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4.いざ王都へ

 アイリス先生が、一つ一つの単語を噛み締めるように詠唱を行う。


 膨大な魔力は大気を震え上がらせ、天を黒雲で埋め尽くしていく。

 黒雲を龍の如く伝う稲妻が、空気を引き裂く荒々しい轟音たて、大地にいるもの全てに圧倒的存在を示す。

 詠唱中でさえも、砲撃の如し豪雨と荒れ狂う暴風が、空き地の奥に広がる森林の木々を、いとも容易くへし折ってった。


『――創世の書第三章一八節より、裏魔法【ケラノウス】』


 アイリス先生の詠唱が終わる……

【ケラノウス】。この言葉を引き金にし、雷雲からは幾千もの雷撃が地上に降り注ぎ、森林を死の大地へと変えてゆく。

 森があったところは火の海と化した。


 ああ、儚い人生だったな……

 と思ったものの、死ななかったようです……はい。




 アイリス先生が本気!? (おれは本気だと信じたい) で放ったであろう魔術は、あの後大変の事態になってしまったようだ。


 ちょっとやりすぎたかな? なんて笑いながら言うアイリス先生に引きつつも、姿を隠してもらい自宅へと帰宅した。

 自分の部屋にたどり着いた俺は、マイベッドで一休みしようかと思ったのだが……

 バタバタと両親が俺の様子を確かめに帰って来た。


「ウィル! 怪我はない?」


「ウィル! 無事か!」


 何事か? と戸惑った俺は、両親の話しに聞き耳をたてていると、おおよそこの村での事態を把握した。


 どうやらアイリス先生の放った【ケラノウス】は、災害のレベルを超えていたのだ。

 村人たちの間では「ドラゴンが現れた」だの、「災害クラスのAランク魔物が現れた」だのと、ありもしない噂話が広まった。

 念には念を押してということで、王都からは騎士団が派遣され、村の近辺の捜索が行われたらしい。

 結果は何もなかったようだ。

 そりゃそうだ、あんなことしでかしたのは我が師アイリスなのだから。


 そういえば最終試験を終えると、アイリス先生から【魔法袋アイテムボックス】と呼ばれるものをもらった。

 ただかなり貴重なものらしく、「誰にも見せないように」とアイリス先生には念を押して釘を刺された。


 ただ事態が収束してからというもの、両親の監視の目が厳しくなったのだ。

 常に父さんか母さんのどちらかが、俺のそばにいる。

 当然の措置だと思うのが普通なのだろうが、【魔法袋アイテムボックス】の中身の確認はもちろんのこと、魔術の練習まで出来なくなってしまった。


(はぁ……)


 残念だが【魔法袋アイテムボックス】の中身の確認と、検証は後回しとなった。


 暇だ! 暇すぎる!

 てかアイリス先生、最後の最後になにしてくれてんのじゃ!

 と言ってやりたいものの、アイリス先生はどこかへ旅立ったらしいので、そんな叫びも届かなくなってしまった。


 ふぅ……


「アイリス先生。短い間でしたが、お世話になりました」


 俺の頬を一筋の雫が伝った。


 ◇ ◆


 ――俺がこの世界に転生してから、5年の月日が経つ。


 季節は春先、まだあたりには雪が溶け残っている。

 毎年この季節になると、うちの両親は二人して家を空けて、どこかに出かけるようだ。

 幼かった俺はというと、父さんの親友であるティラミット家夫婦のところにあずけられた。


 ティラミット夫婦は、父さんと母さんが冒険者時代からの付き合いで、この四人は冒険者パーティーとして、よく一緒に依頼を受けていたらしい。

 父さんとティラミットおじさんは苦楽を共にしてきた仲であり、ライバルでもあったそうな。

 そんな仲良しなおっさん二人も今の奥さんと結ばれ、子供を授かった事を期に冒険者稼業を引退し、村でのんびりとスローライフを送っているとのことだ。

 そんな昔話をティラミット家に預けられた時に、おれは聞いたことがある。


 ティラミットおじさんは、元冒険者ということもあり非常に物知りだ。

 おれが1聞けば10で答えてくれる。

 この世界の地理や歴史といったものから、薬草や動物などいろんな知識を教えてくれた。

 時折、【スカートめくりの極意】・【女の口説き方】なんてものも教えてくれた。

 この手の話になると、かなり真剣に詳しく教えてくれる。


(ただのエロオヤジじゃん……)


