世界の中心
僕に関わった人は死んでいった。
小学生の頃は怪我をするくらいだったのに。中学校に入ってから、何かが覚醒したかのように多くの人が死んだ。
最初は、怖かった。自分に関わった人が次々に死んで行くのだから
でも、中学3年になって僕の心のも変わっていた。僕と関わり、僕の目の前で死んで行く人を見るのが楽しくなっていた。
わざと仲良くなり、その者が死んで行くのを見る。笑みがこぼれる
両親も例外ではない、死んでいった……いや、違うな。僕が殺した わざと必要以上に関わり、僕の目の前で車にひかれた。
その時には、御手洗 結志と仲良くなるのは危ない。と言う噂が流れ始めていた。
両親を失った僕は、お婆ちゃんに引き取られ生活をし、中学を卒業し高校生になった。
高校は、地元から離れて一人暮らしをして通う事にした。
高校の入学式の日、電車に乗って学校へ向かっていると同じ車両に同じ制服を着た男性がいるのが目に止まった。
僕の視線に気がつくと相手は僕を見てニッコリ微笑んだ。
その笑顔を見た時。この人チカンです!と電車内に声が響いた。手を掴まれていたのは、先ほどの男性。
次の駅で女性と男性は降りていくが、僕の学校のある駅でもあるので僕もホームへ降りて改札に向かって歩いて行き 駅員さんの近くを通ると。
「偶然にも僕が犯人じゃないと証明できる人がいるなんて僕はなんて運がいいんだ」そう言って、僕を見て改札を出ていく。
僕も改札を出て学校へ向かったが、その日は彼と会う事はなかった。
高校に入学してから2週間が経った。その間に僕は、次のターゲットを探していた。
そして、次のターゲットは海崎 真。
2週間で、クラスの人気者になったサッカー部のエース。
本当は、この間改札で見た男が良かった。何故なら、ああ言う運が良いと言う人ほど殺しがいがあるからだ。しかし見当たらないので、暇つぶしに海崎をターゲットにした。
海崎君。僕は名前を呼んで笑顔を作り、近づいて行く。
「ええと…御手洗だっけ? どうかした?」 海崎は、今まで声を掛けられなかった人から声を掛けられたからか、戸惑いながらこちらを見る。
「いや、海崎君って1年生なのにサッカー部のエースだって聞いてね、凄いなって」僕は心にも思っていないが、このタイプの人間はこう言えば心を開きやすい事は知っている。
「「いや。俺なんかよりも、凄い人は沢山いる。まだまだだよ」海崎は口ではそう言っているが、顔を見れば分かる。自分は特別だと感じている事が。
僕は、笑ってやりたい気持ちを抑え込み会話を続けた。
正直、仲良くなるまで時間はかからなかった。僕が声を掛けてから2週間後、海崎は一緒に遊びに出掛けた時に歩いてるところを、飲酒運転をしていた車に突っ込まれて死んだ。誰がどう見ても、ただの事故にしか見えない。
しかし、こうなった原因は僕である事は僕が1番よく知っている。
いつも通り事故の瞬間を目の前で見てショックの顔をしながら内心笑っている。
そこに、聞き覚えのある声が聞こえた。
「僕は、なんて運がいいんだ。偶然にも靴の紐がほどけていたなんて。そうでなければ僕も車にひかれていたかもしれない」
僕が、声の方を見ると。入学式の日に電車で会った男がいた。
男は。やあ。と声をかけてきた。
「偶然だね。入学式の日に電車で会った人だよね」男が声をかけてきた時、僕は不思議な感覚に陥った。
今この瞬間、僕と男以外の時が止まっている感覚。
「そうだね。あの時は、誤解が解けて本当に良かったですね」僕はそう返事をする。
男は。ええ。と言って名前を名乗った。
「自己紹介がまだでしたね。僕は御手洗 結希。君は御手洗 結志君だよね?先週、海崎君のサッカーの試合を見に行った時に聞いたんだ。偶然にも同じ苗字なんだね。よろしく」御手洗 結希はそう言って手を差し出す。
まさか、狙っていた獲物から近づいて来るなんて。僕は、相手の出した手を握って。よろしく。と返した。
その時、止まっていたと感じていた時が動き出したかのように感じた。
そこから、仲良くなるまで時間はいらなかった。
よく2人で出かけるようになり。ついに、待ち望んだ時が来た。
相手が死ぬ前に感じるゾクゾクする感覚。ニヤけそうになる顔を必死に抑え込んだ。
その時、強い風が吹き。地面に何かが落ちた大きな音がした。
きっと、何かの下敷きになったんだろう。死ぬ瞬間を見れなかったのは残念だけど。そう思って後ろを振り返る。
「今の強風のおかげで、お店の看板の落下地点がズレたんだね。そのおかげで生きているなんて」
振り向いた、その後ろには擦り傷もない御手洗 結希の姿がある。そして、またあの言葉。
僕はなんて運がいいんだ。
正直、イライラする。なんで死なない!!いつも、相手が死ぬ前に感じる感覚はあったのに!
