チームと紫の髪
次の日の朝、シロウはリリィに呼び出されていて、オドバルに朝早くから来ていた。
昨日、リストアップしたと言っていた人たちを紹介してくれるそうだ。
あまりいい予感がしなかったので、ゆっくり考えたいと言い訳をして断ろうとしたが、「大丈夫、一回会ってみれば私が紹介したいって思う気持ちがわかるから」と自信満々に言われた。
そこまで言われるとシロウもお世話になった人の提案を無下にもできないので本日こうしてオドバルに来ていた。
別にこれからシロウに行く当てがあるわけでもなかった。
だからどっちみちソロで活動しつつ声をかけるつもりだったので、これを断る理由はないのだが。
ただ、こうやってリリィさんが張り切ると面倒なことになるのをこれまでの経験上知っていただけである。
「おはよーシロウ」
シロウが椅子に座って待っていると、まるで待ち合わせたかのようにソウタもやってきた
「なんでお前もいるんだよ。仕事しろ仕事」
「昨日頑張ったから今日はお休みなんだよ。
それに、リリィさんが紹介したいっていうからどんな変り者がくるか俺も気になってさ」
ニヤニヤしながらソウタはシロウを見ている。
こいつはどうやらリリィが連れてくる人がどんなヤバいやつらか楽しみで楽しみで仕方がないようである。
「…まったく、他人事だと思いやがって」
30分程度椅子に突っ伏してまっていると、リリィさんが三人引き連れてやってきた。
その三人が傍から見ると非常に目立つので、シロウやソウタ以外にもギルドの中にいる他の人間にも好奇の目を向けられていた。
リリィさんのすぐ後ろを歩くのはタイトな短パンにレザーアーマーを着たかわいい女性である。
ぱっちりとした瞳に紫色のミドルヘアーで動きやすさを追求した装備なのか、なかなかにきわどい。
もちろんそんなことをきにするわけでもなく周囲には目もくれず歩く。
その女性の後ろを歩くのがフードつきのコードをきた人である。
フードで顔はすっぽりかくされていて遠くからではよく見えなかった。
しかし、シロウより身長は少し低いぐらいで体の線も女性の様に細くはなかったのでおそらく男性であろう。
一番後ろ、前を歩く二人とは少し距離を取って、美しい長い銀髪の女性が歩いていた。
白のロングコートに、短パンをはいて灰色の手袋をしていて右手には1mほどのロッドを持っていた。
しかしなによりも特徴的なのはその顔だろう。
鼻筋が通っており、色白で肌も非常にきれいである。
やや冷たさそうな印象を与えるような目をしているが、それも相まってより近寄りがたいような美しさを抱かせる。
シロウがいままで見たことのないような美しい女性ではあったが、まるでまわりに関心がなく生きているんだか死んでいるんだかよくわからないような印象を抱かせた。
「シロウくん、待たせてごめんね。ここで話すのもなんだからこっちにおいで」
たしかに他の人間の視線を気にしながら話すのも嫌なのでリリィさんについていくことにした。
「なぁ、シロウ。リリィさんの連れてきたやつら俺の予想通りうちのギルドでもだいぶ変り者のやつらだぞ」
「予想通りってなんだよ予想通りってさ。でも、もうついていくしかないだろ」
当然のようについてくるソウタは三人のことを知っているようであった。
ソウタからすればだいぶ変り者らしいが、シロウもずっとソロで活動していて周りにも十分変り者として認知されていた。
周り見ている人間からすれば、変り者が四人も集まっていったいなにをおっぱじめるつもりなのか気が気でなかった。
シロウ達が通されたのはギルドの応接間だった。
ギルドマスターが自由に使っていい部屋で、大事な客が来た時に通す部屋である。
存在は知っていたが入ったことなど当然なかった。
応接間の中は、自分たちがいつもいるロビーのようなぼろい椅子ではなく、革製の高級そうなイスと年季が入った立派なテーブルが置いてあった。
「こんな私用でつかっていいんですか?」と聞いたところ「私のものだからどう使っても問題ないのよ」と当然のように言った。
シロウはいつものような硬い椅子とは違ってやわらかなイスに若干の座り心地の悪さを感じた。
「今日はいきなり集めちゃってごめんね。集めた理由は伝えてあるから割愛するわね。まあ、今日は顔合わせみたいな感じかな?どうしてもその気がないなら私のことは気にしないでね」
「リリィさんに呼ばれたんで仕方なく来たけど、私がチームってあんまり好きじゃないの知ってるよね?」
「もちろん知ってるわよ?でもね、アリサちゃん。良いチームを組めれば今までより間違いなくお金は稼げるのよ?」
見るからに嫌そうな感じでリリィさんに不満をこぼすのは紫色の髪のアリサという女性である。
「それは知ってる。でも、今まで組んできたチームじゃいい思い出ないの」
