第一話
昔々あるところに。
一人の女王がいました。
名をイザベル・ロウというその女王は、天真爛漫で毎日毎日贅沢三昧…。
国民はそんな彼女のせいで、厳しい生活を強いられていました。
女王は国民達に、あんまり好かれてはいませんでした。
そんな中、女王は隣の国の王子、ハリソンに恋をしました。
「ふふふ♪」
幼き女王は、己が部屋でくるくると回ってみせた。
それは何のために?
今、目の前に侍らせている執事達に見せるために?
違う。
ただ、機嫌が良かったから。
ハリソンに今日会えるのが嬉しくて、その気持ちを抑えることができなくて、
回った。
見守る四人の執事の内の一人、ナズナは、恋する少女を見て微笑んだ。
「イザベル様、今日は一段と機嫌が良いですね。」
「だって今日は久しぶりにハリソン様に会えるんだもーん!うふふ♪」
女王の喜びは、自分達仕える者にとっても喜び。
「イザベル嬢、貴方の笑顔を見ているとワタシも自然と、笑みが零れてしまいます。」
優しい笑みで、イザベルに紅茶を差し出すローズの形は紳士的だった。
「ふふ、ありがと。」
「けどよー、イザベルのお嬢さん。」
そんなローズとは対照的に、シャツのボタンを中途半端に開け、綺麗な衣服を雑に扱うヒガンの姿は、この場に似つかわしくなかった。
ヒガンは馴れ馴れしく、ローズの肩を掴んだ。
「会えるっつっても定例会議だろ?個人的な会話なんて、できねぇぜ?」
「それでもいーの!……うん、ローズが淹れてくれるお茶はやっぱり最高ね!」
一応は、ヒガンもイザベルから信頼を得ている、執事の一人である。
故に、彼の格好、言動を、彼女は咎めない。
だが、それでも、腹が立つモノは腹が立つ。
そう言わんばかりに、ローズはヒガンの腕を払った。
「ヒガン……いつも言っているでしょう…?貴方のその野蛮な態度、イザベル嬢に対して失礼ですよ…!」
売られたケンカは買うのが男。
そう思う短気なヒガンは、ローズに応じた。
「あ?何か文句あんのか?…つーかお前のその髪。伸ばしっぱなしで不潔過ぎて、野蛮以前の問題だと思うけどなぁああ?」
「では髭はどうなんです?ご立っっっ派に伸ばして。不潔以前に似合ってませんよ。」
「んだとコラぁ!!」
双子の兄と、ヒガンの間に割って入ったのはコスモスだった。
彼の長髪はローズとは異なり、しっかりと髪どめでまとめられていた。
「ちょっと二人とも、姫君の前ですよ!特に兄さん、いつもいつもヒガンさんに対して……いい加減にしてよ!」
彼ら三人の行動は、イザベルの中の秩序を乱した。
苛立ちを隠すことなく彼女は、
「あぁもう、うるさぁあい!!」
「「「あっつぅうう!!?」」」
執事達に淹れたての紅茶を撒き散らした。
完全にコスモスに関してはとばっちりであるが、一国の王はそんな些細なことは気にしない。
「もう…騒がしいったらありゃしないわ。まぁいいわ。」
溜め息を吐き、呼吸を整えると、イザベルはナズナの前に立った。
「ねぇ、ナズナ。今日の妾のドレス、どうかしら?ハリソン様の心、射止められると思う??」
「え、えっと…。」
イザベルは傍目から見ても容姿端麗な方だ。
執事であるナズナが、彼女自身の美しさを心から述べることはいくらでもできよう。
が、身につけている衣装を褒める技術を、ナズナは持ち合わせていなかった。
女を、女心を知らないナズナにとって、それは高等な技術だった。
だから、できない。
「僕には、よく、わかりません……。」
「そう…。ホント、使えないわね。」
ムスッとしたその顔を見て、四人は同じことを思った。
『機嫌が悪くなったな』と。
「もういいわ、下がってちょうだい。あとそれから、サクラ達を呼んできて。」
「は、しかし、」
「違うドレスに着替えたいから、男どもは出て行ってって言ってるのよ!!察しなさいよバカ!それとも何…?」
すっ、と。
イザベルは紅茶が入ってあるポットを指差した。
「火傷したいの…?」
「「「「し、失礼しました!!!!」」」」