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プロローグ ~10月24日~
『カランカラン』
「いらっしゃいませ」
「あっ、このモンブランを二つ」
今日は残業を少しだけ早く切り上げ、遠回りをして渋谷で電車を降りた。
パッとしない三十代のサラリーマンが溢れる若者の波を掻き分け、その風貌には似合わないこじゃれたケーキ屋に入ると、ショーケースに並ぶ色とりどりのケーキの中から悩むことなくお目当てのモノを選ぶ。
薔薇の絵とピンクのリボンがあしらわれた白い箱を持ち、それを潰さない様にと大事に抱えて満員電車に乗る姿は滑稽か、あるいは微笑ましく映っているだろうか。
家に帰り着くと冷蔵庫から缶ビールを取り出しグイっと一口だけ飲み、残りはためらいなく流しに捨てる。
そして食器棚の奥から埃をかぶった小皿を二枚取り出して洗い、買ってきたケーキを盛り付けた。
「いただきます」
丁寧に手を合わせた後、一つ目のケーキを食べる。
それから二つ目を名残惜しくしばらく眺め、それもまた一気にたいらげた。
これが毎年10月24日、今年で五年目になる恒例の行事だ。




