微妙な組み合わせ
今回からは2章に入ります!
これからどんどんラブコメ展開を入れていきたいのでよろしくお願いしますm(._.)m
家に着いた俺は早急に朝食を作る。早く作らないと家がよだれまみれになってしまう。
その原因である安倍聖菜は現在リビングで死体の様に倒れている。
まあ、作るといってもパンをトーストしてバターを塗り、コーヒーを淹れた程度だ。
朝食がこんなにも手抜きな理由は、俺がもともと朝食をそんなに食べないタイプの人間だからだ。
大抵はトースト一枚かごはん一杯しか食べない。前日がカレーだったり、味噌汁だったりすればその残りがついてくるくらいだ。
「ごはんできたぞ。早く食べろー」
俺の声を聞いたとたん、倒れていた安倍聖菜がこちらに全速力で走ってくる。
周りによだれをまき散らしながら走ってくる様子はさながらゾンビのようだ。
というか、やめろよ。あとで掃除しないと……。
そして、椅子に腰かけた安倍聖菜は朝食を見るなり、ボソッと一言――。
「ショボい……」
「はいぃ?」
おい、今こいつショボいとか言いやがったか? 自分はさっきまでリビングで死んでいて何もしなかったくせに、作ってもらった料理を見てショボいだと!?
「じゃあ、お前が朝食作ればいいだろ」
「面倒……」
「そんなこと言ってお前料理作れないだけだろうが」
「そんなことない……。私料理に腕には自信ある……」
「じゃあ、作ってみろよ。お前がものすごい朝食を作ったならば、俺は素直に謝ってこれからはもっと手の込んだ朝食にしてやるよ」
すると安倍聖菜はアゴに手を当て少し考え――
「わかった……」
と言っておもむろに席を立つ。
そのままキッチンへと直行し、冷蔵庫の中から材料をテキパキと取り出していく。
あれ? こいつ意外と料理できるタイプだった……?
今更ながら自分の発言を後悔した俺だった。
――そして三十分後。俺の前に出てきた料理は……。
「な、何というか……微妙な組み合わせだな……」
机には、フレンチトースト、ナムル、中華風スープ、アジの塩焼き、ミルクティーが並べられている。
その並べられている料理の完成度はどれも高く、すべての料理から良い香りがしてくる。
…………ただ、どう考えても組み合わせが悪すぎる。むしろよくここまで机の上をグローバルな状態にしたな。と褒めたたえたいくらいだ。
まだフレンチトーストとミルクティーならわかる。なぜそこに和、中、韓の要素を足したのかわからない。
「なあ、これはさすがに組み合わせ的にどうかと……」
「でもおいしい……。それに栄養価もばっちり……」
「いや、そうかもしれないけど……」
「黒瀬はものすごい朝食を作れと言った……。だからその通りに作った……」
どうやら俺が悪いようです……。
「いや、すごいっていうのはそう意味ではなくて……」
「お前らは朝からにぎやかだなぁ。ワシはまだ寝起きでほとんど元気がないのに……というか机がものすごいことになってる!?」
ちょうどベルも起きてきたらしい。さしもの悪魔といえど、机のこの状況には驚きを隠せないらしい。
「私が作った……。黒瀬がものすごい朝食を作れと言ったから……」
「いや、これ絶対にお前がものすごいの意味を勘違いしただけでしょ……」
「そんなことない……。言葉足らずの黒瀬が悪い……」
こいつは全面的に俺を悪くしたいらしい。
「いや、お前の理解能力が著しく低いだけだ」
「いや、ちが――『グゥゥゥゥウウ』」
またも彼女のお腹が大音量で響く。
「もう、なんでもいいや……。早く朝ごはん食べる……」
安倍聖菜はそう言ってバクバクと自分で作った料理を腹におさめていく。
「なんというか……自由な奴だな」
ベルが俺に小声で耳打ちをしてくる。
「それは俺も痛感してきたからな。同意……」
「それにしてもあの女かなりのスピードで食べ進めるよね。このままだとワシらの分残らないような……」
ふと、机の上を見ると先ほどまで大量にならんでいた料理がすでに半分ほどなくなっていた。
どんだけ食べるの早いんだよ! お前は胃袋は掃除機か!
「おい、俺達も食べるぞ。このままだとなくなるぞ」
「はいはい、わかりました。まあ、最悪ワシは悪魔だからごはんなんて食べなくても平気なんだけどね」
「じゃあ、お前は食うな」
「ちょっ、それはひどい。そんなに冷たくあしらわなくてもいいのに……」
そう言ってベルは俺の足に抱き着いてくる。全く胸がないせいで緩和剤がなく直接体に締め付けられて痛い。
何だろう……この空間。朝食を掃除機の様に吸い尽くしていく無感情な女と、冷たくあしらわれて足を締め付けてくる女……。
俺の家はいつからこんな混沌カオスな空間に生まれ変わったのだろうか。匠ですらここまでのリフォームは無理だろう。
でも決して居心地が悪いわけではない。むしろ誰かと食卓を囲んだのは久しぶりで少し楽しくも感じる。
まあ、ちょっとくらいこんなに騒がしい朝があってもいいよな。
――そんなことを心の中でひっそりと思っていた俺だった。