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10月24日のモンブラン  作者: 遥可華絵
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まゆとゆったん

まゆは三歳年下の21歳で、専門学校に通いメイクの勉強をしていた。

地元長崎の高校を卒業して学費を稼ぐために福岡で二年間働き、結婚式場でメイクの仕事をするという夢を抱えて東京に出てきたそうだ。

四人兄弟の一番上で二人の弟の下に十歳も年の離れた小学生の妹がいるとのことで、妹の写真を見せながら可愛くて仕方がないと嬉しそうに話をした。


根がシャイで恋愛経験もそれほど多くない俺は彼女をうまくリードしていけるか不安だったが、少しわがままでマイペースなまゆに振り回されるくらいでちょうどよかった。

さらに食べ物についても好き嫌いの多いまゆに対し何でも食べられる俺が合わせればよく、食べたい物をまゆに選ばせることができて気を遣わずに済んだ。


平仮名で“まゆ”と書くその名前はおばあちゃんが平仮名にした方がいいと言い張って決まったらしく、俺はそのまま彼女を『まゆ』と呼んだ。

一方でまゆは成沢祐太なりさわゆうたという俺の名前から最初は『ゆうちゃん』と呼び始め、その後『ゆうたん』に変わり、最終的に『ゆったん』と呼ぶようになった。

ありきたりなのは嫌で、自分しか使わない特別な呼び方にしたかったらしいのだが、外で周りに聞こえるくらいの声で呼ばれるのはとても恥ずかしく、俺は度々照れ笑いを浮かべ、それを見たまゆはわざと大きな声で俺の名を呼んでからかった。


まゆは本当にわがままマイペースで、約束の時間にはほぼ毎回遅刻するし、計画をコロコロ変えるし、出かけても俺に任せると言いながら気が付くと腕を掴まれあちらこちらと引っ張り回された。

また仕事中であろうがお構いなく日に何度もメールをよこし、スルーするとすぐにへそを曲げるので、会社でこそこそ隠れて必死に返信した。

の果てには「私、褒められて伸びるタイプなの」と宣言され、俺は多少の不満には目をつぶり、代わりに「いいね」が口癖になった。

東京に出てきて初めての彼女で、こんなに可愛い子が自分のライブを観て気に入ってくれたなんて奇跡でしかなく、俺はまゆに夢中になっていた。



初めてのデートは鎌倉へと出かけた。

夏の足音が聞こえ始めた穏やかな休日だった。二人とも海が好きだと分かり、鎌倉から江の島まで一日かけてゆっくりと散歩をした。

白い花柄のワンピースに白い帽子を被り、ピンク色の日傘を差して砂浜を歩くまゆはまるで映画のワンシーンから飛び出してきたかの様で、俺は両手の親指と人差し指で四角く作ったフレームでそれを切り取り、初デートの思い出として強く記憶に焼き付けた。


お昼時になり海岸沿いのベンチに腰かけると、まゆは自分で作ってきたサンドイッチを取り出して広げた。

朝早く起きて一生懸命作り、具もあれやこれやと悩みこだわって作ったと自分の頑張りを必死でアピールするところが可愛く、俺はからしマスタードのきき過ぎたそれを「うまい、うまい」と言って彼女のご機嫌きげんを取った。


夕方になり江の島の灯台へと上り、夕日の射す海を眺めた。

太陽が空をピンク色に染め、光をキラキラと反射させて揺らめく海を眺めながら、まゆは長崎の実家の近くにも海を見渡せる丘があり、いつか一緒に行きたいと言って微笑んだ。

遠い海を見つめながら話すまゆの瞳は吸い込まれそうなほど綺麗で、そんなまゆの肩を抱き寄せ初めてのキスをした。

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