ゴブリンの瞳が無知な幼女をとらえたら一体ナニをするのか分かったもんじゃない
俺はもう自分の衝動を止めようとも思わなかったし、止まるはずが無いことも分かっていた。
だから当然のことのように、その行為を行った。
○○○
突然だが、俺はゴブリンだ。
そして今、俺の目の前には一人の少女がいる。
さてここでクエスチョン。
ここは森の一角、辺りは広葉樹から漏れた日差しが作るひだまりで明るい。季節は春。春といえばゴブリンの発情期。(まあ発情期はいつもの話だが)
そしてそこに俺ことゴブリンが一匹。近くの村から来たのだろう、可憐な少女もしくは幼女と言っても差し支えのないほどにあどけないプリティーガールが一人。
はい、今からここでナニが起こるでしょーか?
その質問に一般人ならこう答えるだろう、みだらでふしだらなチョメチョメと。
しかし、現実は物語よりもときに数奇なもので、なんとこの少女は俺のところに遊びに来たのだ。
「妖精さん、来ちゃった。えへへ」
少女は俺に笑いかけた。
しかし、もちろん俺は森の妖精などではない。由緒正しいゴブリンである。
それをこともあろうか少女は俺を森の妖精と思い込み、来る日も来る日も森に遊びに来るのだった。
もちろん由緒正しい俺は少女を村に帰そうといろいろと画策した。しかし、俺では人間の言葉が話せないという理由と、一度遊びに来た少女を放置した結果、森の奥に進んでいき危うく他のゴブリンの餌食になりそうだったというハプニングから、幼女を家に帰そう大作戦から、幼女と遊ぼう大作戦に作戦変更を余儀無くされたのだ。
当の幼女は悪気もなにもないからいろいろとくたびれる話である。だが、このままの状況では幼女が遠からず危険にさらされるはめになるので、いつかは俺が危険を呈してでもやめさせなければならない。それは分かっている。
少女は珍しく白い髪の毛を持っていた。いわゆるアルビノという先天的な特性だ。そして俺の肌もゴブリンでは珍しいアルビノだった。
だからこそ懐かれた面もあるのだろう。孤独なゴブリン生を送ってきたものとしては悪くない気分である。
「ギャッギャッギャーギャ」
「今日はなにしようか? また木いちごつみにいく?」
「ギャギャア」
「? 木いちごつみにいく?」
ちなみに今俺は帰れと言ってみたのだが、俺のギャ行ア段しか喋れない声帯ではもちろん意思の疎通などすることはできない。
「よし、今日はひみつきちの続きだ!」
「ギャー」
なんとも不思議な会話だ。まあ今作ってる秘密基地は村から近いから俺にも幼女にも優しい話であるが。
まだ人の生活圏である森に入ってすぐのところに、少女の秘密基地はある。木の葉のついた枝をツタで組み上げただけの簡単なものだ。
今日は細い木の枝をまとめてすだれのような扉を作ろうとしたのだが、急に雨が降りそうな空模様になってきた。
朝の晴れた空はどこへやら。昼過ぎになると辺りは空が分厚い雲で覆われたおかげで暗くなり、雨もポツリポツリと降り出したのだ。
「ギャーにげろー!」
「ギャ」
たまらず少女と俺は秘密基地に逃げ込む。
いまこの子ギャーって言わなかったか? 俺の影響なのか分からないが女の子としてその悲鳴はどうかと思う。キャーと個人的には言って欲しい。
「ギャ?」
「うーふりはじめちゃった」
「ギャ!?」
「あーあどうしよ」
二人して基地にすし詰め状態になる。雨はすぐには止まなそうだ。だがここでとある問題が発生する。
この秘密基地は狭い。子供サイズ二人とはいえ狭いのだ。
というと、どうなるか。密着せざるを得なくなる。
現に今、俺の肩と彼女の柔らかい肩が触れてしまっている。まじでやわっこい。ナニコレ。
彼女は俺の肩に触れていることなど気にしてもいないようで、灰色の空を見つめている。雨で彼女の白い髪の毛はしっとりと濡れていた。彼女は横顔でもまるで人形のようにかわいい見た目をしていた。
とすると、いくら少女が幼いとはいえゴブリンは反応しちゃうわけで。ゴブリンのゴブリンが野生化してしまうわけで。
つまり俺は今スーパーフィーバータイムなのだ。ゴブリンのゴブリンがホブゴブリンのホブゴブリンな見た目になっているのだ。
いくら理性的な俺でもこの状況ではゴブリンとしての本能が目を覚ましてしまうのだった。本能には抗いがたい。
オンナハオカセ。オトコハコロセ。オンナハオカシテハラマセロ。そんな本能の声が聞こえるようだ。
頭から足先まで心音が鳴り響く。息が荒くなる。
前にもうっかり少女に欲情してしまうことはあったが、ここまで強い衝動は初めてだった。
「あれ? どうしたの妖精さん? 具合悪いの?」
「ギャ!?」
ちょ、今は駄目だって!