 なんて思うと、いつも都合よく狙ってるな? といったタイミングで、ティラミット家の奥さんが部屋に入ってくる。顔は笑っているが目が笑っていない。


 女の人を怒らす事はするな! いいことを教えてもらったぜ。

 ありがとなおじさん……


 物知りおじさん夫婦に比べ、うちの両親はこんなにも(自称)可愛い子を置いて、どこに行っているのか気になり、ティラミットおじさんに質問をすると、なかなか興味深い話が聞けた。


「いいか、ウィル。この村はほとんどの人が農業をしている。農業というのは、ご飯を作る仕事だ。そして冬になると、寒さでご飯が育たなくなるんだ。そこで冬になると、仕事のない村民には、衣服に染物・竹細工や焼き物といった村の特産品を作ってもらっているんだよ」


 なるほどと俺は首肯する。


「王都や商業都市といった大都会では、こういった特産品は希少価値が高くて、なかなか良い値で取引されるんだよ。そこで都市までの輸送の護衛に、腕利き元冒険者が必要ということで、ウィル君の両親に白羽の矢が立ったというわけだ」


 この世界にも大都市と呼ばれるくらいの街が存在するのか。

 是非一度行ってみたいものだ……




 10歳になった俺は、アイリス先生と別れてからというもの、随分と【オド】の扱いも魔術のレパートリーも増えたんだ。

 基礎魔術は風が上級、他が中級とかなり力をつけたと我ながら思う。

(ただ両親にはこの事を言うつもりはない。年相応の男の子を演じ続けている。理由は言わずもがなだ。)

 それでも慢心せず練習をできるのは、アイリス先生が最後に見せてくれた、遥かなる高みにある魔術おかげだ。


(アイリス先生マジリスペクトです!)


 コソコソと親の目を盗んで特訓していた俺は、自分の力がこの世界ではどの程度通用するのか気になった。

 そこで俺の両親にダメもとでついて行っていいのか、聞いてみることにした。

 交渉は難航するかと思われたが、予想外にも簡単にOKの返事をもらった。

 どうやら両親もこの年になると、いろんなところを遊びまわっていたそうな?


 ただ俺が付いて来ても良いだけの理由は確かにあったようだ。

 馬車はあくまでも街道を進むため、滅多に魔物に出会うことはなく、初めての俺でも危険なく旅ができるらしい。


 ではなぜ護衛を雇うのか? と思ったが、外道に出るまでの山道には、野犬などの野生動物がそこそこいるとのことで、護衛を雇っているようだ。

 ちなみにこの礼金が、結構な額もらえるらしいので、両親はいつもノリノリだそうだ。


 そしてついに、待ちに待った王都に向かう当日となった。


「ウィル~そろそろ行くぞ~!」


「父さん、いま行く!」


 冬が開けると家の前に3人の御者さんが迎えに来る。

 俺外から出ると父さんと母さんは御者さんと挨拶をしているところだった。


「今回はうちの息子も連れて行くことにしました。そろそろ外の世界も見せてあげないと、と思いましてね。ほら、ウィル挨拶しなさい」


「おはようございます。ウィルといいます! 今回はよろしくお願いします」


 おれは年不相応に深々と一礼をした。


「なんだいガイウス。お前の息子にしては礼儀がいいじゃないか? お前がガキンチョの時といえば――」


 あぁ……父さんにもそんな年があったと聞くと、なんか親近感が沸くな。

 化物みたいな強い父さんも人間なんだな。ふふっ。


 そんなわけで、俺は楽しみにしていた王都へと旅だった。


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