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毒液(四)

 かれこれ、一時間も見上げていたせいで、首が下を向かなくなってしまった。

 遥か雲の上までそびえ立つ軌道エレベーター。距離にしてここから1000キロメートルはあるがはっきりと確認出来た。その姿はまるで、双竜穴から竜が宇宙に昇って行く様に見える。いや、もしかしたら逃げ出しているのかも知れない。

 こんな俺でも子供の頃はロケットが打ち上げられる度に、心をときめかせ、テレビにかじりついていたものだ。大きくなったら宇宙飛行士になってやる、なんて夢を描いていた。子供ながらに宇宙進出は、人類の未来の可能性だと信じていた。

 ところが、その何百年後人類は宇宙どころか、双竜穴と言う無菌室に逃げ込み、ウイルスや細菌の恐怖に脅え、母なる大地にさえ心を許せなくなってしまった。

 そして、双竜穴に逃げ込んで、数百年。その恐怖を紛らわすかの様に、人を殺して楽しむ程に堕落してしまった。

 俺も偉そうな事を言えた義理ではないが、少なくとも、人類に対する警告の積もりで生物兵器を盗み出し、それをばらまこうとしたのであって、決して殺すのが楽しくてやったのではない。

 総統が、人類がこうなったのも俺が作戦をしくじったためだと言っていたが、その通りだと思う。こんな人類に未来などありはしない。宇宙に出て行く勇気もなければ、素晴らしい未来を築こうとする気概も持ち合わせてはいない。あるのは、ただ与えられた時間をやり過ごすだけの忍耐力だけだ。

 かと言って今さら、ウイルスや細菌をまき散らす積もりもない。

 俺はただここには居たくないだけ。双竜穴を出て行ったところで生きてはいけない。だがそれでも、レイや総統、それにこんな人類のために体を捧げ、殺されるよりは余程ましだ。俺は自由な死を手に入れるために、軌道エレベーターを昇る。

 首を摩りながらそんな事を考えていたら、後ろから声をかけられた。

「よう。首は治ったのか」

「いや、まだ少し痛い。でも、大分とましになった」

 俺が立っているのは、かつてエクアドルと呼ばれていた国のコトパクシ山の山頂だ。

 夜まで、ここで待機して、その後、山を降りて、サリナスと言う町でグロブとミドとは別れる。


 やがて、深夜になりサリナスに向かって出発する。

 軌道エレベーターは、赤道直下のガラパゴス諸島のイサベラ島に、建てられている。島全体を軌道エレベーターの柱が占領している。

 軌道エレベーターがあるのはここだけではないのだそうだ。赤道に沿ってあちこちに建てられている。しかし、大部分の物は双竜穴の外にあり、双竜穴の中にはここと、インド半島の南側にあるモルジブ諸島にあるだけだ。俺がナーガルコイルで見た塔がそれだったのだ。

 そして、それらが、軌道上で一つに繋がり、お互いを支えている。

 モルジブの軌道エレベーターは何故か現在封鎖中で使用不可能。したがって、上に行けるのはここだけだ。

 軌道エレベーター同士が繋がっていて、お互いに行き来し、降りる事も出来るのだが双竜穴内の二つの軌道エレベーター以外は、補修していないので、使用には耐えられないと言う話しだ。

 サリナスの町は丁度、ガラパゴス諸島の東側の対岸にあり、距離にして800キロメートル。

 暗視望遠鏡でイサベラ島の様子を伺と、伝助の言った通りの厳重さだ。これでは近寄る事も出来ない。

 しかし、方法はある。最後の切り札が。風はおあつらえ向きに東風だ。

 暗視望遠鏡から目を離し、二人に向き直った。

「それじゃ、世話になったな。そろそろ行くよ」

 そう言って装甲車に乗ろうとした時、グロブが俺の腕を取った。

「待ちなよ。あんたや伝助の操縦じゃ、とてもじゃないけど、あそこまで、たどり着けないぜ。俺に任せな」

いつもの、いたずらっぽい笑顔だ。

「良いのか。死ぬだけだぞ」

「構いませんよ。この世界に未練なんてありませんから」

 今度は、ミドが笑って答える。

「それに、外の世界も見てみたい。外に出たからって、すぐに死ぬ訳じゃないでしょ。少しくらいの時間はありますよね」

「こんな所にいるより、よっぽどの暇つぶしになるぜ」

「外に出るまでに死ぬかも知れないんだぞ、それでも良いのか」

「その時は諦めるさ」

「好きにしろ。馬鹿な奴等だ」

そう吐き捨てて、俺は装甲車に乗り込んだ。


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