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3.アイリス先生の本気!?

「――ルッ! ウィルッ! 大丈夫?」


 遠くから俺の名前を呼ぶ声が聴こえてくる。どうしたんだろう?


 次第に意識が鮮明になってくると、俺の名前を呼んでいる人の声に懐かしみを感じた。

 声の主は俺がよく知っている人であり、愛情をいつも注いでくれている人。


「ママ……」


 俺は力なく母さんを呼ぶと、堰が崩壊したように目から大粒の涙を零す。

 俺の体をそっと抱えると、母さんは頬を擦り付けてきた。


「ママくすぐったぃ」


 安心したのかクスクスと笑みのこぼれる母さんをみて、俺はこう思った。


(心配かけてごめんね、母さん)


「母さん食事作ってくるから、ウィルは大人しくしていてね?」


 うんうんと、首を縦に振る。さっき気絶したというのに、今から何かをやらかすつもりは、今の俺には全くなかった。


 それとママと言ったのは演技だからな? 

 いいか? ママと言ったのは演技だからな?

 大事なことだから二回言ったぞ?


 母さんが出て行ったドアを眺めていると、俺の目の前に光が集まり、アイリス先生がふわりと顕現する。


『ウィル、体調の方はどう?』


「うん、今のとこなんともないです。そんなことより、途中で気絶してすいません」


 俺はうつむきながら、先生の指導を継続できなかったことを謝罪した。

 すると、先生は首を横に振った。


「別にいいわよ、もともと気絶させるつもりだったんだから」


 ニコニコと小悪魔的な笑顔を俺に向けた。

 俺が気絶するのは、どうやらアイリス先生の計算通りだったらしい。

 なぜ気絶したのか、何を狙って気絶させられたのか気になって、アイリス先生に問いかけた。


「な、なんでですか?」


『んー、そうだね。ウィルの魔力制御の練習はもちろんのこと、初めにウィルの魔力量を知っておきたかったからだね。魔力量は【オド】を体に纏える事のできる時間で、計測できるよ。


 気になる結果として、ウィルは充分に【オド】を持っているから安心してね』


 アイリス先生は、俺が【オド】を充分に持っていると太鼓判を押してくれたので、俺はひとまず安心し胸をなで下ろす。


『そしてウィルが気絶したのは、【オド】が底を尽きたからだね! でも、早いところ気絶に慣れておいたほうがいいよ? 魔力量の限界まで上げるために、これから毎日さっきやったことをやってもらうからね?』


「っな?」


 ケラケラとSっ気を含んだ笑いを上げるアイリス先生は、精霊というより悪魔に見えた。

 こんなやばい精霊がいてたまるか!


『あれあれ? ウィル君は私のこと悪魔だなんて思っているみたいだけど、これは必要なことなんだよ? 魔力量が増えたら、いろんな種類の魔術を使えたり~、凄い威力の魔術を使ったりすることが~――』


「1ミリたりとも思っていませんよ! 明日からも全力で気絶したいと思っている所存でございます、アイリス先生!」


 元気よくビシッと敬礼すると、アイリス先生は『そうっ』と一言言うと、にっこり笑顔になった。


『ウィル君のお母様がもうそろそろ来るみたいだから、またあしたね』


 そう言い残し、手を振りながらアイリス先生は姿を消した。

 アイリス先生によると、もうそろそろ母さんがこの部屋に来るらしい。

 母さんに余計な心配をかけまいと、大人しくベッドに横になる。


 このベッドは日本のふかふかベッドに比べると、少しばかり見劣りする。

 だがベビーベッド言うこともあり、母さんたちのベッドよりはるかに良品質だ。

 ウチは決して裕福ではない。それでも少ないお金を俺のために使ってくれている。

 こんなベッドにさえも両親の愛情が詰まっているのだ。


「ウィル~お粥作ったけど食べれそう?」


「あい!」


 元気よく返事すると、母さんは俺に駆け寄り抱き上げ、そのままリビングに向かった。

 食卓には母さん特製の乳粥が可愛い茶碗によそってあり、ホカホカの湯気が立ち上っている。


(あぁ、うまそうだ)