「どうしたんだい?御手洗君、怖い顔をして」御手洗 結希の顔は、心配しているのだろうが。僕には、馬鹿にしているように見えた。
「いや、大きな音が響いたから…」と誤魔化し歩き出す。
この日は、出掛ける気分じゃ無くなった。と言って家へ帰った。
僕は帰宅し唇を強く噛みしめた。ブチッ。と音がして唇から、血がポタポタ垂れる。
なんで生きてる。僕は、世界の主役。世界の中心なんだ。僕が接すれば死ぬはずなのに、なんで死なない!
次は……次こそは!
数日後、御手洗 結希を含む数人と一緒に出掛けた。
買い物を終えてお昼を食べるお店を探して歩いていると、あの感覚。
きた!今度こそ、終わりだ。そう思って、前を歩く御手洗 結希を見る。
その瞬間、前を歩いている男の頭を鉄パイプが貫いた。
ああ。なんて残酷な死に方……快感だ。僕の顔は、つい緩んでしまい少しにやけてしまう。
目の前で死んでいく友達。
しかし、パイプが頭を貫き倒れている数人の友達の中、ただ1人立っている男がいる。
御手洗 結希だ。またこの男が生きている。なんで。
僕はにやけた顔から一転して御手洗 結希を睨みつけた。
「これだけの事故でも生きているなんて。僕は、なんて運がいいんだ。」そう言って振り向いた御手洗 結希の顔はいつもの笑った顔をしていた。
この日、警察で事情聴取を受けたが、御手洗 結希の笑顔が気になり警官の話はロクに耳に入らなかった。
帰宅してからも御手洗 結希の顔が浮かぶ。
なぜ、笑っていた…。すぐ側で人が死んだのに。それに、また死ななかった。
僕は、自分に問いかける。もちろん、僕は御手洗 結希ではないから答えは出ない。
なら次は、自分の事について考えてみる。
僕と関わり仲良くなると死ぬ。どう死ぬかは、わからない
いや、わからなかったが今回の事故で、ある可能性が出た
僕のイメージに近い死に方をするかもしれない。
事故の前日、ニュースで鉄パイプに頭を貫かれるのを見た
今思えば、僕が見たニュースの影響が大きい気がする。
なら、殺し方をある程度は選択できるかもしれない。
事故では、御手洗 結希は死なない可能性が高い。
なら、他人の手によってなら、どうか。
僕は、自分に話しかけた。
そして、イメージした。
次の日、御手洗 結希と出掛けた。
途中、お金をおろしたいんだけど。と言って2人で銀行へ入っていく。
そして、僕のイメージ通りの事が起こる。
数発の銃声と共に黒いマスクを被った者が数名入ってくる
「動くな! 抵抗したら撃つぞ」荒々しい声をあげて、従業員と客を1箇所に集める。
そして、御手洗 結希を指差し人質にした。
抵抗したら撃つぞ。と言われ僕の目の前で捕まっている。
しかし、御手洗 結希の口が動く。何を喋ったまでは聞き取れなかったが、強盗は御手洗 結希を突き飛ばして拳銃を向けた。
きた。僕のイメージしたような展開。あとは、撃たれて死ぬだけ。やっぱり、僕は凄い。
そう思った時、強盗が引き金を引いた。
しかし先程、入ってきた時に聞いた音とは、全く異なる音がなった。
そして、御手洗 結希も生きている。
「だから言ったじゃないか。そんな物じゃ僕は殺せないって。だって、僕は運がいいからね」そう言って笑顔を作る
数時間後、警察の手によって強盗は逮捕された。
僕らはその場を離れて、カフェに入った。
僕は、コーヒー。御手洗 結希は紅茶を注文した。
