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ルーアの日常

毎週更新企画第一弾の第一話です。

戦闘描写が微妙なのはご容赦ください。

「シュエナ帝国第一皇女、エメリ・ビアンス・クレスフィアの名において、ルーア・メイズ・アスタルを私専属の魔法騎士とする」

 帝都エメラルの中心地にそびえ立つ城――エスクード城――。白磁色の城壁に翡翠のような透き通った翠色の屋根を持つこの城の謁見室で、僕・ルーアは、騎士としての称号を授与されていた。

 跪く僕の目の前で煌びやかな装飾が施された重そうな儀式用の剣を、実に重そうにゆっくりと僕の左右の中空へ、そして眼前に振り下ろす。

「これでルーアは、私の傍にいてくれるのよね」

 一連の儀式が終わって部屋から出るとき、僕の前で静かな口調でエメリが言う。

「そりゃ、エメリの騎士だから」

 僕はそれに笑顔で答える。

「じゃ、また明日ね」

 僕の言葉にエメリは嬉しそうに微笑んで部屋を後にする。

「さて、騎士団員として、最後の任務に向かおう」


 最後の任務と言っても、何か特別なものがあるわけではなく、日常業務としての巡回があるだけだ。

 決して治安が悪いわけではない。むしろ良いほうだと思う。ただ、皇族が住んでいる土地であるからこそ、それなりの警備体制のようなものは必要なのだ。

「……ま、ほとんど散歩みたいになってるんだけどね」

 僕は程よい暖かさの空気を肌に感じながらそんなことを呟く。

「このまま何もなければほんとただの散歩だったんだけどな」

 歩いているうちに小さな路地に視線が向かう。なんとなくその辺から妙な気配がしたのだ。


    ◇    ◇    ◇


 人気の無い路地で黒髪の少女は窮地に陥っていた。なぜなら少女たちの目の前には知能がひどく低そうなガラの悪い複数人の男性が睨みをきかせ、さらには、凶暴さ溢れる鋭利なナイフをこちらにチラチラと見せつけている。

 なぜ、こんなことになったのかというと、その発端は少女の後ろで小動物のように縮こまり瞳を潤ませながら体を震わせている白髪の少女に起因する。

 始め少女らは久々に来た城下町で買い物をしていた。そんな時、黒髪の少女はふとしたことからその場を離れてしまった。そして、戻ってくると白髪の少女が知能の低そうな男性たちに無理矢理連れて行かれていた。なので、黒髪の少女は連れ去ろうとしていた男性の背中を蹴り飛ばした。すると、男性たちは激昂しだし、少女たちを追い回して、この路地に至る。

「おい、なんか言えよ」

 目の前の一人がこれまた知能の低そうな口調で言ってくる。

「……」

 黒髪の少女は服の中に隠し持っている得物を意識した。

――でも、こんなに人通りのあるところだと……。

 黒髪の少女は心の中でそう思う。そして、同時にどうこの場を乗り切るかを必死に考えていると

「君たち、そこで何をしている」

 通りの方から凛とした声が聞こえた。


    ◇    ◇    ◇


 路地に入る寸前、ガラの悪い男性が少女にナイフを向けているのが見えた。その異常さに僕は腰の剣の鞘を強く握り締め、路地に突入してその第一声を放っていた。

「あん? なんだよてめぇ」

「わざわざ名乗るのも気恥ずかしいんだけどな」僕はそう小さく呟いてからポケットにしまっている紋章を取り出そうとしたのだが、

「関係ねぇ、やっちまえ」

 男性の一人がそう叫ぶと他の男性たちが一気に襲いかかってきた。

「ったく!」

 そう言ってから一歩だけ退避したのち、すぐに剣を握り、抜くと同時に前進した。

「な」

 男性たちは、僕が体勢を反転させ少女たちを背にして向くころにようやく自分の武器が弾き飛ばされていることに気づいたらしい。

「これ以上やるというなら、シュエナ帝国騎士団として相手をしよう」

 この時の僕は少し気分が高揚していたのだろう。こんな言葉を恥ずかしげもなく言い放った。

「き、騎士団だと」

 男性たちは、そう呟いてから一目散に逃げ去った。

「お怪我はありませんでしたか?」

 僕は剣を収め少し呆気に取られている少女たちの方を向いて話しかけた。

「…魔法を使ったの?」

 黒髪の少女は何が起きたか把握しきれていないのか、不思議そうに聞いてきた。

「いいえ、剣術のみですよ。それに、騎士団として正式に名乗っていないうえに、城下町ですから、魔法は禁止されているのです」

「そうなんだ」

「でも、怪我がなさそうでよかった。よかったら、ご自宅の近くまで送りましょうか?」

 被害者である彼女らの身の安全を考えると当然の提案なのだけれど、

「いえ、大丈夫です」少女はそう言ったのち「ほら、行こ」

 そう後ろの少女に言いそのまま歩きさってしまった。

「……えっと、大丈夫だよね」

 僕はその後ろ姿を少し呆然と見送るしかなかったが、少しして通りへと戻っていった。

 こうして、僕の騎士団員としての普通の日常は終了したのだった。


作:葉月希与

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