 空腹は最高の調味料と言うように、いつも食べている乳粥が、今日の俺には異常にも大層なご馳走に見えた。俺の体が栄養を欲しているのだ。

 筋肉が超回復するときに似ている。

 魔力量が上がるということも、超回復のようなものかもしれない。


「ゲフッ」


 乳粥をたらふく食べたら、だんだん眠くなってきた。

 食べ終わったころ、父さんが鼻水垂らしながら家に入ってきた。

 いつもお仕事ご苦労様です。


 それだけ思うと、机に伏せてスーピースーピーと寝息を立てるのであった。


 ◇ ◆


 アイリス先生に出会ってから、1ヶ月が経った。

 アイリス先生の厳しい御指導のもと、毎日のように気絶する俺は、両親に病弱認定されてしまったようだ。


 全然元気ですぜ母上、父上! 


 と異議を建てたいところだが、今までの赤ちゃん演技が全てパーになってしまうため、そんなこと言える訳もなく……病弱キャラを貫くことにした。


 アイリス先生の指導は厳しいものの、打てば響く授業で俺の魔術の腕はメキメキと上がり、特に【オド】に操作に関しては、アイリス先生がうまいという程になった。


 基本の4つの魔術は全ての初級魔術まで使えるようになった。

 そしてこの1ヶ月で判明したことがある。

 どうやら俺は、風属性の魔術に適性があるようだ。逆に火属性の魔術適正はあまり良くなく、初級魔術の登竜門の【ファイアボール】を習得するまでに、いくつもの壁を越えなければならなかった。


 アイリス先生の知識によると、人には魔術の適性があり得意魔術・不得意魔術があるとのことだ。魔術を使える者にとっては至って常識的な事らしい。

 俺はどこにでもいる、普通の魔術師だと思うようになった。


 最初の頃は、もしかして俺ってば最強なのでは? なんて思ったりもしたが、現実はそれほど甘くなかったようだ。母さんや父さんの魔術の腕を見ると、その差をひしひしと感じる。


 もっと強くならなきゃ。個人的最強候補の母さん父さんたちよりも、上がいるとアイリス先生が教えてくれたからな……。


 そんな母さんと父さんで食卓を囲み、お昼ご飯を食べ終えると両親は外へと仕事に出かける。つまりアイリス先生による、魔術授業が始まる時間だ。


 アイリス先生こと、精霊アイリスは見るからに可憐で美少女の姿をしている。

 しかし蓋を開けてみると性格は小悪魔、それでいて鬼教官だ!