飲み物が届く前に、先程の銀行強盗の話をする。
偶然にも、拳銃が不発だった事が気になる。
「さっきの、拳銃の不発は凄かったね。それにしても、まるで不発になるのが分かっていたみたいだったね」僕は、驚いた顔をして問いかける。
「昔、アメリカにいた時に拳銃を扱った事があったから。それに、僕は運がいいからね」
僕は、そうなの?凄いね。と言うだけで、話を終わらした
明らかに自分の運がいい事を話しているようだったからだ
気に入らない。思い通りに死なない、御手洗 結希が気に入らない。
「そうだ、御手洗君。今夜、来てほしい場所があるんだ」
僕は、唐突に話をする。
そして、今夜0時にある場所に来てほしいと話した。
御手洗 結希は。構わないよ。と言って1度 お互い家に帰ることに。
帰宅後、僕は時間まで考えた。
御手洗 結希が死ぬ方法を。もし、自分が運が良くても死ぬとしたら、どんな時か。
1つは寿命。これには逆らえない。あとは、物理的に避ける事が出来ない場合。
例えば、高い所から落下した時。木があれば引っかかり生き残るかもしれないが…無ければどうしょうもないはず。
僕は、あれこれ考えた。 気がつくと、待ち合わせの時間が迫っていた。
僕は、立ち上がり待ち合わせ場所へ向かう。
待ち合わせ場所には御手洗 結希が立っていた。
僕は、駆け寄り。
「お待たせ。ごめんね、夜遅くに廃校舎になんか呼び出しちゃって。御手洗君と肝試しが、してみたくて」と僕は、適当な理由を話して校舎に入っていく。
そして、校舎を色々周りながら階段を上っていく。
正直、何も無い廃校舎だ。何が出る噂も何も無い。
「何も、無いね」僕は、声をかける。
何があるのかと思った。と御手洗は返事をして、ただ歩き続ける。
その時だった。僕は、あの覚えのあるものを感じた。
そう、何かが起こる前のあの感じ。
その瞬間、強風が吹き窓ガラスが吹き飛ぶ。
あろう事か、破片は御手洗 結希ではなく。この僕に突き刺さっている。
僕は、状況を把握出来ずに腕に刺さった大きなガラスを見続ける。
当然、血は床に落ちるしかなりの痛みも感じる。
さらに、割れた窓から風は入り込み蛍光灯を吹き飛す。
御手洗 結希の身体だけを上手く抜け、蛍光灯は僕の頭めがけて近づいてくる。
何本もの蛍光灯が、僕の頭に当たり割れ破片が身体中なの突き刺さる。
出血は止まらず、僕はその場に倒れ込む。
御手洗君。僕は、かすれた声で名前を呼んだ。
「助けて。痛いよ。どうして、僕が」血を流しながら、何とか声を出し、御手洗 結希の顔を見た。
御手洗 結希は、笑顔だった。いつもと何一つ変わらない顔
そして、その顔のまま口を開いた。
「短い時間だったけど楽しかったよ。」
それだけを言って廊下を歩いて階段を下っていく。
そんな、なんで。僕を見捨てるだって!
僕は、立ち上がろうとするが力が入らない。
「くそ。この僕が死ぬなんて。なんで」そう口にして、1つ気がついた。
そうか……。
廃校舎を出た御手洗 結希は校舎を振り返り。
「きっと。僕を殺す為に、沢山考えたんだね。ただそれが自分に深く関わることに繋がって死んでしまった。」そう言って校舎に背を向けて歩き出す。
「せっかく噂を聞いて会いに来たのに。それでも僕は死ねないか。これだけ運がいいと、世界を思うように動かせたりしないかな? 僕が、世界の中心か」
そう言いながら暗闇に消えていった。