第2話 女神様
「起きて下さい」
ん? 誰だ?
確か俺は、トラックに轢かれて死んで、かと思ったら素っ裸でジャングルにいて……突然美人さんに脳天から剣で叩き切られたんだ!
「あの、起きてますよね?」
「え? あ、はい起きてます」
先程から声を掛けられているから取り敢えず目を開いて体を起こした。
すると目の前に、純白のドレスの様な服装をした金髪の少女が立っていた。
そして思わず目を疑いたくなったのが少女の背中には立派な翼が付いており、良く見ると周りは何処までも真っ白な、何も無い殺風景な空間が広がっていた。
「……ここは天国ですか?」
「えっ? いや、ここは時と空間の狭間と呼ばれる場所ですけど……」
「はい?」
何を言ってるんだろうか? 時と空間って……というよりこの女の子は何者なんだろう?
「えっと、君は?」
「あ、申し遅れました。 私は生命と運命を司る女神セレスと申します」
ペコリと一礼して女の子はとんでもない事を言った。
女神って、あの女神? そういう遊びが流行ってるのか? それともこれは夢?
いや、現実逃避はやめよう、夢にしては余りにもリアルすぎる。
それにこの女の子の背中の翼、作り物とは考えられない動きで確かに羽ばたいている。
「……えっと、俺は死んだんですよね?」
今さらだけど敬語で女の子、もとい女神様に尋ねる。
「はい、残念ながら貴方は元の世界で交通事故によって亡くなりました」
やっぱり、死んだのか……でもそれなら先程のジャングルは一体何なんだ?
「けど貴方の魂がとても面白くて、私の一存でもう一度チャンスを貴方に与えました。 先程の出来事はその為です」
「チャンス? えっと、つまり俺は死んだけどまだ生きていられるんですか?」
「はい、正確には別の世界で新たに生きて行く事になります」
何だそりゃ!? え!? 別の世界が有るのか!?
ってちょっと待て、仮にそうだったとしても俺早速バッサリと切られて死んじまったよ!?
「あの、女神様? 俺ついさっき死んだんですけど……」
「それなら心配はありません。 貴方が先程の世界で生きて行くにはかなり無理があったのである能力を付与しました」
「かなり無理ってそんなはっきり言わなくても……それより能力、ですか?」
「はい、その能力とは物理的ダメージでは死ぬ事は無い、寿命以外では決して死なないというものです」
……何ですと?
それって、かなりヤバい能力じゃないか!?
「それって、つまり無敵って事じゃないですか!?」
「んー半分正解で半分間違い、ですね」
どういう事だ? だって死なないって事は何でもやりたい放題じゃないか?
「先程貴方は剣で切られましたけど、直ぐに体が再生して再び生き返ります。 それだけ聞くと確かに素晴らしいものですけど、逆に考えれば死にたくても死ねないんです。 痛覚は残っているので、例えば拷問されたら永久に、寿命が尽きるまで苦痛を感じながら殺され続けますよ?」
何それ恐い。
つうかこの女神様、幼い見た目で何つうえげつない事言うんだよ。
「だからこの能力は貴方にとって幸か不幸か、どちらとも言えません」
「……あの、能力はいらないので元の世界に戻る事って出来ないんですか?」
だって恐いもん! そんな話されてすんなり受け入れろって方が無理だろう!?
「戻す事は一応私には出来ますけど、戻った瞬間両膝の複雑骨折、右腕の損傷、内臓の大半の破裂及び口腔への逆流による窒息、その他体の細部に至るまでの骨折と打撲と裂傷によって数秒程の激痛を感じてから死ぬ事になりますから、余り推奨出来ませんけど……戻りますか?」
「ありがとうございます、能力万歳、女神様万歳」
そんな話を聞かされて戻るか!! 表情一つ変えずに淡々と説明したけど、ある種の狂気を感じたわ!!
恐い、女神様恐い。
「そうですか、では先程の世界に戻しますので、陰ながら応援していますね」
「……ここには、死ぬ度に来る事になるんですか?」
「いいえ? きちんと説明をしたかったので、今回だけここにお呼びしました。 ですから、これからは死んでも直ぐに再生しますのでここに来る事はありません」
そっか、じゃあこの女神様に会うのはこれが最初で最後って事だな。
姿勢を正して、俺は女神様に深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。 死んだ筈の俺を、形はどうであれ生き返らせてくれて」
「ふふっ、面白い人ですね……私には能力を与えるだけでこれから先は何も手助けする事は出来ませんが、頑張って下さいね」
そう言って、女神様は徐に手を俺に翳すと目の前の景色が段々とぼやけていった。
お別れだな、まだ少しだけ混乱してるけど、やるしか無い訳だ。
良いだろう、やってやる、必死こいて生きてやるよ!
……そのためにはまず先程俺を叩き切った美人さんに助けを求めるしか無いな。
よし、やるか。
目を開くと、先程のジャングルへと戻っていた。
視線を動かすと目の前にあの美人さんがいて、地面にへたり込んで何やらぶつぶつと呟いている。
恐らく俺を殺したと思って自己嫌悪しているのだろう、つまりこの美人さんは悪い人じゃないって事だ。
……まあ、いきなり目の前に全裸の露出狂が出たみたいなもんだから、持ってた剣で切りつけても仕方ないんじゃないかな?
一先ず、声を掛けてみよう。
「あの、大丈夫ですか?」
俺の声に、美人さんは飛び上がらんばかりに驚いて俺へと視線を向けるのだった。