 毎日気絶するまで魔力を絞られる。まぁ、必要なことらしいが……


 自分の部屋に戻り扉を閉めると、アイリス先生が眩い輝きを放ちながら顕現する。


『あぁ~、おはよウィル』


「おはようじゃないですよ先生、もうお昼ですから!」


 大きなあくびをしながら、両手を上にあげ背伸びする。

 ねぼけたアイリス先生は、いつも以上に可愛い。

 仕事のできる女上司がたまに見せる、だらけた姿になんか似ている。

 そんなことを考えていると、アイリス先生はどうやら眠気が覚めたようだ。


『では魔術の授業を始めようか。今日の授業内容は風の中級魔術士の登竜門と言われている、【旋風つむじかぜ】の取得だよ~頑張っていこう!』


「はい!」


 アイリス先生の元気な掛け声に、おれは返事をする。


『中級魔術は庭先でやっていいレベルじゃないから、少し家から離れたところで練習しようか』


 中級魔法からは、庭先で引き起こしていい規模ではないため、半年ぶりくらいの外に出ることになった。

 もちろんアイリス先生は、俺以外からの認識を阻害する能力で同行してくれる。


 リビングのドアから外に出ると、草木はうっすらと雪化粧をして、太陽光をキラキラと反射している。村の北側にそびえ立つ山脈から、吹き降ろす風は冷たい。

 この寒さの中長時間の外出は、普通の赤子だと死ぬ可能性は十二分にある


 俺は魔力を均等に体中に纏い、無系統の魔術と火属性の魔術を同時に行使する


「【身体強化】、【ヒーティング】」


『初めての実践でも、うまく使えてるじゃん』


「先生のご指導の賜物ですよ」


 ふふっと笑うと、頭の上で足をパタパタとして喜んでいる。

 なんてわかりやすい人なんだ……いや精霊か。


 先生につれられて、正確に言えば頭に乗ったアイリス先生の指をさした方向に歩いて、村のはずれの小さな空き地まできた。

 無系統の初級魔術の【探知】を発動させ、空き地の周りに人がいないことを確認する。


 この世界の生物は、常に極微量ながら魔力を発しているらしい。なのでそれを逆手に取り、空中に飛散する魔力の跡をたどり生物の居場所を突き止めることができる。

 これが【探知】魔法の原理だ。


 今回アイリス先生に教わる魔術は、風の中級魔術。

 先生は空き地までの道中に、【旋風】の原理を説明してくれた。

 原理を習った感想としては、流石中級といったところだ。

 今までの初級とは難易度が全然違った。


 風の初級魔術【ウインドボール】は、空気を一点に集め対象に向け発射するだけだ。


 風の中級魔術【旋風】は、座標の指定・風を渦巻き状に集める。集まり行き場のなくなった空気に圧力をかけ、上空へと打ち上げる。


 この魔術で特に難しいのは、座標の指定だ。自分自身に近ければ近いほど、座標指定は簡単にできる。

 ただ近いところで座標指定するなら、初級魔術の【ウインドボール】を使ったほうがいい。距離が近いならば威力の減衰もないし、なにより発動速度がまるで違う。


『じゃあ原理は教えたことだし、さっそくやってみようか。距離はそうだな……』


 アイリス先生は人差し指の先に、人の頭大の大きさをした石を作り出し、50m程離れたところに放物線を描くように投げた。


『あの石に目がけてやってみて』


 よしっと気合をいれ、アイリス先生が放り投げた石に向け右手を伸ばす。

【オド】を右手に集め、大気中の【マナ】と反応させ、気流を石のあたりに集める。

 あたりに落ちている枯葉が、渦を巻くように中へと舞い上がってゆく。


 そのまま圧力をかけ、鉛直方向にかかる圧力を瞬時に解いた。

 すると加圧された空気が、土埃・枯葉を巻き込上げながら、10mほどの高さの空気柱を作った。


「先生どうですか!?」


『うん、いいかんじだよ。よーし、これで私からの最終試験は終わりだ』


 アイリス先生は清々しい顔で俺の顔を見つめてそう言った。

 最終試験? え、先生との授業も今日で終わりということか?


『わたしはこれから旅に出ることにするよ、妙な胸騒ぎがするんだ。

 私がいなくなっても毎日の訓練は怠らないこと、いいね!?』


 先アイリス先生は神妙な顔つき訳を言うと、最後にはいつもの茶目っ気たっぷりな小悪魔顔で、俺のオデコをデコピンした。


「いった~」


 赤くなったオデコをさする俺をアイリス先生が笑う。

 最後まで鬼教官だな!


『あ~おかしっ。けほっけほっ。

 よ~し、じゃあせっかくの卒業だから、ウィルに遥かなる高みというのを見せてあげようか!』


「え?」


『まあ見てて』


 そう言うとアイリス先生は俺に背を向け、少し距離を取る。

 両手を天に向け伸ばし、絶望的な【マナ】をその身に纏う。


『大いなる風の精霊にして、天翔ける蒼き稲妻の化身よ!


 魔の深淵を極めし我が願いを叶えたまえ!

 凶暴なる雷霆をもって、大いなる力を示せ!

 大地に芽吹きし全ての命あるものを、今ここに消し去らん!


 ――創世の書第三章一八節より、裏魔法【ケラノウス】』


そろそろ、話動かしていきたいと思います!


次は土曜日の夜に更新予定です、

よろしくお願いします。

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