突然の知らせ
それは29歳の秋の夜だった。
『トゥルルルル、トゥルルルル』
「もしもし」
半年ぶりにかけた彼女の携帯電話から聞き慣れない女性の声が聞こえて動揺した。
「あっ、えっ、あの、まゆ・・・さん・・・の携帯でしょうか?」
「そうですけど、どなたですか?」
「あっ、成沢といいますが・・・」
「まゆのお友達か何かですか?」
「あっ、まあ・・・そうです」
「そうですか」
電話の向こう側で溜息の様なものが聞こえた。
「私、まゆの母親なんですけどね・・・まゆは・・・先日亡くなりまして・・・」
「えっ、亡くなった? 死んだ・・・ってことですか?」
「そうなんです。本当に申し訳ありません」
「あっ、いえ。こちらこそすみませんでした」
どう対処していいか分からず慌てて電話を切った。
状況を飲み込むには時間が必要だった。頭では理解していても体が、いや心が受け付けずに現実感がない。体が痺れて血の気が引くような感覚でもあり、カッと全身が熱くなるようでもある。
「まゆが死んだまゆが死んだまゆが死んだ・・・」
狭い部屋の中を右往左往と歩き回り、自分に言い聞かせる様に繰り返し繰り返し唱え続ける。そして一度深呼吸をしたあと、崩れる様に床にひれ伏し拳を握りしめた。
「死んだ・・・何で・・・何で・・・まゆ、何で」
嗚咽が漏れ目頭が熱くなるが不思議と涙はこぼれず、そんな自分を客観視しているもう一人の自分がいた。
居ても立ってもいられず外に飛び出し、夜の街を当てもなく歩いた。夜風が気持ち良く遠い街の明かりが綺麗で、夢の中にいる様なふわふわした気分のままとにかく歩き続けた。すれ違う人たちがとても幸せそうに見えた。
どれくらい歩き回ったかはわからないが、家に帰ってくるとそのまま服を脱ぎ捨てシャワーを浴び、冷蔵庫から水のボトルを取り出して一気に飲み干した。そしてさっきの出来事はきっと夢だったに違いないと言い聞かせ、恐る恐る携帯電話の発信履歴を見直す。
『発信 相原まゆ 4時間前』
そこには無情な現実が無機質に記されていた。
結局その日は眠れないまま朝を迎えた。




