死神
第4話です。
※話数番号を変更しました。
「……」
人通りがほとんどない小さな通りに面した一際薄暗い路地。そこに佇む顔の上半分を隠す黒い仮面をつけた少女・ナリス。
「…これで、任務完了」
そう低く静かな抑揚が極端に抑えられたような声音で呟く。その目の前には少し前まで生きていたであろうものが見るも無残な姿で倒れていた。
「……やっぱり変だ」
帰ろうとしてその場を離れてすぐナリスはそう呟く。
「何か、胸に重しがかかったような」
―今までこんなものを感じたことはなかった。なのに、ここ最近そんな感覚が襲ってくる。
「たぶん、あの後から」
―あの騎士団の人間を見たときからだと思う。ただ、好意とか対抗心だとかそんなものではないはず。だって私にはあの子がいるんですから。
そんなことを考えながら家路につく。そして、仮面をしまってから家に入る。
「ただいま」
「ナリス、おかえりー!」
家の奥から白髪の少女がナリスに飛びついてくる。
「ただいま、リアナ。変わったことはなかった?」
「うんっ。ナリスの言う通り家の中でおとなしくしてたよ。それと、誰も来たりしなかったよ」
リアナは満面の笑顔で言う。
「それはよかった」
ナリスも笑顔で返す。
「ねぇ、今日はどこに行ってきたの?」
リアナは顔を隠すようにナリスの胸元に頭をうずめる。
「心配してくれるの? 大丈夫だよ、リアナが心配するようなことにはなってないし、危ない場所にも行ってないから」
「そうじゃないの。それだけじゃないの」
「……?」
「ナリスのお仕事がどういうものなのかリアナには解らない。だけど、ナリスからする匂いがいいものじゃないって最近思うの」
―別段、今までもいい匂いだなんて言われたことはないけど、面と向かって言われたのは初めて。
「それは臭いとかとは違うんだよね?」
「うん。そういうのじゃないの。ただ、なにかを感じるみたいな…説明しにくいんだけど」
「うん、解ってる。それより、最近思うようになったってことはリアナにとっていい匂いってのに最近出会えたの?」
「違うの、いい匂いだけど、リアナが好きな匂いじゃないの」
何を想像したのか、リアナは慌てるように顔を上げて言う。
「そうなんだ…」
「あ、あの、リアナはその匂いがいいって思ったけど、別に好きとかじゃないの。だから、リアナのこと―」
「リアナ」焦ったように目を少し潤ませながら言うリアナを制し、ナリスは優しい声音で「私はリアナを悲しませることは絶対にしたくない。それに、リアナが望むことをしてあげたいって思う。だから、教えてほしいんだ。そのいい匂いってどこで感じたの?」とつづけた。
「えっと、あの騎士団の人…」
「そっか」
そう言うとナリスは微笑みながらリアナの頭を優しく撫でたあと、リアナを強く抱きしめ、
「私ね、あの仕事辞めてきたの。リアナ前から悲しそうな顔してたし、私も最近なんか違うって思ってきていたから」
―そのために、その仕事に関わるものは消してきた。
「ナリス…?」
「私ね、リアナに喜んでほしい。だから、そのいい匂いってのに私もなろうと思うんだ」
「そうなの?」
「うん。どうかな?」
「いいと思うよ。ナリスの匂いは基本的に大好きなものだけど、ナリスがそのいい匂いになったらもっと嬉しいと思うの。でも、やっぱり危ないお仕事なんだと思うの」
「うん。そうかもしれない。今まで以上にリアナには心配させちゃうかもしれない。でもね、私はこういう生き方しかできないから」
―こういう生き方でもないとこの子を守れないから。
「大丈夫だよ。リアナ生き方とかそういう難しいこと知らないけど、これだけは解るの。きっと、ナリスは素敵ないい匂いになれるって」
「そう、ありがとうリアナ」
作:葉月希与