箱へ移動するだけのものだからだ。

その繰り返しは、もう一年も続いている。

だが、砕かれるはずの淡い期待に背中を押され、貴也はいそいそと封をあけた。

選考のお知らせ

……選考の結果、貴意に添えないことに云々

もう続きを読む必要もない。

また、ダメだったのだ。


再就職。その失敗は、封筒とともにくる。返送された履歴書と一緒に。雪は、いつからかそれを不幸の手紙と呼ぶようになった。

メールはもっと多いが、面接や書類送付の第一段階をクリアしていない事がほとんどで、精神的ダメージは少ない。だが封筒の場合、少なからず期待がある会社だけに、グサリと心に刺さる。


貴也はも今年で、40歳。

気に入らないと辞めた時には、たかをくくっていた就職に、これほど難儀な思いをするとは、想像していなかった。

今まで5度転職しているが一月待たずに、再就職できたのはなんだったのか。

若さか。いや最後の転職は32歳。

39歳はセーフなはずだ。

2通目の封を、ビリビリと乱暴に開けながら

28歳の上司に従えますかと、笑う面接官の顔が脳裡をよぎる。

できるか

やはり若さかだったのか。

結果同様の2通目をゴミ箱に投げ捨て、3通目へ。

と、その3通目。少し今までとは、赴きが違っていた。そう、封筒が黒色なのだ。

御愁傷様、の全面的表現としては非常に分かりやすいが、そうだとしたらかなりの悪意を感じる。

雪、ちょっと

貴也は雪を呼んで、二人で見ることにした。

本当の不幸の手紙かも、と少し怖かったのは事実だ。だが、そんなそぶりもみせずに黒い封筒がきたことを告げると、雪は封筒をまるで汚いものでも触るかのように摘まんでシゲシゲと眺める。

なんか悪趣味ね。気持ち悪い。だいたい、差出人かいてないじゃない。

雪に指摘され初めて気付いたが、確かに差出人の記載がない。これだけ封筒の色に凝るなら、会社のロゴぐらいあってもよさそうなものだが。

これ、本当に採用結果かな

そ、それは自分が俺によこしたのではと思いつつ

封をあけると、またもや黒の便箋。

少しあきれつつも、読んでみると文面にはこうあった。


採用のお知らせ


株式会社六満

採用担当


橘 貴也様

貴方を弊社 株式会社六満で採用することとなりました。つきましては、当社に下記期日よりご出勤ください。

期日 6月15日(金)

時間 9:00

場所 ●●●●●●


尚、待遇面に関しましては下記となります。

年俸制 600万円

年間休日 120日

有給休暇 10日


他、詳細は後日、紙面にてお渡しいたします。



何十通という不幸を乗り越えた快挙に、雪はすごいじゃないと満面の笑み。やはり口こそ出さなかったが、心配していたのは確かだ。

だが当の貴也はキョトンとしてしまっていた。

ほら、よかったじゃないの。もっと喜びなさいよ


生返事をしながら、もう一度、貴也は黒い便箋を読み返した。

株式会社六満

なんだろう、その言葉が頭から離れない。

それはそうだろう。

何故なら、貴也はこの会社に応募していないのだから。

これが、39歳再就職の始まりだった。



6月1日出社


虎ノ門の駅から、徒歩10分ほど。

古びた雑居ビルの5階に、その会社はあった。1~4階にはテナントは入っていない。ビルの入り口は狭く、奥に内階段がある。

エレベーターもないのか

昭和初期の佇まいのビルが、さらに得体の知れない何かに巻き込まれていく不安をつのらさせる。

そもそも、応募していない会社からの採用通知。ホームページもなかった。普通だったら、この場所にくるはずもない。だが、妻の喜ぶ顔に言葉がでなかった。まぁ、怪しかったらすぐに辞めればいい。

少しやけくその程で、決心がついた時だった。

ポンコツ、邪魔

振り替えると、スーツ姿の若い女が腕組みをして立っていた。

邪魔、入れない

不機嫌そうに、低い声で単語だけを繰り返す女。

このての女は、狂暴だ。貴也はスッと体を引いた。それと同時に女の蹴りが飛んでくる。

やっぱり蹴りやがった。

経験が体を動かした。だてに年をくっているわけじゃない。

チ、と小さく舌打ちをしながらも、女は何ごともなかったかのように、貴也の前を通りすぎる。

あの女はろくまんしゃの社員だろう。あんなのがいるのでは、ろくな会社じゃない。やっぱり、帰るか

貴也が踵をかえそうとした時だった。

おい、

女が入り口から、こちらを見ている。

いきなり遅刻か?新人

首を横ふり、入れとうながすと女は階段へと消えた。

これが後のパートナー、片桐由香里との出会いだった。

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