早く解放してほしいと言わんばかりの態度をとるアリサを見て、シロウはなんだか遠慮がないというか自由な人だなーという印象を受けた。
「今までの運が悪かったのよ?でも、シロウくんならきっと大丈夫」
リリィはそういって期待のまなざしでシロウを見ると、アリサはこっちがどういう素性か確かめるように足の先から頭の先までジッと見回した。
「どっかで見たことあると思ったらいっつもソロでやってる腕の立つバカか」
その発言を聞いたソウタは思わずブッと吹き出した。
ソウタは一部でシロウがそのように言われているのを言っていて、言いえて妙だと思い気に入っていた。
「バカって…。まあ、たしかにソロではやってるけど」
「なんだよ気を悪くすんなって。ソロでやってる奴はたいてい過信したバカですぐに死んじまうもんだから、なかなか死なないあんたのことみんな褒めてんだよ」
そう言われると単純なものでシロウも悪きない気がした。
礼儀を知っているわけでもない、言葉づかいがきれいなわけでもないアリサがリリィにかわいがられているのはこういうところが理由かも知れない。
「ところで、大丈夫ってなんですか?話しが掴めてこないんですが?」
「あぁそれね。私がチームを組むのが一番嫌な理由は金のことなんだよ」
「金?チーム内での報酬の分配の事か?」
この手の問題は良くあることだった。
友人どうしで組んだチームなら均等に分配するが、後からチームに入った者には不当に分配を少なくしたり、男女や種族などによっても分配を差別するような輩はどこにでもいた。
それを他の人間がやめるように言っても嫌ならチームに入らなければいいの一点張りで改善はしないのである。
それでも、チームを組まないとやってられないため泣く泣く苦しい条件を飲むしかなかった。
「そう。私は見てわかると思うけど育ちなんか最悪だし学もない。
だからできる仕事は体を売るかハンターぐらいなんだよ。
それなのに、あいつらときたら、報酬が少ないというと女のくせに生意気だとか、碌に魔物倒しちゃいないやつが生意気だとか、ひどい奴だと無理矢理体すら求めてきやがる。だから、私はチームが好きじゃないんだよ。」
アリサは今まで経験した嫌なことを声を荒げながら言い、リリィはうんうんと頷いて話を聞いていた。
「アリサさんは今はどうしてるの?
ほとんどソロでやってたから碌なアドバイスできないかもしれないけど」
アリサが毒づくとたいていの男は思い当たる節があるのか、彼女のことを生意気な奴だとか思って邪険に扱う。
しかし、シロウの変わらない様子になんだかアリサは毒気を抜かれたようだった。
「今は、いくつかの比較的ましなチームに時々いれてもらってる。
でも、深入りすると碌なことにならないから固定のチームに入るつもりはないよ」
過去に、相当嫌な思いをしたのかアリサはの決意は固い。
「うーん、それでも均等な分配とはいかないのか…。
アリサさんがチームに入りたくないって思うのも仕方ないと思うけど。
こんなときに言っても信じてもらえないと思うけど、俺は報酬はメンバーで均等に分配するつもりだよ」
「だいたいみんな最初はそんな風に言うんだよ。
私がチームでするのは偵察だったり、あんたのような主攻役の補助とかそんなもんよ。それを知ると手のひら返しでお前は魔物を殺してないとか、そんなこと誰でもできるとかひどいこと言ってくんだよなあ」
主攻や魔術師、治癒士がチームでは重宝され、偵察や補助などの役割を軽んじるという傾向は確かにあった。
もちろんそんなことをするチームは上位のチームにまで上り詰められない下位でいきがっているチームばかりだった。
魔物の襲来に気付くのが遅れるほどチームは危機にさらされる。
それがわかっているのならけして偵察・補助の役割の人間を軽んじることはないだろう。
逆に言えば、そんなこともわからないが故にいつまでたっても下から上がってこれないのである。
ケチって小銭を稼いで優秀な補助役を手放すのはまさに愚か者である。
むしろ強いだけの人間なんて探せばいくらでも見つかるが、優秀な補助役ほど上のチームに確保されていて得難い存在である。
もちろんシロウもそんなことは重々承知である。
「アリサさんの実力を見てないからなにも言えないけど、実力があるならそんなひどいことしないよ。むしろその役割がちゃんとこなせる人材こそ貴重だよ」
「口ではなんとでも言えるさ。まあでも、世話になったリリィさんの提案を無視するなんてできないし、少しは付き合ってやるよ」
シロウの提案にアリサの気持ちはいっさい揺れ動くことはなかった。
アリサの実力がどうかは知れないが、たしかに変り者…というか頑固者のようである。
こういう相手にはこの場でいくら口で言ってもたいてい無駄で、行動でしっかり示すしかなかった。