「どこか痛いの? 」
少女が俺の方向に身体ごと向き直る。どうやら心配してくれているようだが。
慌てて股間を押さえて隠す俺。
「ん? そこがいたいの?」
少女が俺の手を剥がそうとしてくる。小さな手が、十本のなにも知らない幼い小さな指が、俺の股間に一直線に伸びてくる。
いやだめだって! そこは本当に駄目! やめ、力つよ!
少女には目の毒だと俺が力を入れればいれるほど、少女は興味を持つ。
「なにかくしてんの! こら!」
股間を手で押さえるゴブリンとその手を押しのけようとする幼女。本来ならこの役回りは逆だろう。
俺の理性はもうつきそうだ。このまま無知な幼女にせいなる教育を施してやってもいいのだが。
「うぐぐ、もうすぐで・・・キャッ」
俺は少女の手を振りほどき、秘密基地を飛び出した。雨が体に当たる。冷たい。
とりあえず叫びながら走る。春の雨が体と腰巻とマイサンを濡らす。
「ギャギャー! ギャーーーァーー!」
腹から出した声は雨の音にかき消される。頭も少しは冷える。息子も少しは言うことを聞くようになってきた。
「ギャーギャーーーァ!! ギャーアーー!!」
「なに? どうしたの?」
突然飛び出した俺に少女は困惑気味だが、俺は少女の貞操が守られてホッと一安心だ。
その後少女は一緒になって雨の森を叫びながら走ろうとしたので、それは止めた。
今日の反省。
森の奥の木の上にこしらえた俺の寝床であるツリーハウスから星空を見上げる。
今日はいつも通り少女と遊んだ。が、いつも通りでない箇所が一つあった。あってしまった。
ゴブリンと人間の女という組み合わせでは避けては通れない道理であるが、やはりこのままでは彼女が危ない。
もちろん貞操的にも危ないが、それ以前に森は少女が一人でくるところではない。
村のものはなにをしているのだろうか。あんな少女が一人で遊べるほど森は安全ではないだろう。
少女に聞いてみたことはないが、そもそも聞けないのだが、そこらへんの危機意識はどうなのだろうか。夜空を見上げるとだんだんと冷静になってくる。
もしかして、家族がいないのだろうか。俺みたいに。それとも村に友達がいないのだろうか。
だとしたらここに来てしまうのも仕方ないのかもしれない。俺が責める権利はないのかもしれない。
一人でいる期間が長い俺は、孤独はかなりつらいものだということが分かっている。
・・・でも、危ないよなぁ。
一回本気で拒絶してみるか? 暴力も最低限ふるって。
想像してみる。
泥だらけで泣き叫ぶ少女。純白の髪の毛と顔は涙と土でぐちゃぐちゃになっている。服はところどころ破れていて、破れたところからは真っ白い肌が見える。吐息は荒く、潤んだ瞳で上目遣いをして、さらにところどころ赤くなった肌はとても・・・
やめやめ! 妄想がすぎる!
あと変態だな俺。
そんなことしたら少女がもう森に入ってくることは無くなるだろう。まあ代わりに大切な何かを無くす気がするが・・・
彼女はもう来ない。
いざそうなったらさみしいんたろうなあ。
危険と隣り合わせ(主に少女にとって)の現状ではあるが、実際、俺は今充実していると言えなくもない。
彼女は大切な友達だから仮にでも彼女を傷付けたくはないし、本音ではこのまま一緒にいたい。
だが、どうすればいいんだろう。その道には少女の危険がつきまとう。
少女の身の安全、俺との絆。二つを両立する方法。
そこで、俺はとある妙案を思いついた。
○○○
だかしかし、世界は優しくないもので。
とある村のとある酒場では見るからに腕っぷしの強そうな男達が酒を飲んでいた。
「それでな、俺はゴブリンどもを狩ろうと森に行くところだったんだがな、そこで女の子がレアな白ゴブリンに襲われているところを見つけたんだ」
男はずいぶんと酒がまわっているようで、上機嫌で話をする。
「それで俺はゴブリンをぶっ殺して、女の子を助け出したってわけよ」
男は鼻高々と言った様子で話す。たかがゴブリンだろうと男をバカにする仲間たち。
「でもこの話には続きがあってだな、その女の子が殺したゴブリンが友達だったとか言ってくるんだ!」
「さすがの俺でもたまげたぜ! かわいい女の子とゴブリンが友達っていうんだぜ! そんなわけねえだろって話だろ。ゴブリンでも女の子と友達になれんなら今ここでくっちゃべってる俺はゴブリン以下の野郎ってことになるよな」
その言葉に仲間たちからの愛のこもった罵詈雑言がとぶ。
