第八話
翌日。
またまたイザベルの部屋。
「う~ん………。」
最悪だわ。
ホント最悪だわ。
ヒガンは吐くし。
何でか知らないけど部屋中が紅茶臭いし。
作戦以前の問題よ。
…まぁ、作戦自体も切り替える必要アリ、ね。
次の作戦を考えないと。
けど、
「はぁ…。」
大人っぽいのは駄目。
子どもっぽいのも駄目。
と、いうことは、その間でいくしかない、のよね。
いっても妾、お年頃の十七歳なわけだし。
でもそれが難しいのよね…。
はてさて、どうしたらいいものかしら……。
ハナビは別として、やっぱり現在進行形で恋愛をしている乙女からのアドバイスを受けないと駄目よね。
……そんな子いたかしら。
あ、ってかもうお昼の時間じゃない!
通りでお腹が空くわけだわ。
朝からずっと恋で悩むなんて…。
「妾は今、素敵な恋愛をしてるのね…♪」
「姫、昼食をお持ちしました。」
わけのわからない独り言を零すイザベルの耳に入ってきたのは、ノック音と女の声だった。
「はーい。……ん?この声は…。」
イザベルは思うより先に扉を開けた。
「……やっぱり。」
「?」
不敵に笑うイザベルの前に立っていたのはサザンカだった。
「何が『やっぱり』なんですか??」
「……イイのがいたわ。」
「はい?」
コスモスに恋心を抱いているサザンカは、今のイザベルにとって最高の相手だった。
「そーれぇ♪」
「え、ちょ、うわ!」
イザベルは部屋の中へとサザンカを引っ張った。
「び、びっくりするじゃないですか…。いきなりどうしたんです?」
「実はかくかくしかじか…。」
イザベルは昼食を摂りつつ、わけを話した。
「……って感じなのよ。がつがつ。」
「はぁ…って、わたしは別にコスモスのこと好きってわけじゃ、」
「はいはいはい、左様でございまするか~。」
イザベルは食い気味にサザンカをあしらった。
口では否定しても、心までは誤魔化せない。
サザンカの顔は赤く染まっていた。
「と、とにかく相談されたからには、お力になりたいですけども。」
「イイ案ちょうだぁ~い♪今、まさに、この瞬間にも、恋愛をしてるサザンカちゃんのイイ案をちょうだぁ~い♪」
イザベルの口元はにやついていた。
それが余計に、サザンカの頬を紅潮させる。
「ぅ…。あ、そうです!」
耳まで赤くなった女は、手を叩き、ある案を思いついた。
「できるだけ一緒にいるようにする、というのはどうでしょう!?」
「どういうこと?」
「時間を共有するんですよ!一緒にいる時間が長ければ長い程、相手の方も意識してくれるハズです!」
気を紛らわすためか。
サザンカはいつも以上に早口だった。
「…コスモス相手にはそれをしてるの?」
「はい、もちろん!」
その早さの所為か。
サザンカは墓穴を掘った。
「あ。」
「へぇ~、ほぉー、サザンカちゃんはそうやって愛しの彼の気を惹くのね。にひひ♪」
サザンカの全身が赤くなる。
恥ずかしさで体が火照る。
「え…あ…。」
「イイ案をありがとう♪早速実践しないと!」
イザベルはサザンカをいじめるだけいじめ、部屋から出て行った。
サザンカは一人、ヘナヘナと腰を抜かす。
「あぁぁもう、何で即答しちゃうかな、わたし…。失敗したなぁ。」
頭を振り、感情を処理しようとする。
落ち着け落ち着けと自分に言い聞かす。
肌の色が戻っていく内に、サザンカはある疑問を抱いた。
「ん……実践?そういえば、もうローズとヒガンさんには、別の作戦を実践したってさっき仰っていたような…。姫が今回、違う相手を実践に選ぶとすると、その選択肢の中には、」
サザンカは、すぐさま立ち上がった。
「コスモスも含まれてるんじゃ…!」