序章①-祝砲
大陸暦1000年。
この記念すべき1年にあたって、ウラヌス皇国の皇都デミランダルでは祝祭が執り行われていた。城下は人で賑わい、出店が立ち並び、所々では演芸が開かれ人だかりができていた。その賑わいは普段は厳かな雰囲気を醸し出す宮殿内にも伝わり、皇太子とその二人の子どもは皇都の様子を宮殿から眺めていた。
「父上、城下の者たちが楽しそうですね。」
「そうだな、ガルフ。国民の笑顔を守るために、今の皇帝であるお前のおじいさまは頑張っている。勿論私も頑張っているがな。将来はお前にも努めてもらわないとな。」
5歳になる皇太孫、ガルフォング・ウラヌス。皇位継承第2位にあたり、皇帝になる宿命を持つ。その決意を新たに、善君となるべく邁進しようと父の話を聞いて強く思うのだった。
「おとうたま!レミーもお祭り行きたい!!つれてって!!」
「レミリア、お前が城下に出ると大変なことになるから我慢してくれ。」
3歳の妹レミリア・ウラヌス。皇太子の第2子で、城下に出れないことに少し不貞腐れた。
皇族が城下に出るためには、皇帝ないし宰相に許可を取り、護衛を手配しなければならない。そんな諸々の事情を知るわけもなく、あどけない少女は祝祭の賑わいを遠目から眺めることに悔しさを覚えた。
「あっ、そういえばおとうたま!もうすぐレミーの弟が生まれてくるんでしょ?」
「そうだよ。予定ではあと5日くらいだな。お母さまは安静にしてないといけないからな。」
「こんなお祭りの時に生まれてくるなんて、きっと幸せな子になるよ!」
この祝祭は10日間続く。今日はその初日であった。
「父上、名前はもう決めたんですか?」
「候補は絞れているんだけどな。クハルバード、セルジュ、ルック・・・。どれもこの国に多大な貢献をした先人たちの名前だよ。お前たちはどれがいいと思う?」
新たな子どもの誕生に際して、名前を決めかねた父親は子どもたちにも意見を求めた。
「僕はク「ルック!!」
少年の言葉を遮り、少女は大きな声で応えた。
「レミーはルックがいいと思うの!この前レミーが読んだ本に出てきた『正直ルックと嘘つきタキオン』のルックだよね!すごい感動したからルックがいい!」
ルックは童話にもなっているため、3歳のレミリアには馴染み深く魅力的に聴こえたようだ。
そのキラキラした瞳を見て、クハルバードと言おうとした少年は何も言えなくなった。
またその二人の様子を見て察した父親は、何か思いついたかのような顔をした。
「考えとくよ。」
その10日後、予定日より5日遅れて新たな皇太孫が誕生し、名前はクルックと名付けられた。
のちに英雄と謳われる凱武君クルックの誕生である。
新たな皇太孫の誕生と共に、街には祝砲が鳴り響き、大陸暦1000年を記念する祝祭から一転、新たな皇族の誕生を祝う祭りが催された。