「いやいや、そんでさ、だったらなんで襲わなかったんだって、こいつちんこついてんのかって、ゴブリンの腰巻きをとってみたらさ」
なにやってんだよと仲間の一人が言う。
「そしたらさ、ねえんだよ! アソコが!」
男が声を張り上げる。
「なんか去勢されたみたいにさ! 玉袋のあるところも竿の根元もかさぶたみたいなきたねえ傷跡があるだけだったんだよ! 俺は納得したね。いくらゴブリンでもちんこねえなら仲良くできるわなって」
笑いが巻き起こる。ゴブリンのくせに玉無しとか。大丈夫かそいつ、存在意義無いだろ。ゴブリンのゴブリンが。あはははそれおもしれえな。
彼らにとってはゴブリンは他種族の雌をレイプすることしか能の無い害獣だ。だからゴブリンのくせに玉無しなのはとてもあり得ないことに思えたのだ。
○○○
場所は変わって、男は白い部屋にいた。
「全部、思い出した。そうだ、俺はゴブリンになる前は人間だったんだ」
男はゴブリンだった頃を思い出す。ゴブリンとして産み落とされた森の中。周りの兄弟達が緑の肌をしているのに対して、俺の肌は白色だった。だから群れを追い出され、一人で森のすみでコソコソと暮らしていたのだ。
そして、彼女に出会ったんだ。男は少女の顔を思い浮かべる。真っ白い髪の女の子が想像の中でも微笑んだ。
そこに声が聞こえた。
「あ、戻ってきましたか。どうでしたか、ゴブリン生は、楽しめましたか?」
声は透き通った聞き心地の良い女性の声で、どこからともなく聞こえる。
「はい、大変でしたが結構楽しめました」
男は人間から生まれ変わり、ゴブリンになっていたのだった。
「でもオプションの記憶が薄っすら残るってやつはあまり役に立ちませんでしたね」
男はそう言う。
オプションとは、生まれ変わるときに設定できる項目のことだ。生存に有利であろうものは手に入れにくく、逆に不利になるものはポイントがたまる。そのポイントで、生存に有利であろうものを手に入れる、というシステムだった。
「そうでしょう? 記憶は残すのなら全部残した方がいいのです」
「次からはそうします」
「じゃあ今回はどうします? たしか前回はゴブリン生で半記憶、親なし、アルビノのセットだったと思うんですけど」
「あーゴブリン生選択してたんですか。人間だと思ってましたよ」
「ポイントで人の生にすることもできますがね、聞かれなかった人は全員ゴブリン生にしてるんですよ」
「え!? ナニソレ? 聞いてませんよ!」
「聞かれませんでしたからね。それで? 今回はどのようなオプションで?」
「えーどうしようかな。このリストから選べばいいのか」
どうやら男に声の主を責めるつもりは無いらしい。どのオプションをつけようかと男は悩む。
「あ、じゃあ完全記憶維持と」
「おっ、高いのいきましたね」
「転生地点指定と」
「それも高いですよ!? いくら今回の生でポイント稼いだからって、ランダムのほうがリーズナブルですよ。あと代わりに沢山マイナスのオプションつけなきゃいけませんよ?」
「いいんですいいんです。じゃあ、親なしとアルビノと視力低下と病弱で、種族はゴブリンで!」
「え? またゴブリン生やるんですか? 珍しいですね」
「はい」
「分かりました、準備ができました。それでは良いゴブリン生を」
声の主は男の言葉を了承し、最後に男を送る言葉を贈った。
声と共に男の目の前に巨大な扉が現れる。その扉をくぐればきっとそこは見慣れたあの世界だろう。
ゴブリンはきっと人間としての幸せを掴み取ることは無いだろう。しかし、次はもっと上手くやる、男はそう思っていた。
扉へ一歩踏み出す。
男はもう自分の衝動を止めようとも思わなかったし、止まるはずが無いことが分かっていた。
だから当然のことのように、その行為を行った。
彼女の笑顔をもう一度見るために。
読んで下さってありがとうございます! 初投稿ということもあって読みにくかったと思いますが
ゴブリンというのは、皆さん知ってのとおり不遇な生き物ですよね。今回はそんなあわれな生き物を救おうと思ってこれを書きました。無事救えませんでしたね。惜しかったですね。残念。
ちなみに一番初めのタイトルはゴブリンと少女、でした。しかし、ゴブリンの瞳が無知な幼女をとらえたら、一体ナニをするのか分かったもんじゃない、の方がパンチあるんじゃね? と思ったのでこのタイトルにしました。
個人的に幼女、という単語はものすごいパワーワードだと思います。少女から幼女に変えただけで犯罪臭がプンプンしますもん。さすが変態大国ニッポン。業が深い。