第二話
イザベルによって召喚された四人のメイド達は、彼女から愚痴を聞かされていた。
「…それでそれからヒガンとローズがまぁたケンカしてうんざり!」
「はぁ…。」
サザンカは相槌とも溜め息とも取れる吐息を漏らした。
「それでそれでナズナったら妾のドレスを見惚れるどころか、よくわっかりまって~ん、ってうんざりうんざり!歯切れが悪いッたらありゃしないわ!」
「…はぁ。」
サザンカの歯切れの悪さに触れることなく、イザベルは怒りを女達にぶつけた。
「もう…そうだわ、城の男達は全員、全身つるつるにさせましょう。そうすればローズはハゲになるし、ヒガンも髭を伸ばせなくなるわ。」
男達が揉めた原因は、そこではない。
ことの発端はヒガンの態度が原因だ。
サザンカは今度こそ溜め息を吐いた。
「あたし兄ちゃんがつるっつるなの見てみたい!」
ヒガンのことを兄と慕うハナビは、無邪気だった。
特に血が繋がっているというわけではないが。
幼き女王、イザベルよりも、彼女は齢が五つも下だ。
十二になったばかりの、あまりに少女なハナビは、歯をむき出しにして笑った。
「ハナビも妾のつるっつる法案に賛成?」
「うん!つるっつる、つるっつる★」
「つるっつる、つるっつる♪」
「「つるっつる、つるっつる♪★」」
二人は手を取り合い、その場でくるくると回った。
再び吐かれたサザンカの溜め息は、先程よりも大きかった。
と、ふと、彼女の中である疑問が生まれた。
「ん…?ちょ、ちょっと待って下さい!男達全員って…もしかしてコスモスもその中に含まれてます?」
「当たり前じゃない。何で?」
「それは、その…。」
コスモスを巻き込まれたら、困る。
その想い故の発言は、女二人をにやつかせた。
「「…ふ~ん。」」
「え、え??」
「恋する乙女は妾だけじゃないってことね~♪おほほほほほほほ!」
「キャー、わーキャー!サザンカのお姉ちゃんキャー!!」
「違っ、わたしは、その…。」
頬を赤らめる女、はしゃぐ女王と少女。
彼女らは突如聞こえてきた軽快な音に反応し、その出所の方向を向いた。
ユリが手を打ち鳴らしたのだ。
「はいはいお嬢様。そんなにはしゃいでは、定例会議までにばててしまいますわよぅ?」
「だってユリー。」
「ト・コ・ロ・で。お嬢様。」
ユリは右腕を挙手するかのように伸ばし、人差し指を天井に向けた。
「お嬢様はハリソン様がお好きなのでしょぅ?」
ユリは右手の形を変えずに、イザベルの眼前に持ってくる。
イザベルは思わずそれに注目し、ユリの話を聞いた。
「え、えぇ。」
「もしハリソン様がつるっつるになったらどうします?」
「困る!」
ユリは、指をさらに近づける。
「でしたら、サザンカの気持ちはおわかりになられるかと思います。」
「う~ん、そうね。じゃあヒガンとローズだけつるっつるに、」
ユリは、指を遠ざける。
イザベルはまた、それに見入り、黙る。
「そ・れ・と。もしヒガンとローズがつるっつるになって、もぉし二人のどちらかを好きな人いた場合。その恋する乙女は好きな人を見てどう思うと思いますか?」
「困ると思う!」
「では、つるっつる法案はナシにしましょぅ、ね?」
ユリはこの場にいる女の中では最年長だ。
ハナビに至っては、倍も年齢が違う。
年長者らしく、ユリは女王を諭した。
「でも~…。」
「ともかくだ。」
ユリの指を下ろしたのはサクラだった。
騒ぐと古傷が痛むと言わんばかりに、彼女は顔面の右側を押さえていた。
彼女の右目には、真っ白な包帯が巻かれていた。
常にそれは巻かれているため、この場でも誰も意に介さない。
「その…何だ、『つるっつる法案』か?それは置いといて、私達が呼ばれたのはお嬢の着替えのためだ。今はそっちに集中してくれ、お嬢。」
サクラはユリより年下であるが、メイドとして勤めている年月は、イザベルに仕えている年月は、遥かにユリよりも長い。
「…サクラがそう言うんだったらそうするわ♪」
ユリの説得も影響しているのであろうが、イザベルはサクラの鶴の一声をすんなりと聞き入れた。