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10月24日のモンブラン  作者: 遥可華絵
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出会い

彼女と出会ったのは社会人になって二年が過ぎた24歳の春だった。


九州は熊本で生まれ育った俺は福岡の大学を経由し、そこそこ名のある企業に就職が決まって東京に出てきた。

ようやく仕事にも都会の生活にも慣れ、社員寮から引っ越して一人暮らしを始めたばかりだった。


趣味は十代の頃から続けている音楽活動で、東京にいる大学時代の仲間たちをき集めてバンドを組むと、曲を作ってはレコーディングに明け暮れ、年に数回のライブを行っていた。

就職はしたがバンドで売れて食っていきたいというギラギラした夢も捨てきれず、ギターを手に取っては新しい音を探し続けていた。

気持ちはまだまだ青春の真っただ中だった。


そんなある日、バンド仲間でもある会社の先輩から連絡が来た。

先輩のつてでライブを観に来ていた女の子が俺を気に入ってくれたらしく、合コンをセッティングしたいということだった。


有頂天になっていた。

バンドを始めた理由は純粋に音楽が好きだったからだが、バンドをやっていればモテるのではないかという淡い期待もあった。

しかし現実はそうもいかず、バンド活動を通して女性から告白されたことなど皆無で、さらに言うと女性の方から告白されたこと自体が中学校の頃のバレンタイン一回のみだった。

東京に出てきてから二年間ずっと彼女がいなかった俺はどんな子が来るのか眠れないほどワクワクしながらその日を待ちわびた。


池袋の駅を降りてすぐにある女性受けがいいという居酒屋を予約して待ち合わせをした。

会社の同期二人を連れて店の前まで行くと、先輩と三人の女性が先に待っていた。

その中でひときわ小柄で華奢きゃしゃな女性がまゆだった。

少しあどけなさの残る小顔にくるりと巻いた肩までの髪の毛が愛らしく、こんな女性が自分を気に入ってくれるなんて信じられなかった。


田舎者いなかものの俺はどちらかと言えばシャイな性格で女性と簡単に打ち解けられるタイプではなかったが、まゆはおしゃべり好きの甘え上手で、聞き役として相槌あいづちを打っておけば自然に会話は弾んで居心地が良かった。

さらにまゆも同じ九州の長崎出身で同時期に福岡に住んでいたという共通点で意気投合し、冗談っぽく博多弁を交えては笑い合いながら、会が終わる頃にはすっかり打ち解けていた。

当時はまだスマートフォンなど普及しておらず、紙にお互いの電話番号とメールアドレスを書いて交換し、その日は解散した。


帰宅するとすぐにメールを送った。


『今日は楽しかったです。またご飯いきましょう』

『はい、是非よろしくお願いします(ハート)』



二週間後に食事の約束をした。

少し背伸びをして六本木の創作和食の店を予約してディナーのコースを食べた。

その日のためにあつらえた着慣れない服を着てカウンター越しに提供されるコース料理を口に運びながら、田舎者の若いカップルには場違いな雰囲気に二人とも身を固くし、互いの様子を伺うように顔を見合わせてはひそひそ声で話をした。


食事を終えるとそのまま夜の六本木を散歩した。


「私、実は好き嫌いも多いしお酒もほとんど飲めないし、あんまり高級なお店は好きじゃないの。次は池袋の豚骨ラーメンにしようよ」

まゆはそう言って笑った。


俺はそんなまゆの手を強く握った。

「まゆちゃん、俺の彼女になってもらえませんか」

「はい、よろしくお願いします」


そうやって俺たちのストーリーは始まった。

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